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前田睦生の感情移入

【パリ五輪】史上最強の選手はラブレイセン、世界の強豪たちは野獣

2024/07/27 (土) 12:00 25

じゃれ合うラブレイセン(中)とホーフラント(左)を見つめる深谷知広

短距離はオランダ最強時代

 パリ五輪が開幕し、自転車競技のトラック種目は日本時間の8月6日の深夜から競技がスタートする。男女チームスプリント、男子チームパシュート。心臓が小さくなるような緊張感が一気に生まれる。4年に一度。楽しみのはずが、来てほしくない感覚にも襲われる時期だ。

 2021年に1年延期後に開催された東京五輪の男子チームスプリントはオランダが金メダルを獲得した。東京五輪前のシーズンも席巻していて、何よりハリー・ラブレイセンとジェフリー・ホーフラントの2人は抜きんでていて、ロイ・ファンデンベルグも強靭としか言いようがない。

 2019年12月香港のワールドカップ(現在のネイションズカップ)の男子スプリントでラブレイセンが金、ホーフラントが銀、そして深谷知広(35歳・静岡=96期)が銅メダルを手にした。決勝の戦いはレールのない場所を新幹線同士が接触することなく、高速でせめぎ合いながら、完全な調和を持って戦う信じられないほどのレースだった。

 スプリントの極致のようなレースで、熱気ムンムンで暑さを感じる場内で、心の底が冷えわたったのを覚えている。深谷はそこに立ち向かっていた。とにかくこの2人は今でも強い。深谷が3-4位決定戦でポーランドのマテウス・ルディクに勝った時は、涙が出た。

オーストラリアに新星が

太田海也も化け物の世界に突入

 オーストラリアも自転車強豪国で、短期登録制度で来ていたマシュー・グレーツァーの名前を知っている人も多いだろう。東京五輪を前にして病に襲われ、出場はしたが、期待された結果は残せなかった。「違うマシューがヤバイ」が近年の話。マシュー・リチャードソンという化け物がまたしても現れている。

 ラブレイセンに勝てる男。五輪と世界選手権以外の大会では、各国が諸課題を持ち、“ただ優勝だけを目指して”ではない場合がある。ために、結果だけで判断はできないこともある。日本にしてもそうだ。その中でもラブレイセン、リチャードソンに迫っている、また上回ることもあるのが太田海也(24歳・岡山=121期)だ。この人も、化け物。

 スプリントでは太田がその耐久力を持って、この2人を倒しにいく。ケイリンではロンドン、東京を連覇したイギリスのジェイソン・ケニーはいないが、太田であり、また中野慎詞(25歳・岩手=121期)が強豪に挑む構図。ラブレイセンもどうしても欲しいタイトルで、あの野獣の叫び声が響くことだろう。イギリスのジャック・カーリンはロックバンドCLASHのメンバーみたいなんだよな…。

 東京五輪の勝ち上がりの段階、1回戦で新田祐大(38歳・福島=90期)は1着、ラブレイセンと同じレースを勝って勝ち上がっている。枠順の抽選という“運”の部分も含まれるケイリン。チャンスをものにできるか、が問われる。

 チームスプリントはとにかく3人が力を合わせて…。

女子ケイリンは佐藤水菜に期待

グロの20歳は伊東競輪場でお祝い

 女子ケイリンで佐藤水菜(25歳・神奈川=114期)の金メダル獲得が期待されている。ドイツのリーソフィー・フリードリヒやエマ・ヒンツェといった強豪がいて、地元開催になるフランスのマチルド・グロも相当な思いがあるだろう。

 グロは短期登録制度でガールズケイリンを走っていて、まだ20歳にならないころで、未完成の感じがあった。ただ、その爆発力はパリ五輪に向けて、上向くばかり。強敵の1人だ。やはり、自国開催となると五輪はまた違うものになる。

 東京大会を見ている時、カナダのジュネスト、ウクライナのスタリコワ、など東京前のワールドカップでは苦戦も目立っていた選手が抜群の仕上がりで活躍していた。スプリントで金メダルを手にしたカナダのケルシー・ミッチェルのように競技歴が浅い中で一気に輝いたケースもある。

 佐藤と太田りゆ(29歳・埼玉=112期)が世界に衝撃を与える瞬間を待ちたい。

梶原悠未は金メダルのみ

世界の強豪たちが五輪に仕上げてくる

 女子オムニアムは梶原悠未(TeamYumi)が東京五輪銀メダルの上を目指す。「あの悔しさを…」。最後の4種目目のポイントレースでは落車してしまった。しかし、悲痛な表情ですぐに立ち上がりレースに復帰。あの時の表情は忘れられない。アメリカの女王・ジェニファー・バレンテを何としても倒したい。

 男女マディソンはどこまで五輪の舞台で戦えるのか。日本チームとしてはマディソン挑戦の歴史は浅い。その中で出場権を得る成長ぶりは、これもまた衝撃。

 海外のロックバンドに手の届かない憧れを持ってしまうように、マディソンを走る海外選手は別次元だと感じていた。だが今はそれはない。日本チームが刻むリズムと、実は攻撃的なビートが、渦巻く。それに加えて、最高の笑顔。

ジョーは「内の近所に小さいバンクがあるよ」と書いて教えてくれた

 イギリスのジョセフ・トルーマンがチームスプリントに出場予定。トルーマンも短期登録制度で日本に来ている。彼も20歳になる前、の若いころだった。松戸競輪場の検車場で、所在なげに不安そうにしていた。

 取材も長くなり、「海外の選手が来ると、日本の選手は厳しいよ」と嘆く声も聞く。だが、彼らとて…おそらく非常に閉鎖的に感じる空間で、言葉もあまり通じない。そこに、挑戦している。困難な局面に挑んでいる。何か、元気になってくれないか、と声をかけた。ジョセフ、なので、「Can I call you Joe?」。ジョーと呼んでいいかい、と前頭部が薄くなった日本人に声をかけられたトルーマンはキラリと瞳を輝かせて喜んでくれた。

 すぐにジョーは日本になじみ、競技大会の取材に行くと、日本で買った軽自動車に乗っていた。小さな車の運転席で、天井に頭が突き刺さったまま手を振ってくれたシーンは面白かった。

 正直な話、国籍を問わず誰が頑張って、どんな成績になってもいいと思っている。誰かが、どこかで、本当に必死で頑張って国を背負って、仲間や支えてくれる人たちのために戦っている…。本当にこれが正直な気持ちだ。

 しかし!しかし!しかし!悔しい思いをしてきた、涙だけを流してきた先人たちのために、今回ばかりは日本人選手が、自転車競技のトラック種目で金メダルをつかんでほしい。世界の強豪たちを、倒してくれ!

世界を、倒せ!


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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