2021/08/28 (土) 12:00 8
2021年1〜6月の競輪の売り上げは4488億7079万7200円だった。昨年比167.5%。3月に発表された競輪中期計画では2025年度に1兆円を超えることが目標。もはや…この一年で見えてきた。
“コロナによる巣ごもり需要”は間違いない。そして競輪オフィシャルを中心とし、民間ポータルの猛プッシュ。特にミッドナイトとモーニングの伸び方がすごい。
ボートレースは昨年比142.2%の1兆1429億円強と爆裂だが、競輪の今年の踏ん張りようは顕著だ。昨年は出遅れていたのが事実。実情としては、コロナ対策で多くの開催が中止になったことがある。現在はコロナ対策を厳重に行っているのが、功を奏している。
ミッドナイトに関しては、各種ポータルサイトの頑張りがある。
そこにファンが目を付けてくれていることがうれしい。売り上げが伸びることは、もちろん喜びでしかない。ただ、その奥にあるファンの思いを強く感じている。記者仲間と大事にしてきたものが、ファンに届いている実感がある。
“人”を見ているんだと。
8月23〜25日に行われた松阪ミッドナイトは最終日が6億450万6600円、3日間の総売り上げは15億1948万9100円。単なるギャンブル的な数字の積み上げではなく、競輪を楽しんでいる人たちの生んだ数字だった。
「7車立てだから」とか「ミッドナイトだから」でライト層へウケるもの。そういうスタンスが始まりにはあった。でも、なかなか全部を見ることはできないが、各中継のファンのコメントは昔からチェックしてきた。
ファンが、何を見ているのか…。
「ラインって何? 入り口が狭い、競輪は難しい」は、もはや消滅した。競輪をネット中継で見始めた人たちは、ある意味、今までのファンよりも繊細だ。ベテランの先行選手が、若く力みなぎる選手を相手に、何をしようとしているか、すぐに感じる。そこで心を震わせている。
「この選手、好き」。ネットの匿名性は非難される面もあるわけだが、競輪のコメント欄で率直に書ける良さが、生きている。私自身、こんな現実があるとは想像していなかった。言語学の用語に、シニフィエとシニフィアンというのがある。
本場で放たれる言葉と同等。“ヤジ”という競輪が持つ独特の世界観が、生きたものとして、ある。もちろんネット上でも。汚い言葉は良くないけど、「伝える」という言語そのものの価値を有している。
シニフィエとシニフィアンについてはフェルディナン・ド・ソシュール(1857-1913)が、打鐘を叩きながら説明してくれるだろう。
『パラダイムシフト※』という言葉が流行ったのがちょっと前。考え方の根底が変わる。生きる地平が変わる時に使われた。それが今、競輪界で起こっている。それを起こしているのは誰か…
ファンが動いている。うごめいている。フジファブリックというバンドに「若者のすべて」という歌がある。「僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ」という言葉が、この歌を終わらせる。
新しいファン、まだ見ぬファンも、オールドファンと同じ空を、見ている。
※:その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することをいう。「パラダイムチェンジ」ともいう。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。