2022/01/24 (月) 12:00 18
当サイトには「すっぴんガールズに恋しました」というえげつないタイトルで、42歳(ほぼ初老)にして青春を謳歌している方がいる。うらやましい限りだ。本コラムのタイトルは話し合いの中で決まったもので、直線的に担当の方に決めていただいたもの。ありがたい話なのだが、当時私の中には「すっぽんボーイズを愛してる」という、奇遇にも「すっぴん〜〜」と音韻の近い名前でマーク屋賛歌のコラムを…という考えも、実はあった。
だが時代じゃない。懐古趣味的なものばかり書くのも、当サイトの“競輪を、競輪を知らない人たちに広めたい”という意志とそぐわない。現状は競輪の現在と、私が取材してきた中で見てきたもの、を書かせてもらっているが、大宮記念(東日本発祥倉茂記念杯)でハートを射抜かれた。
佐藤礼文(30歳・茨城=115期)。アメフトから転向してきた“危ない転校生”。爆裂だった。すっぽんボーイ…。
チャレンジ時代から荒々しく、持ち味は失格という男。よくはないのは確かでも、そこで魅せるものがあったと多くの人が感じていただろう。しばらく前に「芦澤大輔(39歳・茨城=90期)や茨城のマーク屋の系譜に連なっていく」という内容の原稿を書いた時、後で「いや、恐れ多いっすよ」と恐縮していたが、みんなの期待に応える走りを大宮で見せてくれた。大宮、というのがよかった。
上記に名前を出した芦澤が“鬼のアシザワ”となっていくころ。2010年の大宮記念で決勝に勝ち上がった芦澤は、関東5番手を回った。その位置を固めた形だが、血気にはやる芦澤は番手勝負を鉄則としていく中で、本当は違う位置で勝負したかったようだ。
決勝のメンバーが揃った後、色々な人に相談して、「5番手です…」と検車場に降りてくると、奥歯をかんだままコメントしていた。目は真っ赤だった…。佐藤がこれからどういう戦いをしていくかは、まだわからないものもある。ラインの先頭で、というケースもまだあるだろう。関東でいえば、小林令(25歳・山梨=109期)が、佐藤のひとつ前を歩む形。小林は、『ラインで決めること』と『番手選手として』の2つを一つにまとめあげようと苦心の最中。しかし、ものにすれば大親分にもなれる存在だ。
関東が盛り上がる中で、こうしたマーク屋気質の2人がどういった立ち位置になって来るか、非常に興味深い。すっぽんボーイズ、たまらない!
立川記念では尾形鉄馬(31歳・宮城=107期)が番手勝負を繰り返していた。結果には結びつかず、また最終日には一つのレースで2回の失格を喫(きっ)してしまった。2日目に競りを挑んだのは加倉正義(50歳・福岡=68期)。加倉はいろんな意味で難しそうにしていた。
「今じゃない…。今のオレのところに来ても…」。
加倉は昨年秋から体調を崩し、状態は全く…の時。「この状態のオレのところに来てもね…」。パリっとした状態の時に、挑戦を受け切れないという歯がゆさもあっただろう。尾形としてはただガムシャラ。加倉はその気持ちが痛いほどわかるだけに、もっといい形で挑ませたかったという思いだった。
歴代のマーク屋は、新しいマーク屋に挑まれるのが定め。芦澤は加倉はもちろん、名うてのマーク屋とガンガン競ってきた。番手の仕事も失格するほど(本当はよくないが…)やってきた。7車立て、で勝負権がないので競りというケースはよく見られる。だが、それをスタイルとしては、やはり成り立ちづらい。
精神的にも苦痛を伴う番手勝負の道。2022年、どんなマーク屋の物語が生まれるのか、私もすっぽんのようにそのドラマに噛みついて、深く味わいたい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。