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山田裕仁のスゴいレース回顧

【金亀杯争覇戦 回顧】繋がる“恩義”が勝利を引き寄せる

2021/01/25 (月) 18:00 5

ラインや同期との絆を力に変え、見事に記念競輪初優勝を飾った松本貴治選手

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんによるグレードレース回顧。今回は松本貴治選手が初の記念競輪優勝を果たした金亀杯争覇戦の回顧をお届けします。

2021年1月24日 松山12R 開設71周年記念 金亀杯争覇戦(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①橋本強(89期=愛媛・36歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・30歳)
③松浦悠士(98期=広島・30歳)
④松本貴治(111期=愛媛・27歳)
⑤東口善朋(85期=和歌山・41歳)
⑥島川将貴(109期=徳島・26歳)
⑦坂口晃輔(95期=三重・32歳)
⑧渡部哲男(84期=愛媛・41歳)
⑨渡邉一成(88期=福島・37歳)

【並び】
←②⑤(混成)③⑦(混成)⑨(単騎)⑥④①⑧(四国)

【結果】
1着 ④松本貴治
2着 ①橋本強
3着 ⑧渡部哲男

S級S班の「5番手争い」が勝負を決定づけた

 1月24日(日)に松山競輪場で行われた、「金亀杯争覇戦(GIII)」の決勝戦。シリーズを通して、地元選手を盛り上げよう、応援しようというムードが感じられましたね。その期待に応えて、地元である四国地区の選手は4人が決勝戦に勝ち上がり。それとは対照的に、その他の地区の選手はバラバラで、混成ラインや単騎での勝負となりました。

 競輪界の“横綱”であるS級S班からは、松浦悠士選手(98期=広島・30歳)と郡司浩平選手(99期=神奈川・30歳)が出場。初日の特選からこの2人がワンツーを決めるなど、存在感を発揮していました。チーム一丸となって記念優勝を狙う地元勢に対して、S級S班の2人がどのような戦略や戦術で戦っていくのか。選手はもちろん、車券を買う側のファンも、それを考え続けた4日間だったと思います。

 注目されたのが松浦選手のデキ。前に走った和歌山記念は、優勝して今年の好スタートを決めたとはいえ、調子はよくなかったですから。さて今回はどうかーーと初日の特選から走りをチェックしていたんですが、今回かなり調子を上げてきましたね。中団からいいレース運びをして先に捲った郡司選手を、ゴール寸前でキッチリ捉えたあたりに、しっかり身体をつくって立て直してきた気配が感じられました。

 郡司選手も調子は悪くなかったと思いますが、それでもまだ少し身体が重いというか。3連勝で決勝に駒を進めた松浦選手より、勝ち上がりにも苦労していた印象でしたね。本当にいい時に比べるとまだまだですが、それでも結果が求められるのがS級S班の選手。郡司選手が中団をとった場合には、前をかわいがるのではなく、早めに四国勢を潰しにいくような走りをするのではないかーーという期待もあったと思います。

 そして決勝戦。島川将貴選手(109期=徳島・26歳)が先頭を任された四国ラインの先行は、まったくの予想通りですよね。この「並び」を壊しにいくような選手は見当たらず、四国ラインの後ろ、つまり5番手を松浦選手がとるのか、それとも郡司選手がとるのかが、決勝戦の“争点”となりました。強力な四国ラインに対抗するには、後方になると届かないので、絶対に5番手が欲しいですから。

 赤板(残り2週)で先に動いたのは松浦選手。しかし郡司選手も、そう簡単には前を切らせまいと突っ張ります。つまり「自分が5番手を取る」ためのせめぎ合いですね。ここでSS級の両者がもつれ、ペースが少し緩んだところを見逃さなかったのが島川選手。全速でのカマシ先行で一気に主導権を握って、5番手以降を大きく引き離します。こういうカタチになってしまった時点で、松浦選手と郡司選手は厳しかった。

 この島川選手のファインプレーで、大きなアドバンテージを得た四国ライン。最終2コーナーからは、松本貴治選手(111期=愛媛・27歳)が渾身の番手捲りを打ち、後続もそれにしっかりとついていきます。松浦選手と郡司選手は伸びを欠き、後方でじっと脚を温存していた渡邉一成選手(88期=福島・37歳)が3コーナーから伸びてきますが、それでも前を捉えるには至りませんでした。

 優勝は、番手捲りから押し切った松本選手。これがうれしい記念初制覇となりました。もともと素質や能力を感じさせていた選手が、巡ってきた大チャンスをしっかりモノにしましたね。そして、2着に橋本強選手(89期=愛媛・36歳)、3着には渡部哲男選手(84期=愛媛・41歳)と、松山がホームバンクである地元・愛媛の3選手が上位を独占。「徳島+愛媛」のチームプレイが、S級S班を見事に退けています。

 この結果を作り出したのは、愛媛勢にラインの先頭を任された島川選手の果敢な走り。その背景には、準決勝で「佐々木豪選手(111期=愛媛・24歳)の番手から勝負して決勝戦に乗れた」というのがあります。松山がホームバンクで、しかも同期でもある佐々木選手から受けた“恩義”を返すために、今度は自分が愛媛の選手のために全力で走った。そして愛媛の選手たちも、島川選手から渡されたバトンをしっかり握り、ゴールまで駆け抜けた。そういった繋がりが結実した決勝戦だったといえるでしょう。

 こうして松山記念は終わりましたが、競輪という競技はこれからもずっと続いていく。ですから皆さん、この結果をぜひ覚えておいてください。島川選手のおかげで地元の記念を勝てた松本選手が、彼に恩返しをするシーンがどこかで必ず出てくる。どちらもまだまだ伸び盛りで、しかもいい素質のある選手です。松浦選手と清水裕友選手(105期=山口・26歳)のように、互いに切磋琢磨する関係になるかもしれません。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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