みんな楽しく予想ができる それがKEIRINグランプリ

東京スポーツ 前田睦生記者(以下前田)　KEIRINグランプリの傾向についてなんですが、これがまた難しいんですよね。時々ものすごくレースが単調になることがあって。1億円という賞金がかかっていて縮こまってしまうからなのか、なぜかレースが動かないことがあって…。

デイリースポーツ 松本直記者(以下松本)　最近でいうと2013年。深谷さんが行ったレースで、金子貴志さんが優勝したグランプリがそうでしたね。

日刊スポーツ 松井律記者(以下松井)　3車ラインがあって先行が腹くくってる場合は、そこで決まりやすかったりするけど、単騎の選手、3番手の選手が意外と勝つ、っていうのがグランプリの傾向かな。

松本　もうここ2年荒れてますからね(笑)。佐藤慎太郎、和田健太郎と、グランプリ前に新聞やメディアなどで取り上げられてない人が勝つんですから難しいですよ。もちろんラインでバシっと決まる年もあるのですが、ラインで決まらない年の方が多い印象を受けますね。だから前田記者がよく言ってますけど、“◯-全-全”という買い方が有効に働くのがKEIRINグランプリですよね。

松井　グランプリに関しては何十年やってる記者が予想しようが、一年目のファンの人が予想しようが同じ気がするね。直接取材している・していないの差はあるにせよ、印をつけたらそんなに差はないかな(笑)。だからみんなが同じレベルで、楽しく予想できるのが“KEIRINグランプリ”なんだよね。グランプリが近くなってくると疎遠な親戚から急に連絡が入ってきたりするし(笑)。

平原康多にのしかかる“グランプリの呪い”!?

松本　ここでファンが選ぶアンケートの途中結果が出てますが、、、平原が断然なんですね！

前田　平原すごいな〜。

松井　今年のグランプリは脇本雄太と新田祐大がいないということで“構図”がないんですよ。ナショナルチームvs漢字の“競輪”チームみたいな。そういうライバル関係がボヤっとしているから今年はみんなチャンスがある。そのなかで関東の吉田拓矢と宿口が乗ってきたということもあって、平原に票が集まったんだろうね。

前田　ただですね、どうあれ “グランプリ平原勝てない説”っていう、都市伝説みたいなものがあるんですよ。4年連続2着の神山雄一郎さんも、“神山雄一郎グランプリの呪い”というのがありましてね、「絶対この人勝っておかしくない」と言われているのに何故か勝てない。まるでなにかに取り憑かれているのではないかと。それぐらい平原康多とグランプリって“密接”なんですよ。

松本　不思議と平原はグランプリに縁がないんですよね。2021年は今まで一番チャンスあるんじゃないかと言われてますけれど。

松井　2020年もそう思ったけどね(笑)。

前田　そう、去年はあんなにチャンスだったのに、平原にグランプリの女神は微笑まなかった。じゃあ今年は？ って考えたときに、平原には悪いけど、ファンはその呪いのことを強烈に考えてしまうかもしれない。

松本　結局、勝っても負けても注目される“平原康多”という選手のことを競輪ファンは好きなんだと思います。神山さんもそうでしたけど、ファンからすごく好かれている選手というか、僕たち取材する側でも平原のことを苦手っていう人もいないし、平原に勝ってほしいっていう気持ちもあるし、それはファンも同じなんだなって思います。過去、武田豊樹と前後を変えたり、勝つチャンスは何度もあったと思いますけど、今年の平原は正念場になるでしょうね。

前田　平原は今年勝てなかったら、来年グランプリを辞退するんじゃないか(笑)？ っていうぐらい最後のつもりでね、吉田拓矢と宿口陽一に私はプレッシャーをかけたいんですよ。この二人になにがなんでも平原康多にグランプリを獲らせるという気持ちがないと、平原の競輪人生は、画竜点睛じゃないけど、一点が欠けてしまう。なんとしてもグランプリ獲ってほしいです。

松井　今年、平原は危うい戦い方をしてきたんですよ。前半戦は落車が多くて怪我だらけ。ちょっと良くなって戻ってくると落車、そして心が折れる、の繰り返しだったんですよ。今年はもうダメか、と思ったところで宿口が宮記念優勝。それが起爆剤になって、調子を取り戻したんですけど、平原は宿口が勝ったときに“肩の荷がおりた”って言ったんです。宿口がグランプリに乗れたことで、「自分が関東最後の砦として守らなきゃいけない」、「グランプリに乗らなきゃいけない」と一人で背負っていた重圧が一気に解放されたんです。で、宿口が獲ったら獲ったで、今度は関東みんなが盛り上がっちゃって。「宿口がGI勝てるんだったら俺だって勝てるんじゃないか」って、みんなワンサカ練習しだして(笑)。関東全体のムードが良くなって、平原はここまで来たんだよね。

悲願達成“しかない”平原康多

松本　平原悲願達成はズバリ…？

一同　ある！

前田　そうじゃないと困るぐらいのレベルですよ(笑)。だから平原の悲願達成について、今から原稿を書くのが記者として楽しみだし、指が震えるような、ね(笑)。村上義弘さんのときとかよく震えましたよ(ガタガタガタガタと小刻みに動く)。

松本　その震えは『ストロングゼロ』の飲み過ぎじゃなくて(笑)？　また、今回は舞台が静岡競輪場っていうのもね、平原にとってはうってつけですよね。3年前悔しい思いをした静岡。

松井　落車したんですよ。その時のこんな写真があるよ、って平原に連絡したら、平原はその写真をSNSのアイコンにしてくれて。声援を送ってくれたファンへの恩返しを誓ってきたんだよね。　

前田　平原は“GIは勝ちたいけどGPはそこまで執着してない”っていうのをずっと言ってきたんだけど、静岡での落車再乗のとき声援をもらってから“GPを勝たないといけない”に変わった。ファンが平原の思いを変えた特別な場所なんですよ、静岡競輪場は。

松井　「生涯で一番嬉しいレースだった」って言ってたもんね、静岡でのグランプリが。「初めて泣きそうになった」って。

前田　あのときの平原コールがすごかった。車輪が曲がってて直さないといけなくてすごく時間がかかったんですよ。4分20秒後に…。

松井　(間髪入れずに)4分18秒だよ(笑)。

前田　(笑)。この座談会、もしかしたら平原の話だけで終わっちゃいますね(笑)。

“ザ・初出場” の吉田拓矢と宿口陽一が平原悲願のカギ握る

松本　その平原と連係するであろう宿口陽一と吉田拓矢は初出場ですね。古性優作含めて、今年は初出場が3人という顔ぶれになりました。

松井　最近だと、2016年に立川で行われたKEIRINグランプリが初出場3人でしたね。渡邉一成、岩津裕介、中川誠一郎の3人。ただ、その時の3人に関しては元々実力があって“やっと乗ったか”という感じだったから、フレッシュさは感じなかった。

前田　そうですね。今回、“ザ・初出場”が似合うのが吉田拓矢と宿口陽一くらいです(笑)。

松井　うん、想像もしてなかった(笑)。古性はいつ乗っても不思議じゃないぐらい実力があったからあれだけど、吉田拓矢と宿口の二人に関してはフレッシュな感じがするね。宿口はデビューからずっと平原の背中を見ていたんですよ。練習仲間で、高校の後輩で。でも、ただ見ていただけなんでしょうね(笑)。この人すげーって(笑)。その宿口がこのグランプリで同じ舞台に立つっていうのが、ドラマを感じるよね。本人が一番ビックリしてるんじゃないかな(笑)。

前田　宿口はこれまで幾度となく平原につながる扉をあけては間違え、あけては間違え。それが今回ようやく平原につながる正しい扉をあけた。そんな感じがします。

松本　それでタイトル(高松宮記念杯競輪)を取ったあとの走りが素晴らしくて、静岡初日(7/6)の走りでしたかね。果敢に先行した走りをみせて、“これぞタイトルホルダー”という走りをしていました。よく“タイトルが人を作る”って言われますけど、本当にその通りで。タイトルを獲ったからとって、お高くとまったりそういうのも全くないし…。

松井　いるの？ そういう選手？

松本　いや、いないです(笑)。

前田　自分から地雷を踏みにいってる(笑)。昔はそういうケースがあったと聞きましたけど、今はいないと思いますよ。とくに宿口の場合は、平原を見てきていますからまずないでしょう。逆にサービス精神が増しすぎていて、今では写真撮影をお願いすると、頼んでもないようなポーズを取ってくれたり。いくつもダサいポーズを持ってるんですよ(笑)。

松本　そうそう、カメラ向けたら何ポーズもとってくれて、こんなに親しみやすいS級S班は、もしかしたら過去イチかもしれない(笑)。

前田　我々はSSに、風格を求めてしまうフシがあるのですが…。

松井　いらないよね、宿ちゃんには(笑)。このまんまの宿ちゃんでいてほしい(笑)。

松本　一方の吉田拓矢は今年急成長しました。

松井　去年だと準決勝までっていうイメージだったけど、今年から急激に力をつけてきたよね。

前田　いかにして勝つかを考えた走りでしたよね。GIでの開催を通しての戦い方が急激に良くなりました。

松井　そうそう、去年までは平原との連係がうまく行かなかったんだけど、今回の競輪祭なんて平原はもう黙って吉田拓矢に任せてるでしょう。平原もうまくアシストしたりもしていたんですけど、あのあと決勝を取っちゃう吉田拓矢もすごいよね。

松本　単騎で行って自分で勝ち取ったのがすごいですね。

前田　高松宮記念杯競輪では宿口陽一を優勝に導き、寛仁親王牌では平原康多の優勝に貢献。そして競輪祭では自らGIを獲ってしまうんだからすごい。

松本　吉田拓矢はダービーを病欠で休んでしまって、賞金が高いレースで1円も稼げずという状況下で、年間を通して賞金ランキング10位前後にいたわけじゃないですか。この一年は充実した戦いぶりをみせてくれていたと思います。あとは弟子である弟(有希)の存在も大きいかもしれないですね。

前田　教わることばっかりだった自分が、今度は誰かに教えることで、自身の走りっぷりが大きく変わってきました。昔はね、平原からレース後ずっと競輪を教えてもらっていたシーンとかを取材で見かけましたけど、そのぐらい平原は吉田拓矢のことを期待してましたし、それがホンモノになるぐらいに返ってきたわけですから。その吉田拓矢と宿口と一緒に走るんですから、平原の今年のKEIRINグランプリに対する思い入れはいつも以上でしょうね。

松井　2020年の平原はサプライズで脇本雄太とのタッグというドリームチームを作ったけど、2021年はいつも連係してきた深みのあるチームで参戦。いや、今年のグランプリは楽しみですよ。