2025/08/27 (水) 18:00 17
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが松戸競輪場で開催された「燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯」を振り返ります。
2025年8月26日(火)松戸12R 開設75周年記念 燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①深谷知広(96期=静岡・35歳)
②鈴木竜士(107期=東京・31歳)
③北津留翼(90期=福岡・40歳)
④神山拓弥(91期=栃木・38歳)
⑤園田匠(87期=福岡・43歳)
⑥三谷政史(93期=奈良・42歳)
⑦雨谷一樹(96期=栃木・35歳)
⑧小川勇介(90期=福岡・40歳)
⑨岩本俊介(94期=千葉・41歳)
【初手・並び】
←①⑨⑥(混成)②⑦④(関東)③⑧⑤(九州)
【結果】
1着 ⑨岩本俊介
2着 ⑧小川勇介
3着 ⑤園田匠
8月26日には千葉県の松戸競輪場で、燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII)の決勝戦が行われています。函館・オールスター競輪(GI)の直後というタイミングで、練習量の確保が難しかったでしょうね。このシリーズには岩本俊介選手(94期=千葉・41歳)、郡司浩平選手(99期=神奈川・34歳)、清水裕友選手(105期=山口・30歳)という3名のS級S班が出場していましたが、そのデキについてはしっかり見定める必要がありそうです。注目はやはり、地元代表である岩本選手でしょう。
初日特選にはほかにも、深谷知広選手(96期=静岡・35歳)や北津留翼選手(90期=福岡・40歳)などが出走。松戸の333mバンクは圧倒的に先行有利ですから、誰が主導権を奪って逃げるのか注目ですよね。ここは、4車連係で先頭が深谷選手という南関東勢が圧倒的な支持を集めました。深谷選手は果敢に先行するも、最後方から捲った単騎の北津留選手が素晴らしいスピードで1着をもぎ取りました。
2着は郡司選手で3着は和田健太郎選手(87期=千葉・44歳)と南関東勢が意地をみせ、最終ホームで捲りにいくも封殺された清水選手は、最下位という結果に。北津留選手は、ツボにはまると驚異的な強さをみせるタイプの選手ではありますが、それにしてもあの捲りは鮮烈でしたね。デキもかなりいいようで、北津留選手は二次予選と準決勝でも1着をとって、完全優勝に王手をかけて決勝戦に駒を進めます。
清水選手は二次予選では1着に巻き返すも、準決勝は後方に置かれる展開となり、さらに捲りを合わされて5着に終わりました。そして郡司選手も、準決勝では序盤から北津留選手に脚を削られる展開となって位置を下げ、5番手から捲るも九州勢にブロックされた後に仕掛けを合わされてしまいました。最終的には6着でのゴールインで、優勝候補の一角がここで姿を消します。
地元代表の岩本選手は、二次予選と準決勝を連勝で勝ち上がり。けっして楽ではない展開だったと思いますが、それでもキッチリと結果を出したように、力を出せる状態にあるようです。北津留選手以外で調子のよさが感じられたのは、近況好調の鈴木竜士選手(107期=東京・31歳)ですね。前場所の函館でも随所でいい走りをみせていたのですが、このシリーズでも上々のデキにあるようです。
三分戦となった決勝戦。2名が勝ち上がった南関東勢は、深谷選手が先頭を任されました。その番手を回るのが、地元代表である岩本選手。南関東勢の後ろには三谷政史選手(93期=奈良・42歳)がついて、最後尾を固めます。ここでは明確に機動力上位である深谷選手が前を回り、しかも1番車と車番にも恵まれたわけですから、ここは前受けからの突っ張り先行が大アリですよね。それをいかに阻むかの勝負でしょう。
関東勢は、好調モードの鈴木選手が先頭で、番手を回るのが雨谷一樹選手(96期=栃木・35歳)。ライン3番手を、神山拓弥選手(91期=栃木・38歳)が固めるという布陣です。鈴木選手と雨谷選手はスタートが速いので、深谷選手の前受けを阻もうと、初手から勝負してくる可能性もあるでしょう。毎回のように言っていますが、この決勝戦も初手での位置取りがきわめて重要になると思われます。
そして九州勢は、北津留選手が先頭で、番手が小川勇介選手(90期=福岡・40歳)、3番手が園田匠選手(87期=福岡・43歳)という福岡トリオです。車番に恵まれなかったここは後ろ攻めが濃厚で、そうなると「深谷選手を斬れるかどうか」が、最初の関門となるはず。しかし、400mバンクや500mバンクならばさておき、直前部分が短い松戸の333mバンクではなかなか難しい。どういう作戦で臨んでくるか、注目ですね。
それでは、決勝戦のレース回顧に入りましょう。レース開始を告げる号砲と同時にいい飛び出しをみせたのは、1番車の深谷選手と2番車の鈴木選手でした。しかし、やはり車番が内のほうが有利。ここは深谷選手がスタートを取りきって、前受けを決めます。鈴木選手が先頭の関東勢は中団4番手からとなって、北津留選手は予想どおり後方7番手からの後ろ攻め。さて、ここからどうなるかです。
後方の北津留選手は、青板(残り3周)掲示の前から早々と動き出しました。青板で南関東勢の外まで上がり、深谷選手を抑えにいきます。しかし、深谷選手はまだ前に先頭誘導員がいる状況から、身体をぶつけてこれを牽制。突っ張り先行に持ち込むぞ…と強い意思表示をしつつ、両者併走のままで青板のバックを迎えます。誘導員が離れると同時に、深谷選手は前に踏み込みました。
北津留選手も抵抗を試みますが、踏み出しで深谷選手に少し差をつけられたのもあって、それ以上は無理せずに後退。ここでいい仕事をしたのが、内を締めて三谷選手の後ろにつけていた園田選手です。これにより九州勢は、後方に戻るのではなく中団4番手に入り込むことに成功。鈴木選手が後方7番手となり、再び一列棒状で赤板(残り2周)のホームを通過。先頭の深谷選手が、早々とピッチを上げます。
そのままの隊列で1センターを回ってバックストレッチに進入し、レースは打鐘を迎えました。打鐘後の2センターで北津留選手が捲りにいく気配をみせますが、途中で切り上げて再び三谷選手の後ろを追走。それだけ、先頭で逃げる深谷選手がかかっていたということでしょう。誰も動けないままで最終ホームを通過しますが、その直後に後方の鈴木選手が仕掛けて、前を捲りにいきました。
神山選手が離れて2車での捲りとなり、なんとか小川選手の外まで差を詰めますが、最終1センターを回ったところで北津留選手が合わせて仕掛けます。しかし、最終バックで深谷選手からのバトンを繋いだ岩本選手が、番手から発進。北津留選手は三谷選手の外まで進出していましたが、そこから差を詰めることができません。最終3コーナーで岩本選手が先頭に立ち、番手捲りから押し切りにかかります。
ここで、中団から捲った北津留選手と後方から仕掛けた鈴木選手は脚が上がって、外に離脱。それによって空いた三谷選手の外に、北津留選手の後ろにいた小川選手と園田選手が突っ込んでいきます。番手から捲った岩本選手の加速は素晴らしく、マークする三谷選手との車間がどんどん開いていきます。岩本選手が後続を突き放しながら最終2センターを回って、最後の直線に向きました。
直線の入り口で、早々とセイフティリードを築いた岩本選手。そこから大きく離れて、最内を回る三谷選手が必死に追いすがります。その外から伸びてきたのが園田選手と小川選手で、こちらのほうが勢いはいい。30m線で小川選手が三谷選手を捉えて2番手に浮上し、さらに園田選手が続きます。さらにその外からは雨谷選手もいい伸びをみせており、2〜3着争いが熾烈なものとなりそうな様相です。
そのはるか前で、岩本選手が悠々とゴールイン。後続に4車身差をつける完勝で、昨年3月の伊東以来となる通算6回目のGIII優勝を決めました。2着は小川選手で3着は園田選手と、北津留選手の後ろを回っていた九州勢が上位に食い込み、雨谷選手は最後よく伸びるも4着まで。岩本選手マークの三谷選手は最後に突き放されてしまい、5着という結果に終わっています。力の差を感じる内容でしたね。
決勝戦まで勝ち進んだ唯一のS級S班、そして唯一の地元勢として力を示した岩本選手。番手捲りからの伸びは素晴らしいもので、文句なしの完勝でした。今年の岩本選手は随所で存在感を発揮して、S級S班という“格”に恥じぬ走りをみせていますね。タテ脚を強化するなど、この年齢でも成長できているのは本当に素晴らしいですよ。この優勝は深谷選手の貢献大ですが、それ引き出したのは岩本選手自身です。
誰だって、親しい友人や恩義のある相手、尊敬している人のためには、いつも以上に頑張ろうとしますよね。今回の深谷選手はまさにこれで、岩本選手の地元記念優勝のために“滅私”の気持ちで、ラインから優勝者を出す走りに徹している。このレースの優勝賞金は副賞込みで600万円もあるというのに、自分よりも仲間のために走っている。これって、なかなかできることではないと思うんですよ。
でも岩本選手には、深谷選手など周囲の選手に「それでも応援したい」と感じさせるものがあった。積み重ねてきた実績はもちろん、その篤実な人となりも大きいでしょうね。競輪という競技の、このような人間くさい部分をどう感じるかは、人それぞれ。でも間違いなく、そこが大きな魅力でもあるのだ…と私は感じます。チームで戦う、唯一の公営競技ですからね。
2着の小川選手や3着の園田選手については、園田選手のファインプレーで、道中で中団が取れたのがやはり大きかった。福岡トリオとしては悔しい結果だったかもしれませんが、やるべきことはやったとも感じているでしょう。逆に、初手で敗れて道中でも後方に置かれた鈴木選手は、反省材料の多いレースとなってしまいましたね。この惨敗を糧に何かを得て、次につなげてほしいものです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。