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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】バンクレコード樹立の裏話 中川誠一郎「九州の伝統なんですよ」 ♯9

2022/01/29 (土) 18:00 35

2022年、新年早々あっと驚く芸当で競輪界を沸かせた中川誠一郎。更に進化し続ける、脚より気持ち100%の男が、大好きなお酒を楽しみよもやま話。競輪の魅力をそれとな〜く紐解きます。【構成=塩次洋太(大阪スポーツ)】

ーー1月8日の佐世保FI準決勝で大記録を樹立しました。山崎賢人選手の番手から抜け出して上がりタイム10秒7を記録。22年ぶりのバンクレコード更新です。改めておめでとうございます。しかも優勝まで。年初から好スタートを切りましたね。

 このコラムのキャッチコピーの「競輪偏差値70の男」を「1月にバンクレコードを出す男」に変えようと思いましたよ。1月のクソ重い走路でバンクレコードなんて聞いたことがない。自分で言うのもアレですが完全におかしいです。

ーー前を任せた山崎賢人選手との新旧ナショナルコンビの競演は見どころがありました。

 でも準決は危なかったんです。賢人が強いし御の字で楽勝だと追走していたら、最終2コーナーあたりで、まずいこれは届かないやつだ!って気づいて。ハメられた、これ、オレ4着するやつじゃんと思いながら走っていました(笑)。

ーーさすがにハメようとはしていないでしょう。おかげで番手の選手の気持ちがわかったのではないですか。

 そうなんですよ、これ自分だけじゃんて思って(笑)。だから車間を切って外差して2センターから鬼のように踏み上げました。そうしたらバンクレコード。後から荒井(崇博)さんにも「準決は飛んだと思った。あんなところから普通は来ないぞ」と言われた。特にまくりの出ない佐世保ですから。

ーー改めて分析してみて、なぜ好タイムが出たと思いますか。

 バンクレコードを2人で共同制作するのって、九州の伝統なんですよ。荒井さんが平塚、(井上)昌己が松阪のバンクレコードを持っていますが、両方ともオレのまくりを交わしているんです。

新旧ナショナルコンビの競演! 山崎賢人選手(左)と

ーー山崎選手は地元Vを逃してしまいました。どういう会話がありましたか。

 決勝の賢人は何か変にヤル気だったんです。レース前にいきなり「突っ張ります」とか言い出してきて。即座に「突っ張らんでいい」って返しましたよ。

ーーかわいい後輩にノビノビ走って欲しかったんですね。無理強いをしないのは中川選手らしいです。

 いやいや、そんな良いもんじゃないんです。たとえ突っ張り切っても香川雄介さんが降りてくるでしょ(笑)。あんなところで降りられたらワンツーどころか6、7着になる。レース中は早く赤板で誰か押さえに来てくれと願っていたんです。さっさと引きたいから。そうしたら外併走しているし、これ突っ張るやつだ! あ〜、終わったと覚悟しました。

ーー山崎選手の男気先行を、そんな後ろ向きな気持ちで追いかけていたんですね。

 結果オーライでしょう。意外と誰も来なかったから。(小川)真太郎と併走になったけど正月だからか、降りそうで降りてこなかった。とても優しかったです。

 そもそも(山崎の)地元だし、昨年末の記念を走っていないんだから、獲りに行けばいいとずっと言っていたんですよ。でも何か…出し切りたかったのかな。賢人もナショナルチームに入ってあちらの雰囲気が染み付いてきたのでしょうね。

ーー山崎選手の話とリンクしますが、最近は有望な若手や新人が続々と出てきています。ナショナルチームとの両立を目指す選手が増えてきていますがOBとしてどう見ていますか。

 この間、121期の早期卒業が2人(中野慎詞、太田海也)出たでしょう。両方ともナショナルチームにいるとの話を新聞記者の人から聞きました。

ーー太田選手はボート競技から入り、自転車競技歴はわずか2年だそうです。

 それはすごいですね、天才の匂いがする。だけど、昌己の方がもっとすごかったですよ。

九州地区に残る伝説を持つ“天才”井上昌己選手(中)

ーー井上選手は天才肌というイメージで通っていますね。デビュー前からそんな雰囲気があったのですか。

 初めてハロンを計ったら11秒台前半が出たって伝説が九州地区に残っています。ちょっと走ってみろよって言われてフラっと計ったら出たみたいで。ありえないことなんです普通。ちなみにオレも2、3カ月ぐらいで出ましたが。

ーー今、しれっと自慢を挟み込んできましたね。

 1000mの独走は3カ月で1分9秒台が出ました。十分、合格レベル。すごいでしょ。あ、もう今回は自慢大会でいいですか(笑)。

ーーバンクレコードの余韻に浸りたいのはわかりますが、誇らしく自慢できることってあるのですか。

 まさにバンクレコードですよ。佐世保の他に宇都宮と前橋のを持っているんです。3個も持っているなんてボスとぺルビスぐらいで、日本人じゃオレだけ。宇都宮も前橋も自力でした。まだギア規制の無いころで、前橋はよりによってぺルビスの8秒9を塗り替えてしまった。普通、外国人の記録は抜けないですよ。

ーー自慢話になると途端にイキイキしてきましたね。お酒も進んでいます。

 まだあります、あります。1kmタイムトライアルの日本記録を持っているんです。昨年末の全日本トラックで新田(祐大)に破られそうになったけどギリギリ耐えた。1分0秒1何とかを出したんらしいんですけど、オレのタイムが1分0秒0何とかなので。59秒台を出す人が現れるまでは自慢できます。ああ、酒がうまい。

ーー完全にイヤミな自慢男キャラになっていますよ。

 さらに足すと、2,3年前までハロンの日本記録も持ってましたワタクシ。でも、バンクレコードを更新しても、もらえるのって2万円なんです。雨敢(雨天敢闘手当)に換算すると5回分って、これ価値と釣り合わないですよ。22年ぶりに更新したのに2トン(中川は「万円」単位をなぜか「トン」と表現する)。だから裏ドラみたいなもんで。狙って出せるものでもないし、あっ乗ったなって。今回だって優勝にタマタマ付いてきたようなものですよ。

ーートータルで言えば実りのある佐世保開催だったってことですね。

 そういえば、佐世保で解説者の平尾(昌也)さんが「コラム面白いよ」と褒めてくれたんです。「あれは新しいファンが増えるよ」って。その時はありがたいなと思いましたけど、よく考えたら新しいアンチファンも増えるんじゃないかって。

ーー質問コーナーに寄せられたお便りを見ると「コラムは見ますが、あなたは好きではありません」とか「コラムは見ますが、決してあなたの車券は買いません」って方がいます。

 そういうのは前からあることなので慣れています。現地のヤジにも通じるじゃないですか。新人じゃあるまいし、心は動きません。

ーーいつも思いますが、生きていく上で、よほどのことがない限り戦わないスタイルなんですね。

 だからSNSとかも名前を出してやらないんです。冗談が通じなかったり、ちょっとした言葉のチョイスや表現に対して、鬼の首を取ったように言ってくる人がいるでしょう。不寛容に対してエネルギーを使うのが嫌なんです。

 それに、このコラムという戦う場所もできたので(笑)。一方的に言うだけで反論は受け付けないって身勝手ながら最高の舞台を用意してもらって。ようこそ寛容ですよ。

秘めたる目標を持っている!? 荒井崇博選手(右)と

ーー佐世保の後は月末の高松記念までかなり間が空きました。何をして過ごしていましたか。

 家でウエイトをやりつつ、武雄に行って荒井さんたちと乗り込んでいました。バンク練習する機会は貴重なので、集中してできました。

ーー荒井選手にはこのコラムの存在は知らせたのですか。

 言うわけないでしょ(笑)。今回も色んな話をしましたが、今年はどうやらタイトルを狙っていそうな匂いがします。

ーー荒井選手は去年の後半から怒涛の勢いですね。いま九州で一番強いとの声もあります。

 だから、酒の席で「タイトルホルダーのボクのアドバイス的には〜」って上から言わせてもらいました(笑)。“すべての運をどこかのGI一本に注いでください”って。GIだけは絶対に運がいるんですよ。スキマ的に獲ったオレが言うんだから説得力あるでしょ。

ーー後輩の勢いに乗った言動を荒井さんはどう受け止められたのでしょうか。

 焼酎を片手に「わかっとる…」って。こっちが上から行ったのに逆にマウントを取り返された(笑)。荒井さんは10何年か前の高松宮記念杯の決勝で(北津留)翼の番手っていう絶好の位置があったのですが、翼が周回中にまさかの落車でいなくなったんです。本来ならあれで獲っていたはず。だから、運の大事さはよく知っている。

ーー中川選手とどちらが先に通算500勝を達成するかの対決と共に見届けたいですね。

 心の底から獲って欲しいですよ。そういえば、話は変わりますが、荒井さんから「オレもラジオ体操に行ってた頃はな〜」みたいな昔話があって吹いてしまったんです。だって、スタンプを押してもらっている荒井少年とか考えられないでしょ。思わず「荒井さんはそういうのに行っちゃいけない側の人」って言いましたよ。想像したらおかしくて、そのとき何の話をしていたか頭に入んなくなった。

井手らっきょ氏(左)のスナックにて

ーーこのコラムでは月ごとに起こった出来事をうかがっています。ただ、あまりにも激しい言葉が飛び交うあまり、その過激さが麻痺をして読む側に段々と響かなくなっている、とのご指摘を読者の方から頂きました。

 わかります。同じような話が続くと読者の人たちも飽きるんでしょう。それじゃあ、マンネリ感を払拭するには何か考えないといけませんね。

ーーそこで誰かと対談や、ある日の中川選手の1日を追いかける、みたいなドキュメントタッチなものも企画しています。中川選手は何かやりたいことはありますか。

 1日を追いかける、というのはいいですね。でも昼は基本的にダラダラしているだけなので面白くないから、熊本の夜の街を徘徊する姿を見てもらうとかいいかもしれない。

ーー寿司を食ってご機嫌なところとか、飲み屋さんで女の子に囲まれてニヤニヤしているところとかをレポートするってことですか。

 この店に行く、みたいな夜の街のルーティンってあるじゃないですか。オレでいうと井手らっきょさんのスナックとか、いつもこのコラムに出てくる寿司やさんとか。もちろん飲み屋でお下品な話をぶち込んでいるとことかを取材してくれても全然OKです。

瓜生崇智選手(左)と

ーーまさに「誠一郎と飲(や)ろうぜ」ですね。

 ただ、今はなかなか外に出られないので、コロナが落ち着いてからでしょう。ほかにもオレにこれをやらせたいとかありましたら、読者の皆さんお便りをください。

ーー例えばバンジージャンプとか護摩行とかでもいいんですか。

 さっきの荒井さんの話じゃないですが、オレがバンジーとか護摩行している姿、想像できますか? ラジオ体操ばりに笑えるし、読んでいる人は何を言っても頭に話が入らなくなりますよ。

ーー選手たちとの対談も面白そうです。リクエストはありますか。

 合志(正臣)さん、大塚(健一郎)さん、荒井さんあたりじゃないですか。小野(俊之)さんまで行くと畏れ多い。オレが緊張しちゃって、このテンションで色を出してふざけきれないと思います。

 後輩なら(山田)庸平とか。お互いに人見知りっぽいから、今まで深い話をしたことがなくてまだ未知数。人間関係をそこまで築き上げられていないから興味があります。さながら「中川誠一郎の九州縦断」ですね。あとワッキー(脇本雄太)との対談は結構いろんなところから読みたいと言われます。2月の奈良記念で会えれば聞いておきましょう!

ーー今月も質問が来ています。お答えください。

Q 「バカ川先生」や「8番手師匠」のグッズを作成したらどうでしょうか? 例えばTシャツとか。買いますよ。(東京都/30代/男性)

 バカ川先生の「バカ」は今の時代ではコンプライアンス的に引っかかりそうですね。だけど「8番手師匠」は大丈夫でしょう。何なら千社札とかステッカーでもつくりますか。と、言っても誰もいらないだろうな。500勝したら何かグッズをつくるのでそこで考えます。

Q 朝、目が覚めたときに何らかの才能や能力が身についていたとしたら、どんな能力がいいですか?(神奈川県/30代/男性)

 これはもう透明人間ですよ。何でもできるじゃないですか。銀行に忍び込んで札束を持ち帰れるし、何か見ちゃいけないものまで見られる。あとは悪口を言っている人の真横で内容が聞けるのもいいですね(笑)。「瞬間移動」と迷いましたが。ベタな回答ですね。

Q 花粉症を気にして春を避けて飲みに誘っているのですが「今度ね!」と言われて2年ぐらい経ちました。この先どう誘えばいいですか? (福岡県/30代/女性)

 2年も空くって何かあるってことじゃないですか。自然消滅させたいのか、何かお互いに欠陥があるのか…。すごいですね、2年も我慢できるって。男は2年も我慢できないじゃないですか、たぶん。ん〜どう説明すればいいのかな。例えばオレの経験で言うと、元カノが…あ、やっぱここではしゃべれませんね。止めておこう。

Q 中川選手の Wikipedia には、 2018年春に「追込転向宣言」をしたが有耶無耶のままとなり…とあります。 また、当時の月刊競輪には「気の迷いから発した突発的な宣言」との論評が。今後、転向することはありますか? (北海道/40代/男性)

 先日、自分の Wikipedia を見たんです。そうしたら衝撃的なことが書いてありました。「通称・ミスターサイクリング」って。何だよ、それ。誰が付けたんだよって超笑ったんです。何なら PIST6 のキャッチコピーを変えてもいい。ビビったぐらい笑ったし、レベルが高い。

 付けた人には何か賞をあげたいぐらいですよ。だけど、名付けた人はサイン入りのグッズとかは嫌がると思う。この人、絶対にアンチですから。オレのものは要らないし差し障りなく、どっかの競輪場のクオカード10枚とかの方が喜ぶでしょうね。

 あとご質問の件ですが(自分の) Wikipedia の内容量が多すぎて、追込宣言のくだりが見つけられませんでした。あ、これも自慢みたいになっていますか。やっぱり今回は自慢シリーズですね。

Q 息子2人が競輪選手をやっております。次男坊が昨年末の競輪グランプリに出場できませんでした。落車も多く、クルマのローンもあるのではないかと思うと心配でなりません。親ばかと言われてもいいです。京都にいるときは“しのぶ”と呼ばれてもいいです。(岐阜県/50代/男性)

 ヤマコ…いや、この方はたぶん、グランプリを2回制していらっしゃるのではないでしょうか。相談なのか単なる報告なのか小林旭さんの歌が好きなのか…。岐阜、大垣競輪あたりにいらっしゃる浜口(高彰)さんにでもご相談なさってください。

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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