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山田裕仁のスゴいレース回顧

【倉茂記念杯 回顧】強さとは目の前の“勝機”を逃さぬこと

2021/01/18 (月) 18:00 5

3着の鈴木選手(7番車)には勝利にこだわった競輪をして欲しかったが…

現役時代はトップレーサーとして名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんによるグレードレース回顧。今回は大宮競輪場で開催された倉茂記念杯の回顧をお届けします。

2021年1月17日 大宮12R 東日本発祥72周年 倉茂記念杯(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①平原康多(38歳・87期=埼玉)
②佐藤慎太郎(44歳・78期=福島)
③清水裕友(26歳・105期=山口)
④森田優弥(22歳・113期=埼玉)
⑤東龍之介(31歳・96期=神奈川)
⑥合志正臣(43歳・81期=熊本)
⑦鈴木庸之(35歳・92期=新潟)
⑧河野通孝(37歳・88期=茨城)
⑨岩本俊介(36歳・94期=千葉)

【並び】
←④①②(関東+福島)③⑥(混成)⑨⑤(南関東)⑦⑧(関東)

【結果】
1着 ①平原康多
2着 ②佐藤慎太郎
3着 ⑦鈴木庸之

 1月17日には大宮競輪で、「東日本発祥倉茂記念杯(GIII)」の決勝戦が行われました。大宮がホームバンクの平原康多選手(38歳・87期=埼玉)など、ここに出場したS級S班の3選手はすべて決勝戦に進出。関東からは4選手が勝ち上がりましたが、埼玉勢とそれ以外でラインが分かれて、ここは4分戦に。佐藤慎太郎選手(44歳・78期=福島)は単騎ではなく、埼玉コンビの3番手を選択しました。

 このレースを制したのは、地元の英雄で、関東を牽引する存在でもある平原選手。ファンからの圧倒的な支持に応えての完勝でした。大宮記念はこれで通算8回目の優勝で、昨年に続く連覇も達成。大きなプレッシャーがかかる地元の記念を、これだけ勝っているというのは本当にすごいことですよ。立川記念でも感じられた調子のよさを、しっかり維持して臨んできたという印象です。

 初手の並びや展開は、おおむね予想通り。赤板(残り2周)を過ぎても動きはなく、静かにレースが進んでいきました。レースが一気に動き出したのは打鐘からで、まずは鈴木庸之選手(35歳・92期=新潟)が位置を上げて、前を抑えに。続いて岩本俊介選手(36歳・94期=千葉)がその動きを切りにいきますが、ここで仕掛けるタイミングをうかがっていた森田優弥選手(22歳・113期=埼玉)が叩いて、スパートを開始します。

 最終ホーム手前で一気に先頭に躍り出て、4番手を鈴木選手が確保。そして最終バックでは、清水裕友選手(26歳・105期=山口)が6番手からの渾身の捲りで、3コーナー手前で平原選手に並びかけます。しかし、これを「待って」いた平原選手には、まだまだ余裕がありました。ギリギリまで引きつけてからの番手捲りで先頭に躍り出ると、直線でもしっかり伸びてゴールイン。まったく危なげない内容での“完勝”でした。

 2着は、平原選手マークの佐藤選手。調整が難しい「グランプリ明け」でもあり、けっして調子がいいとはいえませんでしたが、しっかり2着を確保するあたりはさすがですね。そして3着に、佐藤選手の後ろから流れ込んだカタチの鈴木選手。厳しい展開のなか、捲る競輪で勝ちにいった清水選手は、最後は力尽きて8着に終わっています。

 つまり、いちばん強い選手が、いちばん楽な展開となり、しっかりと結果を出した。もう、何もコメントする必要がないほどに順当な決着です(笑)。地元の後輩である森田選手が、平原選手の強さを引き出す走りをするのは当然で、④①②というラインになった時点で逃げるカタチになるのも濃厚。調子のよさを感じる自力選手もいましたが、結果的にはほとんど存在感を発揮できないままでしたね。

 そういう意味で残念でもあり、ファンの期待を考えると少し不甲斐ない内容だったのが、鈴木選手の走り。立川記念でも感じましたが、彼はこのところ本当に調子がいいんですよ。しかも、平原選手とは「別線」となったことで、清水選手や岩本俊介選手(36歳・94期=千葉)の動き次第では、優勝できるチャンスもあった。しかし今回、そのチャンスをまったく生かせずに終わってしまっているんです。

 もちろん、同じ関東とはいえ平原選手や森田選手は「地元」ですから、自分がレースの流れを壊すような動きをするとなると、多少のためらいは生じるでしょう。しかし、勝負事には“流れ”がある。自分の前に転がってきた勝機を逃してしまうと、次の機会はそうそう簡単には訪れません。下手をすると、二度と巡ってこない可能性だってある。転がってきた勝機を逃さずにもぎ取れる選手が、記念や特別で勝てるのです。

 だからこそ鈴木選手には、ここで上位に食い込む競輪ではなく、イチかバチかで勝ちにいく競輪をしてほしかった。実際に清水選手は、厳しいレースになるのは承知の上で、勝ちをもぎ取りにいく競輪をやっています。これでこそS級S班、これこそがトップ選手。敗れたとはいえ見せ場は十分に作っているわけで、車券を買って応援してくれたファンを納得させられる走りだったといえるでしょう。

 準決勝を豪快な捲りで勝ち上がった清水選手は、一見調子を上げてきたように見えたかもしれません。しかし、本当にいいときの彼を知っている人ならば、まだまだ“本物”ではないな-ーと感じたのではないでしょうか。逆に平原選手は、グランプリの後に地元の記念が終わって、ようやくひと息つけるというのが例年のサイクル。身体面だけでなくメンタル面でも少し緩むだけに、コンディションをどう立て直すかが注目ですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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