2024/07/23 (火) 16:30 31
全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、基礎練習に取り組んでいる佐藤慎太郎です。長く選手を続けていても、どんなにストイックに練習に励んでも、「やったこともない基礎的なトレーニング」というものがあるものですね。この夏、しっかりと土台づくりに精を出して、まだまだ成長の余地を求めてやっていこうと思う。今月は良いも悪いもごった返しているからテーマも構成も決めず、ただ徒然なるままに書いていく。
前回のコラムで「競輪は噛み合わないと勝ち上がれない」と書いて、その足で久留米記念の追加参戦へ。まさにそんなシリーズを過ごすことになった。コンディションが良くて、メンタルも良好。「ここで優勝」の気概で競輪場に入っている。だが、二次予選で敗退。「こんなところで負けていいものか」って本当に悔しい夜を過ごすことになった。
コンディションを維持することも大切だが、それだけでは勝てないということ。調子が良くて勝てないのであれば、悪ければ絶対に勝てるわけがない。この敗戦から学ぶことはある。いつでも「コンディションを良くしておく必要がある」ってこと。敗退したとはいえ、とにかく調子の落ち込みも感じなかったし、新しく変えたフレームにも手応えがあったので、新田祐大と一緒に参戦する小松島記念に集中した。
その小松島記念の初日特選で久しぶりに1着を獲った。走りにも納得しているが、初日特選で1着という結果に意味を感じた。遠いところや見えないところに優勝があるわけではなく、「近いところに優勝がある」と感じられる。二次予選にも気合が入った。ここも1着で連勝をキメることができた。
久留米記念の時と何ら状態は変わっていないのだが、結果はまるで違う。これが競輪。しかし、二次予選は課題も感じたレース。連係時、オレと大川剛とで呼吸が合わなかった。次回の連係を絶対に良いものにすべく、レース後に大川剛と反省会を行った。
そして準決勝。外を踏もうが、ゴール後に脚の余力を感じるくらいだった。前回、新田祐大の復帰がもたらす影響を書いたが、その存在は大きい。レース前だけではなく、開催に入る前の生活段階から恐怖心を感じる。理想の追い込み選手像を崩さず、仕事を完遂したいと強く思っていても、ぶっちぎられるパワーがある。準備段階で妥協をすれば理想の追い込み像など簡単にぶち壊される。
恐怖心と緊張感に包まれたトレーニングを日々積み上げていくと、しっかりと脚が仕上がる。日頃の練習を頑張るだけならオレひとりでできることだが、爆発力を見せつけてくれる新田の後輪は最高の恐怖心を与えてくれるってわけよ。だから練習の成果に違いがあるんだろうな、と思っている。
さて、調子も流れも良いままに迎えた決勝だったわけだが、残念だったな。勝敗を分ける局面でスパン!とコースに入って行ければ良かったが。山田英明の動きに対応していく中で一瞬スピードを殺してしまったし、直線でもコースをこじ開けていくしかなかった。山田英明と新田祐大の間にスピード良く入って行けていれば、犬伏湧也と良い勝負になったように思う。それでも先着できるか問われれば微妙。きわどい着差には持って行けたか?くらいの感覚だ。
シリーズを終えて思ったのは勝負になる脚もギリギリのレース判断もできているということ。冒頭で書いたが、とある基礎的な分野で自分に足りていない点も見つけたし、今はそれを補うためのトレーニングに励んでいる。準優勝に終わった小松島記念でも、その基礎的な部分に伸びしろがあることを実感した。上辺のこと・専門的なことに取り組みたいなら、やはり強固な土台がなくてはならない。やる事は見えているので、楽しみな気持ちで鍛えている。
サマーナイトは優勝争いもできずに終了した。勝ち上がれなかった悔しさとは別に、準決勝がとにかく悔しかった。最近は悔しい夜を味わい過ぎているよ(笑)。レースは途中で落車のアクシデントがあり、落車してしまった伊藤颯馬を避ける形になった。オレのペダルに伊藤颯馬の車輪が当たっているし、タイミングがズレていたら、オレも落車をしていたケースだと思う。「落車しなくて良かった」と考えることはできなくもない。それにしたって“その後”が悪い。
レース中は最後まであきらめずにできることを判断しながら走ったつもりだ。だが、7着でゴールしたオレの脚には余力が十分に残っていた。まだ、踏めたってわけ。これが本当に最悪。非常に悔しい。新田が1着でオレが7着。「避けた後にもっと何かできただろう」という感想を持った。
終わってレース映像を確認したが、避けた後に「新田を追い続ければよかった」と分析した。途中、和田健太郎のところに行っているが、そうじゃない。もう無理矢理に外を踏んででも、新田を追いかけるべきだった。そうすれば脚を残してゴールすることはなかっただろう。出し切れずの悔しさを味わうことはなかっただろう。
無論、追い込み選手のオレが必死に外を踏んだところで、直後の松浦悠士や脇本雄太に追い越されるだろうし、確定板には至らないかもしれないよね。でも7着ってことも脚を残すってこともなかった気がしてならない。
ゴール後は走れなくなるような状態まで出し切ってゴールしたい。敗退という結果が変わらなくとも、勝負すべき場面では一瞬で勝負していかないといけない。やり切った状態で終えなくては本当に自分に対して悔しさが残る。
サマーナイト最終日は犬伏湧也と連係する番組だった。その番組構成に追い込み選手としての価値を保っていることを感じたし、今をときめく犬伏との連係がとにかく楽しみだった。 犬伏はレースでみんなに警戒され、けん制を受け、非常に走りにくかったと思う。そんな中でも頑張って仕掛けてくれた。結果4着ではあるが、厳しい展開の中であの位置まで行けたことにも犬伏のダッシュに立ち遅れることなく追走できたことにも収穫があり、納得している。
準決勝の悔しさを少しばかりは和ませられる内容になったと振り返っている。あきらめずに最後まで走り抜けて、余力なく終えることに集中すること。悔しいシリーズにはなったが、オールスター前に重要な学びを得たと前向きに捉えている。モチベーションは高い。
サマーナイトが終わり、Mリーガーたちと麻雀を打つ機会があった。このコラムで対談をした滝沢和典ことタッキーとも会えた。結果は4走して4・4・4・1だった。3発走り終えた時点で、もうふざけんなって感じになっちゃってさ。「雀卓ひっくり返して帰ろうかな」って言ったら、プロ雀士たちはみんな苦笑い(爆笑)。
最終戦は佐々木寿人師匠と同卓だったんだけど、「なんだよ、慎ちゃん。ぜんぶビリじゃねえか」なんて言うもんだから、オレ自ら「師匠、もう破門にしてください」なんつって(笑)。まあ、最後はトップだったし、もう一度入門したわけだが。
ともあれ勉強になることばかりでさ。最終戦の一発目、親番の寿人師匠が「ツモ、8000オール」という具合に倍満スタートだったりした。オレたち競輪選手なんて麻雀でいえば素人も良いところ。それでも全力でぶち倒しに来てくれる漢なんだよね。「ヒサちゃん、素人相手に何ムキにやってくれちゃってんの」と水を向けても、ヒサちゃんはニコりともせず!
終わった後に飯を食いに行ったんだけど、「そりゃ全力だよ。そうでなくては相手に失礼。それに相手に合わせて打ってしまうと自分のリズムも狂うしね」って。オレがプロとして取り組んでいる競輪もまったく同じ。そうだよなって再確認して、ここでも勉強させてもらったな。「どんなときでも、どんな相手でも自分のリズムで全力のもとにやり抜く大切さ」をね。
いよいよ次はオールスターだ。オレは初日にドリームレースを走る。お客さんたちのファン投票で走れる夢の舞台ってわけで、当たり前に走れるレースだなんて思わない。デビューしてからずっと選手として“夢のレース”であり、大事な一戦だ。良かったり悪かったりの波はあるが、相変わらずコンディションはいい。準備できることはすべて準備を。平塚バンクはイメージがいい。ダービーの表彰台や記念の優勝といった記憶も鮮明なわけで。シャンパンの味すら覚えている。万全の状態で臨むべく、日々を全力でやる。
よし、そろそろ筆をおく。今月はエールを贈りながら終わりたい。パリ五輪日本代表自転車チームへのエールだ。窪木一茂はオレの隣町の出身だし、学法石川の後輩でもある。ケイリン種目では中野慎詞と太田海也がメダル獲得に現実味がある。同郷の後輩、日本発祥のケイリン。みんなで日本魂を見せつけて活躍してきて欲しい。
ケイリンは走らないが、チームスプリントと個人スプリントで戦う北日本・小原佑太の活躍も願っている。みんながベストを尽くし、世界とやり合い、日本人が表彰台で君が代を歌う姿を見たい。オールスターが終わったら、オールスターと五輪組でダブル祝勝会をやるぞ。小松崎大地と新山響平と計画を立てている。がんばれ!ニッポン!ガハハ!
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佐藤慎太郎
Shintaro Sato
福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。