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【共同通信社杯】競輪界の超人が集結!S級S班9人はこんな人!

2021/09/14 (火) 18:00 21

約2300人の競輪選手の中で、GI優勝選手や競輪祭終了までの獲得賞金上位選手など、年間最高成績を収めた9選手だけが選ばれるS級S班。17日から開幕する共同通信社杯(GII)には9選手が勢揃い! 競輪界の頂点に君臨する男たちの素顔を紹介します。(文:東京スポーツ・前田睦生記者)

※脇本雄太選手は、病気のため欠場となりました(9月15日)

佐藤慎太郎

11月で45歳になる佐藤慎太郎。5月の日本選手権競輪(GI)は3着。賞金ランキングは6位とKEIRINグランプリ出走圏内に付けている(撮影:島尻譲)

競輪ファンの気持ちが誰よりもわかる好漢

 喜んでもらえることが生きがい。自分のために、生きていない。強さを支えるのは無私の心。そもそも、そんな性格なのだ。取材していても「ファンが喜んでくれる話をしたい」という想いがにじみ出る。写真撮影の時には、持ち前のポーズや近くにある小道具を持って構えてくれる。

 レースにしてもそう。シンタロウを買ったら、当たった、儲かった、興奮した、外れたけど感動した…。父に連れられて行った競輪場で覚えた興奮。ファンだったからこその衝動が、強さを作り出している。グランプリ制覇後、地元いわきの優勝報告会。「みんな車券は外したけど、みんな表彰式まで残ってたんだって」。それが最高にうれしかったという。ファンがいなければ、最弱の選手だろう。

新田祐大

東京五輪出場のため自転車競技に専念していた新田祐大。競輪復帰後の走りに注目が集まる(撮影:島尻譲)

どんな時も真っすぐに生きている

 鬼、がつくほどの真面目。同期の選手から「新田は1kmのタイムで目標にしていたタイムを切れなくて号泣していた」と聞いたことがある。周りが引くほどの号泣だったそうだ。“そこまで…”の想いが常にある。

 新田が主宰するドリームシーカーのチームが、子どもたちに自転車の楽しさを教えるイベントがあった。安全のために声を出す、とかちょっとしたことをとても丁寧に教えていた。寝転がっている人(深谷知広)を、BMXの長迫吉拓が自転車でジャンプして飛び越える技を見せる時、率先して「頑張れ!頑張れ!」と声を上げ、子どもたちと一緒に応援する姿を見た。何かを生み出すために、ただ真っすぐ。信じるもののために真っすぐ生きているから、強い。

守澤太志

36歳で新田祐大より1つ年上の守澤太志。賞金ランキングは4位と堅実な走りが光る(撮影:島尻譲)

家族のために…これからもっと強くなる

 この人は、「謙遜」の言葉に尽きる。大きなことは言わず、静かに仕事をする。話している時はいつも笑顔。伊豆で国際大会が開かれた時に、家族で応援に来ていて、ナショナルチームのメンバーと戯れていた。家族のために強くなったと感じた。

 2017年武雄で開催された共同通信社杯の決勝は失格。武雄温泉駅で、赤ん坊を抱いている女性がいた。横に守澤。しばらく後に守澤に会って聞くと、妻と子だった。「せっかく遠くまで見に来てくれたのに」。つらい結果に終わってしまった無念さを、父は抱いたのだろう。謙遜は強い責任感に変わり、その現実から逃げなくなった。S班の赤いパンツに見合う走りを、自らに今、課している。守澤の道はまだ開けたばかり。これからもっと強くなる。

平原康多

「微笑みの巨人」平原康多は今年、記念競輪3勝をマーク。オールスター競輪のファン投票では1位を獲得(撮影:島尻譲)

生き様がいちいちカッコいい

 “自分は強くない”。永遠の探求心が強さの源。GIを勝った直後ですら自転車を換える、セッティングをいじる。シューズを試す。ちょっとこんなイメージで試してみる…。やらない方がいいんじゃない、とすら思う。でも絶対にやる。強くなりたいから。

 落車が続いたある時のこと。完全にもらい事故といえるものもあった。しかし、平原の口から出たのは「自分が落車するような走りをしているから、転んだんです」。時々、現実と違うような話をする。平原の見ている世界がある。平原にしか見えていない世界がある。落車後のあまりに痛々しい姿ですら、カッコいいとしか思えない変なヤツだ。お子さんの名前には、自分が優勝した時の車番の色を入れるなんて、カッコよすぎるよ…。

郡司浩平

31歳の郡司浩平は2月の全日本選抜競輪(GI)優勝。5月の日本選手権競輪(GI)は2着と年々存在感を増している(撮影:島尻譲)

人間の器がとにかくデカい

 人柄が強さを生んだ珍しいレーサー。GII初優勝の祝勝会で、グンジだけにグンゼのブリーフを履いて、激しいダンスを披露した。「みんなが喜んでくれたら」とはにかんでいた。S級に上がってからすぐは逃げて逃げて、多くの南関の選手に貢献した。そんな優しい男が、どうして強くなれたのか。優しさ、を極めたからだろう。

 とにかく器がデカい。優しさが人の和の中心に、いつしか彼を置いた。ある時、グンゼのTシャツにサインを求めたら快諾してくれた。そして隠し持っていたブリーフ(これにサインは失礼過ぎる…と思い)を見せ「グランプリ勝ったら、サイン、大丈夫?」と聞いたら「約束します!」と答えてくれた。こんな男、そういない。強い、はずです。

和田健太郎

昨年のKEIRINグランプリを制したワダケンこと和田健太郎。賞金ランキング11位と少し元気がない(撮影:島尻譲)

お金をかけてくれているファンのため常に全力で

 サラリーマンから社長になった。実写版島耕作。元々は怪しげなまくりを駆使して、ちょこちょこ波乱を起こしていた。自在から追い込みに変わり、もう一度、自力にこだわり…と変遷を遂げながら出世してきた。選手としての信条はただ一つ。「このレースに大切なお金をかけてくれているファンがいるわけでしょう」。一戦総力。どんなレースでも、臨む姿勢は不変。それがグランプリ優勝につながった。

 かなり前になるが、レース前、また最中にも物騒な言動を繰り返す選手がいて、和田も「あまりに怖くて」とおびえていたことを覚えている。それでも、どんな状況でも、このレース、の大事さを胸に戦い続けて上り詰めた。それはKEIRINグランプリ王者となった今でも変わらない。

脇本雄太

競輪界の最速最強の男・脇本雄太、愛称ワッキー。東京五輪ではメダルを逃したが世界レベルの豪脚を見せた(提供:日本自転車競技連盟)

敵にしてはいけない「魔王」

 この人は変態だと思う。敵にしちゃいけない。まともにぶつかっては勝てない。なぜなら、勝つまでやめないから。大のゲーマーとしても有名なワッキー。獲物を探している。どんなゲームでも勝つことを異常に求める。それも完膚なき勝利を。ある時、近藤隆司はぷよぷよでボコボコにされて泣いたという。

 2020年の名古屋オールスターで松浦悠士にやられた後、自身のゲーム配信で、ウロつく敵にぶつかりながら「クッソー! まつうら〜」とボソボソつぶやいていた。怖かった。若いころは先行争いで敗れた相手を、次の対戦では何が何でもつぶしにいっていた。デスノートを持っていた。競輪というゲームをコンプリートしようとしている魔王です。

松浦悠士

今年は日本選手競輪(GI)優勝、記念競輪6勝と賞金ランキングを独走する松浦悠士(撮影:島尻譲)

苦しい時期を乗り越えトップ選手に

 道に迷った劣等生ほど怖いものはない。デビュー後、はっきりいって大して強くなかったし、レースぶりは曖昧。S級に上がってすぐは通用せず、突然、番手ジカの勝負を繰り返した。荒れていた。ラインで決まることが少なく、中四国の追い込み選手から「このままじゃ、つけんぞ」と説教されていたシーンも何度か見た。

 一度、A級に落ちて帰ってきて、「落ちる怖さを知った」と話した。「もうA級に落ちたくない」。劣等生が手にした小さなプライドは、人間の尊厳だった。上を向くと、この言葉があった。「狙われるモンより、狙うモンの方が強いんじゃ」。強い相手を倒しては無邪気に笑う。負けた時には、もう一度、狩る。それだけ。反骨の男につける薬はない。

清水裕友

S級S班の中では最年少26歳の清水裕友。松浦悠士とのゴールデンコンビでワッキーに立ち向かう(撮影:島尻譲)

誰にもその正体はわからない

 つかみどころがない。なぜ、強いのか。この男はよくわからない。強気なことも言わない。どころか、いつも「オレなんて…」という自虐キャラですらある。でも、強い。むき出しの“素”だけで生きている。戦場で上官から「行け!」と言われれば素っ飛んでいくだろう。「死んでも守れ」と言われればその通り。妙に自信がないから、やるべきことをやる愚直さがある。こういう人は怖い。小細工もしない。

 もちろん、競輪のレースは複雑なので考えることは多いが、「ええっしょ」と自分のやれることに徹する。柔道をやっていた時期もあり、柔道は嫌いだったそうだが、柔道一直線のキャラクターにしか見えない。ラッパの音色と、変な打楽器の音が絡み合う最強の男だ。

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