2025/09/11 (木) 12:00 16
福井競輪場で「第41回共同通信社杯競輪(GII)」が9月12〜15日に開催される。脇本雄太(36歳・福井=94期)にとって地元ビッグ優勝の大チャンスだ。グランプリスラマーの栄誉は掛け値なし。ただ、地元のビッグ制覇も加われば…と。心の隙間に問いかけてくる。
福井競輪場でのビッグレース開催は2020年3月の「ウィナーズカップ(GII)」以来。2020年3月といえば、東京五輪の一年延期が決まるちょうどその時で、脇本は五輪準備のため走ることができなかった。地元ビッグを走ったのは一度だけ。
2013年4月の当大会だ。前年にはGIで安定した結果を残し、地元でワッキーがビッグ初優勝を…と期待されていた。だが、準決で思わぬアクシデントがあり、その影響もあってか、決勝進出を逃した。ワッキーも若かった。24歳だった…。
準決は最終レースの12R。脇本は村上義弘氏(引退=73期)と東口善朋(46歳・和歌山=85期)を連れての近畿3車。まずはとにかく決勝へ、と視線を集めていた。緊張感漂う発走の時。一斉に出た時だった。
神山雄一郎氏(引退=61期、現日本競輪選手養成所所長)が手を上げて再発走となった。クリップバンドが切れるアクシデントだった。極限まで集中していた脇本としては、予想外の出来事に気持ちを整えようと必死だった。
当時の原稿を振り返ってみると、先に決勝進出を決めていた神山拓弥(38歳・栃木=91期)がクリップバンドの修正に駆けつけていて「あわてて手が震えてしまって邪魔になっちゃった」と話している。検車員にまじり、懸命に作業に当たっていたシーンもあった。
脇本は後日だが「俺を平常心で走らせないように、もしあれが神山さんの作戦だったら…」と笑いつつ、「動揺がなかったとは」と唇をかんでいた。
福井記念は6回の優勝で責任を果たしてきた。大きな声援を浴びてきたものだが、今回は一段ステージが違う。ワッキーが福井競輪場で最高の瞬間を迎える時を地元のファンが待っている。
福井のバンクは冬、雪に覆われる。沁み込んだ水はバンクの内部でうごめき、震え、現在に至ってはその傷跡が残る箇所もある。この大会が終わるとだいぶ久しぶりの大規模改修が待っているが、今回は歴史残る走路での戦い。
まだ福井記念を走りたてのころ。先行できなかっただけで悔し涙を流していた。先行させてもらえなかった相手に対しては、その後、絶対に主導権取りを許さなかった。傷ついた心は、自分の力でしか埋めることができなかった。
その戦いをファンはずっと見てきた。逃げてはまくられ、差され、大敗し…。ラインのために誰よりも尽力してきた。そんなワッキーはとてつもなく大きくなり、強く、たくましくなって、今、最高の舞台を迎える。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。