2021/12/01 (水) 12:00 4
渡部哲男(42歳・愛媛=84期)は“エース”の呼び名があまりにもふさわしい男だ。四国のエースとして、デビューから輝き続けてきた。12月2〜5日の日程で開催される松山競輪のGIII開設72周年記念「金亀杯争覇戦」に、今年も出場する。
2005年3月に地元記念を初優勝。ピカピカの金看板を胸に、GI制覇へと邁進していた。相性がよかったのは寬仁親王牌で2006年に決勝4着、2007年に決勝2着、2008年に決勝3着。2002年のヤンググランプリ覇者は、躍動感あふれる自力戦で頂点を目指したが、壁に跳ね返され続けた。
その内に負担をかけ続けた腰が爆発。長い低迷に落ち込んでしまった。時折のヒットはあったものの、“往年の影は…。”と、そんな時に2019年の大会で地元記念2回目の制覇。40歳を目前にしていたその時、“最後のチャンスかも”と挑んでいた。表彰式でジワリと流れる涙は、美しかった。
時折書かれていると思うが、中四国の現在の隆盛はしばらく前からすると奇跡のようだ。小倉竜二(45歳・徳島=77期)はずっとトップにいたが、堤洋(45歳・徳島=75期)や佐々木則幸(45歳・高知=79期)、そして渡部といったスターが、数少ない戦力で奮闘していた。
他の地区は強さだけでなく、数も武器にGIで勝負していた。さすがに多勢に無勢。苦しい時期を過ごしてきた。取っておかしくない力がありながら、と渡部は何度評されてきただろうか。
しかし、その悲運が似合うのもエースの皮肉。どうしても目指すものに手が届かず、ひざまずく。その姿が、ファンの目に焼き付いてきた。だからこそ2019年の優勝の涙の輝きがあったし、「まだまだ頑張ってくれ! 」という願いにも通じている。今年も多士済々のメンバーが揃ったが、渡部の輝きなくして今シリーズは語れない。
新田祐大(35歳・福島=90期)と脇本雄太(32歳・福井=94期)が来年はS級1班となる。東京五輪に出場した影響も大きいわけだが、規定がある。S班の権利をつかめなかったものとして、来年は“狩る”側に回る。
新田は競輪祭の最終日に1着を取った後、しみじみと「挑む立場として」と話していた。すでに決意は固まっているようだった。
受けて立つ立場で、どんな挑戦も力ずくでねじ伏せてきた。組み伏せてきた。そのあまりにものパワーに屈した選手たちが、呆然と沈み込む姿もよく見た。現状はKEIRINグランプリ開催まではS班の立場だが、上述のように語った心理のまま、来年の戦いは始まっている。新田が、ニヒルな笑いをうかべながら、全員を倒しにいく。その姿、怖いくらいのものがある。
Twitterでも競輪のこぼれ話をツイート中
▼前田睦生記者のTwitterはこちら
前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。