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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】老化と戦う45歳・中川誠一郎が友人の“グランプリスラム”を祝福「新居で喝を入れてもらわないと」♯46

2025/03/06 (木) 18:00 12

何かと話題の多い競輪界にあっても、そんな喧噪はどこ吹く風とばかりにマイペースを貫く競輪選手・中川誠一郎。気持ちのすさむことはあっても、若き後輩たちに元気をもらって立ち直り、それなりに楽しく選手生活を謳歌する男が競輪の魅力を紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーーこれは何を掲げている写真なのですか。

 わかりませんか? 賞金袋ですよ。松戸でもらったやつですが⑥⑤⑥着と大ビラこいたため今月は激安なんです。45トンぐらいしかありませんでした。支払いとかあるし、もう中川家は生活できないですよ。存亡の危機が訪れました。

ーーだいたい負け戦で1回ぐらいは連にからむイメージがありますが。

 選手史上の最低賞金記録は免れましたが、これだけの低空飛行っぷりはなかなかないですよ。見てください、この薄さ。なんかいいアルバイトがありましたら、どしどしとお寄せください。

ーー今月は松戸と小松島ミッドナイトケイリンの2本を走りました。まずは小松島の話からうかがいます。初日特選は鈴木竜士選手マークでした。

 共同記者インタビューでは自力でやらないのですか?って聞かれたけど「もう自力はいいでしょう。勘弁してください。まあまあやりきりましたよ」って発表しました。

ーーこのコラムではずっと話していましたが、何だかんだ言って自力で動いているので気まぐれなのかなと思っていました。

 新田(祐大)がいたけど、地区的に松坂(洋平)が主張すると思ったし、それなら鈴木君に行きたいなって。ただ、(渡部)哲男もいたし聞いてみたら「いやいや、優先権は誠ちゃんが先だよ」って言ってくれました。

ーー競走得点は渡部選手の方が上でしたよね。

 オレがまだ第一線の自力だったころ哲男がよく付いてくれたんですよ。だからいつも気を遣ってくれるんです。いい同級生です。

2場所続けて筆者の前に立ちはだかった新田祐大(撮影:北山宏一)

ーーもしも新田-中川ラインが実現したら面白かったですね。

 そりゃ、味方で走れればいいですよ。でも結局1回も一緒にならなかったし、敵にしたらきついだけ。それに新田は松戸も一緒だったんです。もう最悪ですよ。GIの裏なのになんでいるんだよって。お前の稼ぐところはこっちじゃないよ、って(笑)。

ーー節間はどのようなやり取りがありましたか。

 相変わらず面白いんですよ。小松島でもこっちが油断していたら、やおら「みんなが期待しているコラム、読みましたよ」って言いながらヌッと登場するんです。

ーー⑥④②着と初日特選のアドバンテージを生かすことができませんでした。

 寒すぎて久しぶりにきつかったです。2℃でしかも爆風で雪がちらついているんですよ。申し訳ないけどそっちに意識が飛び過ぎてしまいました。

ーー普段は飲みに出ている時間帯だから深夜は気にならないと話をしていましたが。

 たしかに時間帯は合っているんですけど、あの気温は合っていませんでした。だって普通は冬に屋外で酒を飲まないでしょ。

期待の若手のひとり阿部英斗

ーー最終日には九州の後輩である阿部英斗選手と初連係でした。

 阿部君って小さいころからすごい競輪ファンだったみたいで、前検日に「お会いできて光栄です」って挨拶されました。ワタクシが優勝しました別府の全日本選抜競輪を生で見ていたっていうし、競輪祭のときは入り待ちをしてオレにサインをもらったとか。

ーーそんな選手と連係するのですからGIタイトルも遠い昔の話となりました。

 ここ最近、競輪に興味を持った人たちもいらっしゃると思いますので説明しますと、ワタクシはこう見えてGIタイトルを3本も持っているんですよ。あと、4年に1回行われる世界的なスポーツイベントに「オリンピック」というのがあるのですが、それにも2回ほどですが出ています。よって、ただのアル中ではないのです。

ーー自慢話もいいですが、阿部選手との連係は最後、差し逸れました。2車単は差し目が断トツの1番人気でした。あれはどういうことでしょう。

 正確に言いますと、抜いたけど抜き返されたんです。ハンドル投げで抜いたのに、投げるのが早すぎてまた抜き返されてしまった。周りからハンドル投げの下手さを突っ込まれました。

ーー番手慣れしていないってところでしょうか。

 いや、それでも阿部君が強かったんです。強いときの(北津留)翼みたいな感じで踏み方も似ていましたね。

ーー北津留選手のような踏み方とはわかりやすく言いますと。

 翼も阿部君もダッシュはあるけど(渡邉)一成や新田みたく一歩目にガツンと上がるタイプじゃないんです。深谷(知広)みたいに2、3歩目から伸びていくダッシュ。自分はこっち側のダッシュタイプなんです。

ーー中川選手から見てS級でも即戦力で通用すると思いましたか。

 思いましたね。地脚ダッシュタイプには差し損じも多くて、翼は何回も差し損ねています。阿部君も強かったし本当に翼っぽかった。

ーーミッドナイトは終わる時間も時間ですし、さすがに最終日は打ち上げなどしないですよね。

 いや、酒が飲みたくて仕方ないから(塚本)大樹と街に出ましたよ。そうしたら、あるお店で山形(一気)と堤(洋)さん、三ツ石(康洋)、(林)大悟に会いました。

ーーみんなお酒が待ち遠しかったのでしょうか。

 山形は大樹と同期なんですよ。あとは接点が浮かばないメンバー構成で店じゃずっと大樹が1人でしゃべっていました。

ーーそれにしても、塚本選手以外はこのコラムにまったく登場しない面々です。

 でしょうね。三ツ石なんて初めて一緒に飲みましたから。現場ではお互いに人見知りを発動するものだから、会っても挨拶程度で深くしゃべらないんですよ。

ーー三ツ石選手も人見知りなんですね。

 そうは見えませんよね。期も年齢も1つ下で、働く階級も一緒だったのに20年以上ほぼ接点がありませんでした。年を取るのも悪くないなと思いました。

(撮影:北山宏一)

ーー続いて松戸の話をうかがいます。こちらは先ほどのボヤキ通りに叩きに叩いてしまいました。初日特選は新田選手、伏見俊昭選手の3番手を回っていました。

 西日本地区で石原(颯)君がいたから回ろうと思っていたら、中村(浩士)さんが「地元で頑張りたいから」とかで主張したんですよ。

ーー競ってでも石原選手という選択肢は。

 もちろん、西日本ってくくりでラインといえばラインだし競るかどうか迷いましたよ。でも先に地元の人に主張されたら、なんかこっちが地元の邪魔をしているみたくなるじゃないですか。

ーーすんなりいけば石原選手の番手が自然ですからね。

 本当は石原君の後ろを固めたいけど、さすがに中村さんの後ろを回るのは嫌だったから福島を選びました。

ーー福島勢に付く決め手は。

 新田も伏見(俊昭)さんも昔から一緒にやってきたし、知らない人じゃないんで。それなら世話になろうって。

ーー初日特選から難しい判断でした。

 自力にはわからない追込選手たちの絶妙な駆け引きを体感しました。ここなら引くだろうとかのしたたかな考え方とか。その辺から仕掛けていかないと追込にはなれないなって。

ーー自力選手にはない考え方ですか。

 自力選手は好き勝手に行けますからね。実戦の技術以外にも、巧妙な駆け引きとかそういうのもしていかないと淘汰されていく世界なのだと身にしみてわかりました。

高い将来性を秘める梶原海斗(撮影:北山宏一)

ーー小松島の阿部選手に続き、松戸では初めて梶原海斗選手と連係しました。

 いいスピードがあるし強くなる要素はあるんですけどね、まだレースとかみ合っていない感じがありました。練習ではメッチャ強いって聞いていたし、もったいないなと。

ーー今回は準決勝と最終日に連係しました。

 練習ではメッチャ強いけど、レースでは出し切れないってタイプは親近感がわくし頑張ってほしいですよ。“脚はあるしもったいないから力を出せるように頑張れ”って言いましたが、まるで20年前の自分に言っているみたいでした。

ーー後継者に指名した取鳥雄吾選手とはまた違うタイプですか。

 雄吾はもう特別戦線のレギュラーですから違いますね。梶原君はまだ出てきたばっかりだから。レースをこなして荒波に揉まれて強くなってほしいです。

ーー若い選手たちとの連係は刺激になりましたか。

 ですね。最近は気持ちと体の反応のズレがすごいんですよ。時差ぼけがひどくなっている感じです。老化というか神経系が鈍ってくるのでしょうね。

ーーまだ45歳です。老化に抗うため何か対策を講じていますか。

 自分はそこまで入れ込んでいないけどウエイトでしょうか。年齢を重ねても強い人って肉体的な老いに抗うため、筋肉をつけるとか努力をして塗り固めている感じがします。いうなれば、補修工事みたく。

ーー難しい話ですが、どういうことでしょう。

 老いを筋肉でムリヤリねじ伏せるってイメージですかね。筋肉はウエイトをすれば付くものだし、努力をすれば老いをねじ伏せて上位と戦い続けられる感じがします。

初代「グランプリスラマー」の脇本雄太(撮影:北山宏一)

ーーさて、話題は変わりますが、友人の脇本雄太選手が全日本選抜競輪を制してグランドスラムを達成しました。どんな感想を持ちましたか。

 おめでたいことですよ。なんか、「グランプリスラム」とかいう造語ができていましたね。現行のGI6大会を取っていないといけないとか初めて聞きました。名乗れる可能性があるのは今でいえば古性(優作)と新田ぐらいですか。

ーーまだ現役のS級選手に聞くのもどうかと思いますが、ご覧になってどのように見ていましたか。

 正直に言うと道中、勝つ雰囲気はなかったですね。前がカカっていたし寺崎(浩平)も仕掛けにくいと思ったので。よく突き抜けましたよ、本当に。

ーーお祝いする予定はあるのですか。

 次に会えるのはウィナーズカップですかね。去年の10月に会う予定があったのですが、流れてしまったんですよ。

ーー用事があったのですか。

 新居へ遊びに行く予定だったんです。旅行がてら合宿に行こうとしたんですけど、引き渡しが遅れてそのうちに雪が積もってしまい行けなくなったんです。

ーー落ち着いたら実現できそうですね。

 暖かくなったしそろそろ行けそうですね。最近、自分は弱っているので練習では激しく喝を入れてもらいます。

高田隼人氏(左)、山本光将氏(右)と

ーーほかに何かイベントやエピソードがありましたら教えてください。

 久しぶりにアルバイトが入りました。オワコンとなった今ではなかなかお呼びがかからないから喜び勇んで駆け付けましたが、競輪関係の仕事じゃなかったんです。

ーー競輪の仕事ではないって、ガチのアルバイトじゃないですか。

 そうなんですよ。呼ばれたのが県内で行われた「子育てフェスタ2025」みたいなイベントです(笑)。

ーーいったい、何をしゃべるのですか。

 最初は1人で40分、講演形式と言われたけど、子育てですよ。そんなテーマで40分も場が持つわけないじゃないですか。

ーー冷静に考えると、なぜ中川選手にオファーがあったのかが気になります。

 1人ではきついので誰かとトークショー形式がいいと伝えて元選手の(高田)隼人さんに来てもらいました。

ーー高田さんがいるならやりやすくなったのでは。

 ゲストがもう1人いたんですよ。もしオレが来られなかった場合にと、元プロ野球選手の山本光将さんという方が呼ばれていて、結局3人でステージに上がりました。

ーー1人から3人になってよかったじゃないですか。

 山本さんは熊本工業から2002年のドラフトで読売ジャイアンツに入った方で、たくさん面白い話が聞けました。本当は元木派だったけど、一派が清原派に吸収された話とか。

ーー経歴を見ますと現在も野球関係に従事されており、高校時代は「九州のカブレラ」との異名を取っていたそうですね。

 九州のカブレラの話も出ました。プロ入り後のある日、タクシーの運転手さんと会話が弾んで「今度、試合を見にきてくださいよ」みたいな流れになって。運転手さんから「何で呼べばいいの?」って聞かれたから「“九州のカブレラ”と呼ばれています」って答えたそうなんです。

ーー自己紹介をしたと。

 そうしたら後日、本当に運転手さんが応援に来て、2軍戦の外野席にでっかい横断幕をガーって掲げてくれたんですって。でも、それを見た選手やお客さんがみんな怪訝な顔をしていたっていうんです。

ーー2軍の試合に横断幕が珍しかったのでしょうか。

 いや違うんですよ。よーく、見たら「九州のカブレラ」ではなく「九州のカステラ」になっていたそうです(笑)。

ーーそれは、ひどいです。

 味方から対戦相手までザワザワしだして、あれはなんなんだ? って。そもそもカステラは誰だ? とか大騒ぎになったそうです。

ーーもはや、子育てと関係ないじゃないですか。

 そうなんですよ。打ち合わせのときに「いいネタがありますから、これで落としてください」とか提案してくれたけど、子育ての話なんだから別に笑いを取らなくてもいいんだって(笑)。すごく面白い方で楽しかったです。

(撮影:北山宏一)

ーー質問が溜まっておりますのでお答えください。

Q、1月の松山F1で脚見せ終わりの誠一郎さんにコラム見てます! と観客席から伝えさせてもらいました。松山はメインスタンド前を通って出入りする数少ないバンクだと思います。やはり声はよく聞こえますか? 選手目線で見てどうですか? 松山競輪の印象も教えてください!(愛媛県/20代/男性)

 ああ、覚えていますよ。ありがとうございます。コラムに言及する人は相当なマニアと認識していますから。以前はコンプライアンスに引っかかるぐらいの暴言系で物騒な言葉が飛び交っていましたが、最近は環境がよくあたたかくなり走りやすい競輪場と思います。

Q、仕事が上手く行きません。中川選手みたいにお気楽にいられたら幸せだと思うんですけど、どうやったらそんなにお気楽になれるんですか?(愛知県/30代/男性)

 お気楽… ですか。普段は厳粛な雰囲気を出して作っているだけに、こうしたイメージを持ってくれるのはうれしいです。そういえば、松戸で同期の(佐藤)有輝さんと久しぶりに会ったんです。そこで最近どうって話になったから「何とか楽しくやってます」って答えたら、「お前を見て、楽しくなさそうに思ったことねえよ」って返されたんですよね。そこで、あ、オレは楽しそうに生きているんだと改めて実感できたんです。ちなみに、有輝さんはダービーを取る直前に川崎のバンクで一緒に練習をしたんですけど、オレの1周駆けを軽く交されました。だから「もし決勝でハコだったら俺がダービー王だ」と、いまだに言っています。みんなお気楽です。

Q、同郷の正代関についてどう思いますか? 元大関の実績、闘志をほぼ感じさせない風貌、あっさり負けてファンを失望させる一方でたまに突然、力強い相撲で現大関を突き飛ばしたりするお茶目な関取です。私はこの人を相撲界の中川誠一郎と呼んでいます。(東京都/60代以上/男性)

 質問の途中で、問いの内容がわかりましたよ(笑)。これはズバリそのとおりで、こっちも勝手に親近感を持っています。でも、それが合っているかは正代関に失礼かもしれませんが、似たものを感じています。そうだ、ダービーを取ったあと一緒にちゃんこを食べたことがありましたよ。わかるなぁ… 覇気は無いけどたまに強いって。

Q、熊本競輪のホームページに中川さんの趣味ドラクエウォークと書いてあったので今年から僕もドラクエウォーク再開したのですがまだやっていますか?(熊本県/30代/男性)

 やっているも何も、小松島のときは、わざわざ前日に前乗りして鳴門まで行っておみやげを取ってきましたよ。渦潮のところにあったんです。

Q、1月の立川記念、お疲れ様でした。 最終日、九州ラインの先導役での自力発動、熱くなりました。 それ以上に、三日目終了後の宿舎(同部屋)は、熱かったのでしょうか?(埼玉県/50代/男性)

 立川の最終日? どんなレースでしたっけ。ああ思いだした、荒井(崇博)さんが北井(佑季)君に持って行かれたやつですね。北井君がものすごかったやつだ、うん。思い起こせば、いろいろと熱かったですよ。

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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