ーーどうして予想屋に？

チャンピオン　義理の父が予想屋さんをやっていて、自分が26歳の時に「やってみないか？」と誘われて。4、5年ぐらいやってたんですけど、お義父さんが早くに亡くなってしまって、それでそのまま2代目『チャンピオン』を継いでそのままやってきました。実家はもともと床屋だったんだけど、「好きなようにやっていいよ」と言われていたので、この(予想屋の)世界に飛び込みました。“予想屋業”なんて知られてなかったから、周りから反対されることもなく、すんなり予想屋になっていましたね。

タイガー　45年前にスナックをやっていたんだけど、常連さんに予想屋さんがいたんです。で、その人が膝を痛めてしまって「立って商売ができない、手伝ってくれねえか」と声をかけられたのがはじまり。当時予想屋の台が37台あったんだけど、1台空いていて、会長の鈴木さん(ライオン社)から「お前やってみないか？ 俺がライオンだからお前はタイガーでいいだろ？」と声をかけられて台に立てるようになったっていうわけです。友達や親戚からは予想屋になったことに対してあまりいい目では見られなかったけれど、自分の家族を守る生活もあったもんで。周りはあれこれ言うけど、生活までは面倒みてくれねえから。

ーー予想屋歴は何年になるのでしょうか？

チャンピオン　50年になるかな。初めて予想を売った時のことはあんまり覚えてないけど、アガって(緊張して)たね。台の上からとにかく大きな声を出していました。お客さんを集めないといけなかったからね。一番思い出に残ってること？ そうだね、お客さんに1100万円を儲けさせたことだね。当時は場外発売もなかったし、10レースしかなかったし、そもそも本場に来ないとレースが見られかった。配当も堅くて、“丁半”みたいなレースになることが多かったから1レース、1レース本当にしびれてたね。

タイガー　今76歳で、30歳のときからタイガーだったもんで、46年かな。スナックをやめて予想屋一本で生活できるようになったのは40年前。今じゃ考えられないと思うけど、当時は競輪場に一日1万2000人は入ってたかな。

ーー会心の予想はありますか？

チャンピオン　2004年の立川グランプリを3連単でズバリ当てたことだね。当時3連単が始まって4年目ぐらいだったかな。場にいるお客さんたちも買い方とか点数とかまだつかみきれてなかったから、たくさんご祝儀いただきました。

タイガー　40年やってるとさ、その都度その都度嬉しいことがあってね。正月の伊東競輪で、勝負レースを当てたんだけど、お客さんが予想に乗ってくれて222万円を儲けさせたことかな。

ーーどのように予想を組み立てているのですか？

チャンピオン　前夜の段階でざっと全レースを見て、実際は当日の朝5時から予想をはじめます。2時間くらいかな。荒れるレース、荒れないレースの見極めが大事ですね。自分の場合は2車単で3〜5000円相当のオッズで勝負したいと思っています。勝負レースは1日3レースです。『チャンピオン』の場合、自信のあるレースを『特報』と呼んでるんですけど、それを2レース用意しています。『特報』は実際にホワイトボードを使って、展開予想をお客さんに説明するんですけど、やっぱり(『特報』は)よく売れましたね。コロナ禍でやめちゃったんだけど、いまでも「特報やらないの？」なんて言ってくれる常連さんもいます。

タイガー　新聞でメンバーを見て、一番強いのは誰、一番先行力があるのは誰、それぞれの性格とかラインを分析していく。初日の選手の状態を見て2日目、3日目、4日目と選手の状態を加味した自分の感覚の部分を強く出して予想していく。予想の時間は一日だいたい3時間くらいかな。で、不思議なもんで、早く予想ができた日は当たるけど、長い時間かけて予想すると当たらない。予想で大事なことはまず当てること。当てるために予想しているので。

ーー時代は変わり、今はAIが競輪予想をする時代になりました。

チャンピオン　競輪はラインの競走で、落車もあれば失格もある。体調次第で、選手は劇的に変わります。そして人間関係の機微を推察する必要がある。AIはそこまでわかってるんですかね？ 自分は絶対にAIには負けないです。恐るるに足りない。

タイガー　脇本乗ります、深谷乗りますとかさ、堅いレースばっかりだったらAIでも当たると思うけど、四分戦で逃げが二人いてごちゃごちゃする展開とか当てられるの？ 単純な計算で出された強い弱いじゃないんだよね、競輪は。世の中色々あるからさ、それでもいいっちゅう人もいると思うけど、レースの流れの中であの選手が動いて、この選手が抑えて、あの選手が引いて、この選手がマクる、っていう展開を組み立てて、それがその通りで決まった時にお客さんと一緒に喜ぶ。これをAIの予想で味わえるのかい？

ーーどうして予想を続けるのですか？

チャンピオン　この職は“天職”だと思っています。自分の考えをお客さんに提供して、当たった時の喜びをお客さんと共有できるところが予想の醍醐味です。これだけはやめられませんね。静岡の競輪ファンは汚い野次を飛ばす人は多くはないですが、車券を当てたい熱は世界で一番だと思います。この商売は当たってナンボ。どんなにうまいこと言ってもハズレはハズレ。結果で判断される世界ですから。入場者数も静岡は多いですし、グランプリの日は2万人来ると言われてますがどうなんでしょうね、いっぱい来てくれると嬉しいけど。

タイガー　楽しいし、やめられないから。やられた日はさ「やってられねえな」って気持ちになるけど、家帰ってるともう次の日の予想をしてるんだよね。なんだろう、予想依存症かもわかんねえな(笑)。

ーー静岡グランプリはどんなレースになりますか？

チャンピオン　まだ並びがわからないからね。岩本が神奈川をまわるかどうか、新山と清水が単騎、脇本古性でどっちが前か。新山の単騎はこわいね。後半ずっと調子が良かったから。南関3車が逃げたらその4番手に注目かな。悩ましいけど、車番が出てからじっくり考えます。

タイガー　どうも脇本が眞杉に分が悪い、と自分は見てる。眞杉と脇本がどのような形でレースをしていくのかがミソ。北井が真っ直ぐ逃げて郡司、岩本、そのラインのところへ清水がつくか眞杉が取るか、脇本が取るか。清水がまくって外を来る脇本、中を割る古性？ いろいろ展開を描いてみるけど、現時点で一番(優勝の)近くにいるのは郡司だよね。車番も談話も出たら、もうちょっと考える。

ーー本日はありがとうございました

タイガー　さいごに言わせてください。静岡競輪場の協力があって、我々の協会が存在しています。人がいっぱい来ていた時代も、震災やコロナでお客さんが来なくなったときでも、我々コンサル協会へ理解を示してくれたことで、こうして活動ができています。本当にありがたいです。静岡競輪場は間違いなく日本一の競輪場ですので、みなさん、是非足を運んでください。

【プロフィール】
タイガー
漆畑明。76歳。静岡KRコンサルタント協会会長。元スナック経営者で、お客様と一緒に的中の喜びをわかちあえることがやりがい。

チャンピオン
大澤孝至。78歳。静岡KRコンサルタント協会副会長。「予想屋は天職」修羅をくぐり抜けて50年、人生の全てを競輪予想に捧げてきた。