アプリ限定 2024/09/10 (火) 12:00 30
平安賞という全国の記念の中でも独特の雰囲気がある向日町の記念は、今年も熱かった。タフだった。「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」というのはアメリカの小説の名言だが、とにかく平安賞においては「強くなければ生きていけない」。
優勝した脇本雄太(35歳・福井=94期)の強さは無論だが、真後ろにいた武藤龍生(33歳・埼玉=98期)の言葉で表したい。脇本は清水裕友(29歳・山口=105期)の先行を、今を時めく窓場千加頼(32歳・京都=100期)が中団からまくった上をのみ込んだ。
「マジかよ!って思いました」
初めて脇本マークを経験した武藤は驚きつつ、「すごくいい経験ができました」と充実した顔をしていた。離れてはしまったものの、最後3着に突っ込んできている脚と根性はやっぱりすごい。
脇本との別線、自力勝負を決断した窓場の強さは、これからもっとすごみを増していく。
それが、ヒロト。あれが、ヒロト。清水は結果としては8着だった。だが、清水の走りに熱視線を送っていた選手がいた。
「脇本をふたしたまま邪魔することもできるわけですよ」
そこで窓場が駆けたところで中団を確保して勝負する戦術も思い浮かびやすい。「でもあそこで力勝負するのが清水君なんですよね。なんかもう最近は選手っていうより、競輪ファンになってきちゃって…」とその走りを見つめて、心を打たれていた。
清水が駆け、松谷秀幸(41歳・神奈川=96期)が内を踏んで乱した時には、タカヒサ(松岡貴久、40歳・熊本=90期)の優勝かと思った。「夢は、寝てみるもんですね」(タカヒサ)。清水としては悔しい8着だと思う。だけど、こんな感じ方をしていた選手がいたということを、ファンや、ヒロト本人に伝えたい。小細工なし! 力で! それが、ヒロトだ!
身悶えするような戦いがずっと行われてきた現在の向日町バンクでの戦い、我々としては取材はしばし、お預けとなる。選択肢はひとつ。“待つ”のみだ。熊本競輪場の時は震災があって、で事情そのものは違うものの、本場開催がない中での選手たちの戦いはまた注目を集める。
京都の選手たちが、改修が終わるまでにどんな走りを見せるのか。そして、改修なったその暁には…。人間には年齢があって、どうにもこうにも…ということもあるかもしれない。ただし、待つ。
開催が終わり、ちょっとファンの方と触れ合う時間があって、ある選手とファンが話しているところを他の記者が見ていたという。私は他の選手を取材していてそこにいなかったので「こんなやりとりがあったんです…」と神妙に教えてくれた。
ファンからしても、再び向日町で、応援し続けてきた選手が走ることを願っている。その思いがある。
ファン「5年後は、何歳になっているんですか?」
選手 「5年後ですか? ハタチ(20歳)です!! ハッハッハ!!」
このやり取りを教えてくれた記者は、「ファンの方はこの返事にうまく反応できず、見たことのないような戸惑っている顔をしていました…」。白昼夢のような、4日間だった。何もかもが夢で、何もかもが現実で…。5年後に、目を覚ましたい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。