閉じる
前田睦生の感情移入

【平安賞】鬼の例大祭。誰のためにどう走るのか、戦うのか…

2021/09/01 (水) 12:00 11

2011年1月大会の表彰式後

年に一度、鬼の例大祭

 向日町競輪場で開設71周年記念「平安賞(GIII)」が9月2〜5日の4日間、開催される。多くの記念は、向日町記念、また各場の記念で呼ばれる。が、地元京都の選手たちは「平安賞」という。“特別なもの”ととらえている。

 全国の記念やビッグレース、また平場と呼ばれる普通開催を取材してきたが、この「平安賞」は独特な雰囲気がある。京都の選手たち、近畿の選手たちのピリつき感が違う。

 ここだけは譲れない。ここで無様な走りはできない。遠征の選手の好きにさせるわけにはいかない。誰がこのシリーズに命をかけているか、を見せつけるかのようなのだ。
取材する側も生半可な気持ちでは、検車場に入れない。

今年は無観客開催だ…

ファンに地元選手の優勝を見せるため

 地元戦を走る機会は、実はそう多くない。トップ選手になればFI開催に呼ばれることもあまりないので、年に一度、記念しかないケースもある。ずっと応援してくれるファンの前で、雄姿を披露する…。
ただし、今回は無観客開催となったので、画面越しになる。

 ファンが入っていれば、沸き方が違った。お目当ての筆頭はもちろん村上義弘(47歳・京都=73期)だ。「お兄ちゃ〜ん!!」。字面だけなら可愛いものだが、博幸(42歳・京都=86期)と作り上げてきた歴史がある。弟にすら見せる厳しさを、ファンも知っている。

 そして稲垣裕之(44歳・京都=86期)。
義弘の後を受け継ぐ者として、彼我が認める選手だ。義弘という大きすぎる背中を追いかけ、また挑み、ファンと一緒に時を重ねてきた。

当時の稲垣裕之の表情(2011年)

妥協なき決断。苦痛にゆがむ顔

 一番心に残っているのは、2011年1月の大会。初日特選で義弘と稲垣が一緒だった。稲垣は無論、前で戦うつもり。しかし、2人でどこかへ行き、戻ってきた稲垣は真っ青だった。「今回は後ろになりました」。そのころ、調子を崩していた稲垣の状態面を考慮した形、という説明だったが、そんな表情ではなかった。

 義弘としては、何か稲垣に物足りないものを感じていたのではないか。言葉で伝えるものではない。前で走ることで伝えようとした。それを、この「平安賞」の舞台で。覚悟という文字が、ワンツーという結果ににじんでいた。

 藤木裕(37歳・京都=89期)や山田久徳(34歳・京都=93期)ら、後輩たちはその姿を見てきた。強くなければならない。すべてにおいて。「平安賞」を走る意味と責任は、脈々と受け継がれている。

またワッキーの笑顔が見られるかな

平安賞に帰ってきたワッキー

 脇本雄太(32歳・福井=94期)も出場する。脇本は2016年9月大会で決勝に勝ち上がり、稲垣優勝、義弘準優勝という結果に導いたこともある(脇本5着)。京都勢の前で、嘔吐しそうなほどの緊張感を全身にたぎらせ、責任を果たしてきた。今また、これだけのメンバーが揃った「平安賞」でどんな走りを見せてくれるのか。

 新田祐大(35歳・福島=90期)、佐藤慎太郎(44歳・福島=78期)に松浦悠士(30歳・広島=98期)もいる。あまりにもゾクゾクする4日間が待っている。


Twitterでも競輪のこぼれ話をツイート中
▼前田睦生記者のTwitterはこちら

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

前田睦生の感情移入

前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

閉じる

前田睦生コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票