2021/08/17 (火) 12:00 14
8月15日に最終日を終えたいわき平競輪場の「オールスター競輪(GI)」の決勝は、ひと目には単調に見える。
脇本雄太(32歳・福井=94期)が駆けて、古性優作(30歳・大阪=100期)が差して優勝。非常にシンプルな流れだが、もちろん誰もが承知するように、“そこまでがある”。長い。
3年前の2018年が、“ある”。脇本がちょうどいわき平のオールスター競輪でGI初Vを飾った時、番手を回っていたのが古性だった。
すでにすさまじい力を身に付けていた脇本。だが、脇本が仕掛けた時、竹内雄作(33歳・岐阜=99期)の踏み上げたスピードもよく、2センターでは出切れるのか…と思われたもの。古性は『内に位置を確保するか』と少し考えたという。「あんなの必要ありませんでしたね」。その後、再加速していく脇本に後れを取った…。
ただ脇本に付け切るということが古性の明確な目標となった。GIを勝つためには…そこに集中するだけ。
脇本が東京五輪出場のため、競輪の参戦は少なくなっていく。後ろを回る機会も。2019年8月の名古屋オールスター競輪では、最終日の敗者戦だが古性が付け切って、差して1着というレースがあった。脇本は3着。
「脇本さんのすべてを見ていました」と古性はレース後に振り返った。
脇本の強さ、速さ、すごさを作り上げているものはなにか。世界一を目指した男。
ペダリング? 体幹? フォーム? 何もかもを分析し、吸収しようとした。
今、GI優勝を手にした後、古性は脇本から何を感じ取ったか。競輪選手、自転車に乗る人類の一人としての単なる速さ、強さだったろうか…。
一番は人としての強さに違いない。競輪選手としての完成度といっていいだろう。五輪直後、オールスター競輪の決勝であの先行ができる。脇本は古性の3年間をよく知っている。
食らいついてくる古性がたまらなくかわいくて、誇らしいに違いなかった。深谷知広(31歳・静岡=96期)がインを切り、レースの流れが向いたのは確かでも、それを生み出したのは脇本と古性が積み上げてきたものがあったから。3年かけて、あのレースにたどり着いた。
一見、単調。だが、あのレースには練り込まれた尊い、尊い、時間があった。
「今週の競輪好プレー」のコーナーで取り上げたかったのが、7月函館サマーナイトフェスティバルの古性のレースだ。直線で平原康多(39歳・埼玉=87期)に接触し、平原が落車。古性が失格だったので、取り上げることはできなかった。平原には申し訳ないが、このレースのダイジェストは何度でも見てほしい。7月17日の8R--
2センターからは大外へ、そこから内に舵を切って内へ。飛び込んだスピードは常軌を逸していた。抜け出し1着入線も失格だった。
マークしていた稲川翔(36歳・大阪=90期)は「古性の動きに見入ってました。こんなこと初めてでした」と話している。真後ろにいて、起こるはずのない、すさまじい走りに目を奪われたのだ。
これからの古性に期待することは、今までと変わらない。攻め一辺倒の鬼の走り。見ているだけでゾクゾクし、選手たち、選手同士だからこそわかる古性のすごさ、をもっと見たい。古性が広げる新たな競輪の世界観を楽しみにしたい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。