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【記者特選】今の時代とは違う“美徳”があった/忘れられぬダービーの記憶

アプリ限定 2025/05/02 (金) 18:00 11

“最高峰のGI”と称される日本選手権競輪(以下ダービー)。今年で第79回を数えるダービーではこれまで多くの名勝負が生まれ、競輪ファンの心に感動のシーンが刻まれていることだろう。今回は「忘れられぬダービーの記憶」と題して、7名の競輪記者によるダービー決勝回顧をお届けする。(構成:netkeirin編集部)

2000年3月28日・千葉競輪「第53回日本選手権競輪」
町田洋一記者

時代の空気も販売券種も今とは違う

 今から25年前だから、記者が32歳の時。「IT革命」がその年の流行語大賞で、「おっはー」という言葉も流行っていた。当時、専門紙・赤城スポーツの記者だったが、先輩記者が厳しく、第一線での活躍が難しい時代だった。今と違い、ビッグレースや記念の取材に行かせてもらえず、現場取材は前橋競輪場だけ。まだ「よごれ記者」と呼ばれる前で、記憶が確かならば、最終日だけ、現地に遊びに行ったと思う。

 優勝は岡部芳幸だが、小嶋敬二の視点から、今回の記事は書いてみたい。この年になると、昔の事の時系列がバラバラになるので、直接、小嶋選手に聞いてみたり、先輩記者からもレクチャーを受けた。

小嶋敬二(写真:著者撮影)

 結果は岡部芳幸、西川親幸、小嶋敬二で入り2車単は⑦-⑤で10,980円。某スポーツ紙の大御所記者に改めて教えてもらったが、このダービーの時に現地で2車単の発売は行われていない。

 全国統一でなく、売り上げの良い競輪場(1号から4号賞金まであり、競輪場により賞金も違った)から2車単の車券を先行発売。現地の千葉では買えず、2車単を売っている場外に行くか、電話投票で買うしかなかった。元々、車券は下手だが、この時も現地で買えた、枠複の④-⑤、2,080円は当たらなかったと思う。3連単が発売されたのは、この1年後の11月からで立川と前橋が先駈けての発売だった。

 実際のレースは記事下部にあるダイジェスト動画で見て戴き、前受けは小嶋敬二と山田裕仁。今で言う前中団が斎藤登志信に岡部芳幸、逃げると思われていた市田佳寿浩には内林久徳、後ろ攻めが九州勢で吉岡稔真、西川親幸、西尾芳樹。

 今では解説者としてもS班の山田氏、吉岡氏、内林氏がいるから、新規ファンもお馴染みの選手ばかりだと思う。GIの解説は鈴木保巳さんと白鳥伸雄さんが交互、MCが高橋しげみさん、実況が磯一郎さんが定番だった。白鳥さんは千葉だが、他の3人は群馬在住だから僕の恩人でもある。

 この時代、古舘伊知郎もビッグレースの中継に出演していて、プロレス実況を競輪の実況に取り入れていた。内林さんを「琵琶湖のピラニア、えら呼吸走法」とか、名調子は、今、聞いても面白い。

前受けの捉え方、選手心理、美徳にも時代性があった

変わりゆく時代、変わりゆく競輪(撮影:北山宏一)

 今のレース形態は絶対、前受けが有利。だが、当時の前受けは「受けて立つ」と言う競輪用語があった様に、強い人が敢えて不利を覚悟でSを取る戦法だった。普通なら吉岡稔真の前受けと思いきや、中部勢が前を取っている。

 これを小嶋敬二に確認したら「1回目はスタート牽制で再発走。当時は、今より、緩いからペナルティもなく何度でも再発走ができた。2度目は、ファンから『お前が一番強いから、山田、前を取れ!』のヤジがあった。それで、発走機を出た瞬間に山田さんと目が合い、俺がSを取った感じ(笑)」。

 これが結果的に良く市田のカマシの3番手を確保。バックから捲ると市田を楽に捉えて、番手の帝王(山田裕仁)は、うっちー(内林久徳)と絡み、社長(小嶋敬二)には絶好の展開。今の寺崎浩平と一緒で脇本雄太と古性優作に差されてはタイトルを取れない。社長にすれば、帝王は一番の味方であり敵でもあった。

「今、考えると山田さんがいて良かったと思う。斡旋とか、対戦メンバーとか色々なメリットがあったからね。あの仕掛けた瞬間? 捲れる手応えはあったけど、押し切る感覚はなかった。実は、前年の静岡のダービーで、神山さんに勝ったと思い、間違えて手を上げているので(苦笑)」

 社長のタイトル数は、寬仁親王牌を2個、高松宮記念杯を2個で全部で4個。人間の良さは山崎芳仁と双璧だし、この2人が人間グランプリの覇者。もっと、社長が悪い人間で、ずる賢さがあったら、この倍以上のGIコレクターだっただろう。

 本人も「宇都宮の500を一人で2周駆けたり、今、考えるともったいない。どうせ、逃げ潰れて大敗なら、最初から一発狙うレースの方が良かった。あの当時は、それより同型の伏見や太田、十文字に先行争いで勝つ事に重点を置いていたからね。そこが今の若い子と考えが違うところ」。

 そして岡部の優勝に関してだが、最後は自分で外を踏み突き抜けている。今は前を庇い、少しでも残すのが美徳となっているが、ファンの車券戦術とは乖離がある。あの当時の岡部や伏見は、きちんと踏み、1着を取ってくれた。これも何度も書いてきたが、あの当時の岡部や伏見の走りを、養成所で見せて欲しい。こんな素晴らしい教本はないし、神山所長なら実現させてくれるかもしれない。

2023年6月に500勝を達成、2025年も勝ち星を積み上げている第53回ダービー王・岡部芳幸(photo by Shimajoe)

【動画】千葉競輪「第53回日本選手権競輪」決勝


(協力:公益財団法人JKA 提供:千葉競輪場)


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