2025/02/05 (水) 18:00 26
2024年の最後にヒットを飛ばし、気分よく年を越した競輪選手・中川誠一郎。2025年の出だしは珍しく3場所を走り抜き、ちょっとお疲れモードが気になるところ。それでも酒の力を借りて、ぬるめに競輪の魅力を紐解きます。 【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】
ーー前回は「2024年の10大ニュース」を取り上げましたが、直後の川崎FIで3連勝による完全Vを挙げました。まさかの狂い咲きでしたが、どうしてしまったのですか。
どうしてしまったって、優勝したんですよ。決勝はアガサ・クリスティじゃないけど“そして、誰もいなくなった”の世界でした。
ーー決勝は松井宏佑選手や守澤太志選手らの強豪を相手に単騎まくりが決まりました。
車体故障やら失格やらあったりして無事な人が3、4人しかいなかったんですよ。まあ、落車がなくて良かったですけど。
ーー松井選手の先行1車という構成でした。
決勝メンバーが出ると、佐藤(礼文)君が「付いていいですか?」って来てくれたんですけど丁重にお断りしたんです。
ーーせっかくの申し出なのに。
だって、松井の先行1車でオレに付いてもノーチャンスでしょう。そう説明したら納得してくれて「ならば(松井の)番手に行きます!」って。彼の戦法からしても、オレにスカされるより絶対その方がいいじゃないですか。
ーースカす前提とは寂しいものがあります。
言葉が悪かったですね。オレの超慎重で落ち着き払いすぎた走りに付き合わさせてしまうのも…とかか。
ーーどっちも変わらないでしょう。
もし2分戦になったら、松井はオレさえ突っ張れば超ペースじゃないですか。そうなったら、きっとオレが4、5着で佐藤君は6、7着とかで迷惑をかけてしまう。別に競ってくれればこっちにワンチャンあるとか、スケベな算段があったわけじゃないですよ。
ーー結果的にはそのような流れになりました。
守澤と接触した松井の車輪がぶっ壊れて、松坂(洋平)もあおりを食って大バックを踏んで、(福田)知也はめちゃくちゃ避けて。どさくさに紛れてオレがまくったらなぜか同期の大槻(寛徳)とワンツーって、もう変なレースでみんな不思議がっていました。
ーーどのようなやり取りがあったのですか。
佐藤(礼文)君は「中川さんが優勝したんですか? 何があったかわからなかったです」とか状況をつかめていなくて、守澤は「松井をカマそうと思ったんですよ」って。松井をカマそうと思っていたんだ、とか知ってみんな競輪をしているなーって思いましたね。
ーーみんな、巧妙に策を練って挑んでいたということですね。
松井は松井で車輪が壊れたからか、自らを奮い立たせるようにうめいていて、ものすごい迫力で先行していました。
ーーそれだけ気持ちが入っていたのでしょうね。
だって、最終バックとか4角で「ウォーーーーッ」みたいな鬼気迫る感じだったから、おそるおそるまくりにいきました。
ーー松井選手は地元戦でしたから、より気持ちが入っていたのでしょうか。
そうでしょう。あんな気持ちになれるのはうらやましいって思いました。込み上げてくるものって年齢とともに減ってくるし、どうしても冷静になってしまうので。
ーーともあれ、2024年をいい締め方で終われてよかったです。
完全Vなんて3、4年ぶりでした。今回は「東京スポーツ新聞社杯」だったんです。元スポンサーの冠レースを飾れてよかったんですけど、そのあとインフルエンザにかかってしまい年末はボロボロでした。終わり良ければすべて良し、とはいかなかったですね(笑)。
ーー昨年末には競輪界の一大イベント「KEIRINグランプリ」が行われました。ご覧になって、現役選手としてどんな思いがありましたか。
グランプリは、もう脇本雄太が脇本雄太っていうレースをした感じでしたね。友だちの晴れ舞台ですし応援していましたよ。ああなると古性(優作)に向きますよね。
ーーヤンググランプリはどうでしたか。九州からは後藤選手と東矢圭吾選手が出場しました。
えっ? いや、あぁ…。いいレースでしたね、うん。みんな頑張ったと思います。
ーー優勝は纐纈洸翔選手でした。
こうけ…? ん、あぁ…はいはい。
ーー後輩2人が出場したのに、まさか観ていないとかはないですよね。
いやいや、後輩が走っているのにそんなわけないじゃないですか。あ、あの…ちょっとトイレに行ってきます。
〜しばし中座し、戻ってくる〜
ああ、纐纈君が優勝でしたね。あの内コースを行けるのはすごいし脚が溜まっていたんだと思います。ナショナル2人の対決も最後まで踏み合っていたし、つばぜり合いがすごかった。後藤君も打鐘で叩いたのは良かったなぁ。行かれてしまったけど、圭吾もそのおかげで3着でしたから惜しかったですよね。いやあ、迫力があったなあ〜。
ーーいやいや、絶対に今トイレでダイジェストを見ていたでしょう。
(無視して)ガールズグランプリは何年かぶりに石井寛子が優勝しましたね。サトミナ(佐藤水菜)の一強ムードがあっただけに驚きました。
ーーガールズは見ていたのですね。
サトミナ(佐藤水菜)の強さが突出していたし、他の選手がどう立ち回るかと思って見ていましたが、まさかサトミナ以外が勝つとは。すごかったですよ。
ーー2車単4,660円、3連単40,490円と高配当でした。ファンの人たちも予想しにくかったと思います。
後日、玉さん(玉袋筋太郎)と話をしていたら3連単を3枚的中したと聞きました。さぞかし美味しいお酒を飲まれたことと思います。
ーーさて、1月は立川記念に始まり松山FI、久留米FIと計3本を走りました。まずは立川の話からうかがいます。一次予選は後藤選手とワンツーでした。
二次予選は坂田(康季)君もいたし後輩たちのおかげで何とか形にはなりました。後藤君はもう特級介護士ですね。いつも助けてもらっています。
ーー二次予選は坂田選手の番手から飛び出し、あの北井佑季選手に先着しかけていました。
北井君をピタっと合わせたんです。結局行かれましたけど、レース後に「合わされてしまいましたよ〜」ってビックリしていました。S級S班を驚かせただけで、こちらとしては十分でした。
ーー準決は山口拳矢選手と連係しました。
拳矢とは初連係でしたし一緒に走れたのはよかったけど、準決と最終日は竹内(智彦)さんに連日からまれたのが痛恨でした。
ーー竹内選手とは2走ともに敵として戦いました。
準決はすくわれて、最終日は持ってこられました。もう竹内アレルギーってぐらいの勢いでいたら、次の松山の初日も一緒だった(笑)。「また一緒ですか、もう真っすぐ走ってくださいね」って懇願しましたよ。
ーー竹内選手も苦笑いするしかないですね。
竹内さんって(松岡)貴久にしか見えないんですよ。すくわれたりドカされたりしたけど、そんなこともあってなぜか話しかけてしまう。またフランクな人だから話しやすいんです。
ーー続く松山はいかがでしたか。
立川に続き後藤特級介護士がいたのに生かせなかったんです。初日は誕生日が同じ菊池(岳仁)君に、最終日は(渡部)哲男に阻まれました。
ーー決勝は後藤選手に中川選手、瓜生崇智選手、中村圭志選手と九州4車でした。ただ、野口裕史選手との2分戦でしたし厳しい戦いだったと思います。
さっきの松井の話じゃないけど、また地元の気合系のレースでした。野口君の番手が哲男だったんです。
ーー長年、松山競輪を支えてきた地元の看板選手です。
後藤君が野口君を突っ張っても、絶対に哲男が無理してでも踏みながらオレのところにくると確信していました。
ーー瓜生選手の位置よりも中川選手の位置の方がカタい、と。
そんな展開しか読めなかったから、こっちも地元の気合を受け止める準備はしていました。案の定、予想通りで野口君がまだモガいているのに、すくって降りてきた(笑)。
ーー併走が続きましたね。
頑張った方でしょう。着は負けたけど守り切った形にはなったので。レース後は「ゴメン、ゴメン」って来てくれたけど地元だししょうがない。ただ、すんなりキメられて哲男が優勝するのは仲間たちに申し訳ないと思ったし、ウリ坊の優勝なら良かったかな。
ーー松山競輪の決勝といえば以前に伊藤旭選手の後ろを橋本強選手と競り合って優勝したレースがありました。
波紋を呼んだやつですね。追い上げからの外併走で旭にマークしたんです。今回もあれをしようか頭をよぎりましたけど、結局しませんでした。
ーー調べたら2022年3月18日の決勝でした。当時、質問コーナーやSNSでは「ありえんです」「競輪じゃない」「初手から裏切って別線か」「ライン戦を名乗るな」「伊藤旭に謝れ」「番手を捨て、後輩を捨て勝手にまくるのは胸糞悪い」「併走が嫌なら伊藤に付くなクソ野郎」「最初から自力でやれ」「後輩の自力を追わずに裸で別線とやり合いさせて、後からまくるなんて昔の○○選手みたい」「賞金泥棒」など多くの苦情が入りました。
ドン競りじゃ強に勝てないから、追い上げて旭とドッキングしたんです。ダイジェストを見ていただければわかりますが、3角でドッキングをした際に旭を抜きすぎてしまい、わざわざバックを踏んで付き直しているんです。でも一部の人には「競りが嫌だから旭と並ばず強にハコを明け渡し、すぐさま自力に転じて、合わされそうになったのをギリギリまくった裏切者」と映ったのでしょう。
ーー開催中、レース以外の面白いエピソードはありましたか。
川崎では同期の浅野徹さんと久しぶりに会いました。今は検車というか管理で働いていて。浅野さんって昔、競輪界で時の人となって注目を集めたことがあるんです。
ーー何でしょうか。
もう5、6年前になりますが、レース中にサドルが折れてバンクに落ちてしまいケツをおろすことができなくなっちゃったんですよ。
ーー調べたら2019年5月の奈良でそのような事象がありました。
シートポストが折れてしまったものだから、ずっと立ちこぎで周回して3着に入ったんです。ニュースにもなったし浅野さんが一躍、全国区となった瞬間でした(笑)。あと、松山ではちょっとした問題が起きました。
ーー気になります。
工藤(文彦)君が「コラム、読んでますよ」ってきてくれたんです。
ーーまた、隠れ読者がいましたか。別に問題ないじゃないですか。
工藤君はずっと岡山籍だったから接点が無くて、どういうタイプかわからなかったけどけっこう喋るんだなって。そうしたら、まずいことを言いだしたんです。
ーーどうしましたか。
「自分も荒井(崇博)さんに憧れているんです。荒井さんみたいになりたいんですよ!」ってきた(笑)。
ーーそれは、まずいですね。
あ、とうとうきたな、と。
ーーこのコラムに責任があります。
そうなんです。ついに間違った方向へ進む人が出てきてしまったんですよ。
ーーちょっと受け取り方が違ったのかもしれません。
荒くれているけど本当は男気のあるいい人、みたいな設定になっているんですよ。だから、「荒井さんは20歳からあのキャラなんだ。間違えちゃだめだよ」って強く訂正しておきました。
ーーどういった部分を憧れているのでしょうか。
工藤君は「自分も」と言っていたけど、オレは別に憧れてはいないんですよ。荒井さんにはなろうとしてなれるものじゃないし“ナチュラルボーンキラー”みたいなもんです(笑)。
ーーそれ映画のタイトルじゃないですか。直訳すると「生まれつきの殺し屋」って、絶対に怒られますよ。
いやいや、あくまで物の例えで悪意はないです。荒井さんの性格は作られたものじゃないし、生まれたころからあんな感じだからって意味です。
ーー工藤選手は理解してくれましたか。
わかってくれたと思います。荒井さんに言わないでくださいねと言われたけど、こんな面白い話はコラムに書くよとは伝えました。
ーー荒井選手は建前上、このコラムは読んでいないことになっていましたよね。
そうです。表向きはバレませんから工藤君、安心してください。
ーーそして、もう一本は久留米FIです。連日、後輩選手との好連係から勝ち上がりました。
初日、準決はもう(岩谷)拓磨のおかげですよ。何も言うことはない、痒い所に手が届く介護士です。準決は(宮崎)大空を1車挟み、3番手から突き抜けました。大空は驚いたみたいです。
ーー3番手からブチ抜かれるとは思わなかった、と。
大空はレース中、相当苦しそうに踏んでいたんですよ。後ろから“ああ、きつそうだなー”って思いながら追走していました。
ーーいわゆる、交しの交しが決まりました。
拓磨が3着だったけど決勝に乗れなかったのは残念でした。開催後、LINEを開けたら、友田教官から準決に関するメッセージが来ていたんです。
ーー友田教官とは今、日本競輪選手養成所にいる元選手の友田雄介さんのことですか。
はい、教官です。珍しいなって思って開いたら「準決見ました。あんな残し方があるのですね(笑)」ってオレの走りを見て激励してくれました。久しぶりの連絡がこれかよ、って少しうれしくなりました。
ーー決勝には宮崎選手に松本秀之介選手と熊本勢が3人乗りました。
決勝は(山口)拳矢1人にすべてやられたってことでしょう。今回、初日特選から相当強かったですし。レース後はもちろんみんなで反省しましたが、帰りの大空がちょっと浮かれていたんです。
ーー何があったのでしょう。
賞金袋の中身を確認したそうで「誠一郎さん! 初めて帯がありました!」って興奮していたんですよ。
ーー帯、とは井上昌己選手が使う独特な表現ですよね。
100万円に帯封が付いているところから、100万円を超える賞金があると「帯、あるばい」って言うんです(笑)。帯、が普通に通じるのも変ですけど。
ーーそれだけ宮崎選手がステップアップしているということですか。
そうですよ。S級初Vはお預けでしたが、初帯は手にしていました。これからってことですよ。
ーー今月は他には何か出来事があれば。
そうですね…熊本支部の合宿があって沖縄へ3泊4日の日程で行ってきました。ゴルフをやって、うまい酒を飲んで、ショーパブへ行って…。
ーーれっきとした支部合宿ですよね。
そうそう、ゴルフで自己ベストが出たんですよ。楽しかったなあ。ああ、もちろん自転車にも乗りましたよ。みっちり乗り込んだし、3日間は介護士たちに揉まれてきました。合宿の成果が出るかわかりませんが2月も頑張ります。あっ、あと質問コーナーですが、バタバタしていたため来月に持ち越しさせていただきます。よろしくお願いします。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。