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競輪ドキュメンタリー映画『川崎競輪』ーー定点カメラが捉えた“競輪場のある街で生きる人々”

2025/10/29 (水) 18:00 22

※当コラムは若干のネタバレを含むため、ご注意ください

川崎競輪イメージ

 映画『川崎競輪』ーー。

 タイトルに「競輪」とあると、競輪場や競輪選手に焦点が当てられた作品を想像してしまう。だが、この映画はそのどちらでもない。川崎競輪場のある“川崎という街で生きる人々”にフォーカスが当てられたドキュメンタリー映画なのである。

 監督は水野さやかさん。生まれも育ちもスイスだが、川崎にご祖父母が住んでおられ、幼少期に遊びに行っていたそうだ。そしてその家の近くには川崎競輪場があった。そういったルーツがあり、ジュネーブ芸術デザイン大学の卒業制作として作られたのがこの『川崎競輪』だ。

定点カメラが捉えた“競輪場のある街で生きる人々”

 映画は発走前のファンファーレから始まる。そしてレースが発走。バンクを走る選手、それを一心に見つめるファン…実に見覚えのある光景だ。そこから視点は移りゆき、川崎競輪場の車券売り場や喫煙スペース、そして競輪場近くにある酒屋など、数か所に設置された定点カメラが捉えた“競輪場がある街で生きる人々”が映し出されていく。

川崎競輪イメージ

 酒屋のテレビに映る競輪を観ながら「捲りだな、捲りだよ」と酒を片手に独り言、それに対してたまたま居合わせたと思しき人が反応したりしなかったり。喫煙所で耳に筆記具を引っ掛けながらタバコをふかす人、ひたすら競輪新聞に向かい続ける人、買った車券を何度も見てはあれこれ呟く人。脚色されることなくありのままが映し出される。

 競輪を見つめる彼らの目は素朴で、純粋な光を放っているように見える。レースを見ながら「あぁ〜」などと声を漏らす人もいれば、無言でじっくり眺める人もいる。そしてレースが終われば余韻にひたったり、あるいはひたらずにすぐ切り替えたり。しかしいずれの人も、また次のレースへと向かっていくのである。

競輪だけじゃない、さまざまな人生模様

川崎競輪イメージ

 交わされる会話は「競輪」にまつわる話だけではない。ときには生きることや貧困についての話題が飛び交うこともある。また、船の模型を指差しながら「自分は泳げないから浮いているのが好きなんだ」とカラッと語る酒屋の店主や、ポータブル音楽プレイヤーを耳に当ててカメラの前で愉快に熱唱する人の姿など、さまざまな人生模様が垣間見える。

 ナレーションが一切ないという点も、この映画の奥行きにつながっている気がする。酒屋に入り浸り競輪を楽しむ人、他愛もない話を交わす人々が永遠と映し出されているだけ、といえばそれまでなのだが、その“それだけ”の光景になんだか目が離せなくなってしまうのである。競輪場のある川崎という街で暮らす人々、そして競輪に真剣に向かう人々…そんな姿にグッと心を掴まれた不思議な映画だった。

 競輪を題材にした映画は、数は少ないが過去にもいくつか制作されている。元プロ野球選手の40歳が競輪選手を目指す『ガチ星(2017年制作)』や、あの中野浩一さんも出演されている『青春PARTII(1979年制作)』などなど…。気になる方はぜひ合わせてチェックしてみてほしい。

映画『川崎競輪』(2016年制作)
監督:水野さやか
第4回なら国際映画祭2016 NARA-waveノミネート作品
2025年10月現在、U-NEXTなど映像配信サービスなどで配信中


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