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60年見つめた競輪祭「私は負けません」 コンドル武田一康、名勝負と人生の記録

2025/11/09 (日) 18:00 2

11月19日に開幕する朝日新聞社杯競輪祭を目前に、競輪一筋60年のベテラン予想紙「コンドル」社長・武田一康氏(77)が語った。滝澤正光、加倉正義、脇本雄太の名勝負秘話から、取材術やファン層の変化、“攻める予想”の極意、そして今年の「競輪祭」の展望まで。現場を知り尽くした男の言葉には、勝負の匂いと人間ドラマが詰まっている。(聞き手:デイリースポーツ・松本直記者)

オンライン取材に応じる「コンドル」社長・武田一康氏(77)

ーーこの世界に入った経緯を教えてください。

 親父の体調もあって「任せる」と言われたのが18歳の時。そこからこの世界に入りました。学校より競輪場にいる時間のほうが長かったですね。台に立っての予想会が終われば紙面づくり。金網の外から朝の練習を見て“目”で並びと展開を読むところから始まりました。競輪は私の人生そのもの。コンドルの新聞づくりに関しては一度も休んだことがありません。

ーー検車場に入れるようになって、何が変わりましたか。

 いつ頃だったか……30年ほど前でしょうか。あの瞬間、世界が変わりました。選手と言葉を交わし、呼吸や間合い、性格まで見えるようになった。金網の外で積んだ観察の基礎に、直接取材で得た“体温のある情報”が乗るような感覚でした。選手は一日走って部品やセッティングを変えるだけでガラッと変わります。取材をしていない時の予想と、実際に取材をした予想とではまるで違ってきますね。私は情報はオブラートに包まない。ストレートに情報を出すのが自分の流儀です。

(写真提供:コンドル出版社)

ーー印象に残った「競輪祭」ですが、滝澤正光さんのグランドスラム(1990年)を挙げていただきました。

 滝澤正光が波潟和男との二分戦で、鈴木誠の番手からまくってグランドスラムを達成した1990年、これは印象深かったですね。私の車券は滝澤から波潟以外の車券でハズレましたが(笑)、それはさておき、滝澤という人間はひとことでいえば“紳士”。低姿勢で、丁寧ですし、日本競輪選手養成所の所長になるにふさわしい人物でした。当時はドームになる前の小倉競輪場。朝5時から開門を待つファンが列をなし、場内の熱気が震えるようでした。

滝澤正光氏(左・写真提供:チャリロト)

ーー名勝負は、ほかに加倉正義選手の繰り上がり優勝(1998年)も挙げていただきました。

 吉岡稔真と神山雄一郎の二強時代。吉岡が逃げ、まくってきた神山をブロック、内から加倉が抜け出して優勝かと思われたのですが、東出剛の落車で吉岡が失格に。繰り上がりで優勝した加倉の、笑顔のないインタビューが印象的でした。“番手の仕事”をやり切れなかったという悔しさと、責任の重さ。あの鎮痛な表情は今も忘れられません。

 それでも「優勝は優勝」。加倉は2026年1月から50代でS級に復帰します。中野浩一や吉岡が30代で引退したことを思えば、加倉や同期の山口富生が今も走っているのは本当にすごいことです。

加倉正義

ーーそして最後にグランドスラムに王手をかけた脇本雄太(2024年)の競輪祭を挙げていただきました。

 近畿勢は「競輪祭」と相性が悪く、1965年の加藤晶以来、約60年遠ざかっていました。その流れを断ち切ったのが脇本雄太。2024年の優勝は圧巻でした。

 五輪を経て彼は変わりましたね。位置を取るレースを覚え、寺崎浩平や古性優作といった仲間に支えられる環境が整い、念願の競輪祭を優勝。そのまま次のG1・全日本選抜もあっさり優勝してグランプリスラムを達成。私がこれまで見てきた選手の中で最も強い選手です。吉岡や神山も強い競輪選手でしたが、脇本は世界を相手に戦ってきました。競技で磨いた脚と、ラインで駆ける“競輪”とを融合した“最高傑作”だと思います。寛仁親王牌での怪我を治して、グランプリ、そして2月の熊本で行われる全日本選抜競輪も万全の状態で出走してほしいですね。

 脇本の力を最も発揮させるには、2025年の全日本選抜で見せたような寺崎にまくってもらって、そのスピードを活かすレースが良いと思います。

脇本雄太(撮影:北山宏一)

ーーここまで取材環境の変化はありましたか?

 コロナ禍で競輪場にミックスゾーンが設けられ、以前のように検車場で自由に歩き回ることは減りました。遠征も減りましたし、取材をする面白さは確かに減り、少し寂しいですね。

ーーファン層の変化をどう見ますか。

 ネットで朝から夜まで買えるようになり、ファン層は確実に変わりました。若いファンが増え、配当を意識した“戦略的な買い方”をする人も多い。一方で、ギャンブルとしての入口で終わらず、選手の性格や並びを読み、当てる喜びにまで届くことが競輪の魅力です。理解できない人は離れ、理解できる人は残る。最終的には“読む力”。人間の感覚に戻るところに、競輪の未来があると思います。

(写真提供:コンドル出版社)

ーー社長の予想の哲学について教えてください。

 選手の性格、調子、そして並びと展開。これが基本です。狙いは広くても買い目は10点以内。出すと決めたらストレートに予想を出すことです。そして何より「競輪は記憶のゲーム」。たくさんレースを見て覚えること。取材して選手の性格を覚えること。その積み重ねが勝つための秘訣です。77歳になった今も、この基本だけは変わりません。

ーー今年の「競輪祭」社長の注目選手は誰ですか?

 深谷知広です。練習量、役割理解、ラインの哲学、すべてが高いレベルにあります。勝ちに行くレースで失敗することもありますが、それも攻めている証拠でもあり、グランプリにふさわしい選手です。今は賞金ランキング9位。深谷が(グランプリに)乗れば、嘉永泰斗にもグランプリでチャンスが出てきますから(笑)。個人的には大好きな北津留翼も応援しています。

 あとは古性がこの「競輪祭」を取ればグランプリスラムに王手ですが、近畿の選手はなぜか小倉と相性が悪い。古性の調子も上がっていないだけに、厳しいかもしれません。

深谷知広(撮影:北山宏一)

ーー最後に、読者へのメッセージを。

 ネットもいいですが、たまには競輪場で空気を吸ってほしい。その臨場感は、画面越しでは決して味わえません。前橋で嘉永泰斗を本命にしなかったことを反省しています。予想は守りに入ってはダメ。「競輪祭」は攻めなければ。netkeirinとコンドル紙で攻めの予想を披露しますので、どうか期待していてください。

コンドル武田社長が競輪祭決勝の買い目予想を無料で公開します(11/24)。下記リンクより☆ボタンを押しお気に入り登録をされてお待ちください。どうぞお楽しみに!

※競輪は適度に楽しみましょう

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