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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【オールスター回顧】天才でもなければ若くもない“超凡人”の佐藤慎太郎は考えを改め出直す

2024/08/23 (金) 18:00 51

平塚GI・オールスター競輪は決勝5着でシリーズを終えた佐藤慎太郎(撮影:北山宏一)

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、オールスターは大応援を届けてもらい本当にありがとうございました。久々となるGI決勝の舞台、ハンパじゃなくデカい悔しさを味わいました。小田原記念を走る前に振り返りを書き記しておきます。

流れの良い勝ち上がり

 ここ最近は思うところがあり、負荷が大きく強度の高いトレーニングとは別に、基礎的な部分を鍛える練習も取り入れている。この歳になると「絶好調!」と実感しながらシリーズ入りすることも少ないし、今回のオールスターも確かな上積みを感じていたかといえば、そうでもない。だが、決勝に進んでいく中では走りに納得できるポイントもあり、事実1着も獲れていた。コンディションは申し分なかったように思うし、前述した基礎的なトレーニングが活かせているような手応えも感じていた。

 また、長丁場の開催において得意不得意の波が起きないように徹底して準備はしているが、予選2発を走って1日休みというレーススケジュールは疲労の抜けという面でもプラスに働いたように思う。このコラムで頻繁に言っている「噛み合う」みたいな心境もあったし、シリーズを通して“流れの良さ”を感じながら戦えていた。

シリーズ前は基本に立ち返り、計画的なトレーニングメニューで強化した(撮影:北山宏一)

 そんな中で準決勝をクリアし、北日本は4車で決勝の舞台で挑むことに。オレは準決勝を響平と走ったことで、その仕上がりの良さを体感していたし、ラインは数的優位なわけだから、大きなチャンスが巡ってきたような感覚を持った。とはいえ、まったく油断するような気持ちにはならなかったし、メンバー構成上は有利な戦局に違いはないが「4車のアドバンテージがある」とは考えない方が良いという気持ちが強かった。

壮絶な準決勝メンバーの中で北日本ラインが上位独占、レース後に新山響平と喜びを共有した(撮影:北山宏一)

勝ち切れる手応えの中で踏んでいた

 決勝前夜は4車ラインの番手としての「責任感」と向き合っていた。しっかりとラインを機能させなくてはならないわけで、緊張や重圧があろうが、それらをガッチリ受け止めてレースに臨まないとならない。GI決勝だけに強力な対戦メンバーであり、響平をどのようにサポートして戦うか、ライン各自がどんな役割を持って走れるのか、さまざまなパターンを想定して、神経を巡らせていた。

 感じたくもないレベルのデカさでプレッシャーを感じることになるんだが、これって追い込み選手の醍醐味でもあるんだよな。前の選手の力、ラインの力になることを全力で考え、その中で自分自身の優勝を狙うって状況は。決勝でどんな役割を全うできるのか、どんな走りを選択するのか。とにかく、自分の走りを精一杯にやるだけであって、狙うは優勝一点。緊張感のある一晩だった。

決勝に詰めかけた大観衆を前に鬼の形相で登場、「三本ローラーの詩」を歌うファンも(撮影:北山宏一)

 そして決勝のレース。張り詰めた空気の中でスタートして、響平の主導権で進んでいった。ラスト1周のホームでは誰も捲りに来ることなく、前をひた走る響平のスピードも凄まじく、いよいよ優勝争いに身を置いている手ごたえの中で懸命に踏んでいた。最終バック過ぎ3コーナーの入りでもまだ捲りは来ない。優勝への手応えも膨らんでいったが、かと言って油断もまったくなく、ブロックへの意識も集中させていた。

ハイスピードで新山響平が駆け、一列棒状で残り1周を迎えた(撮影:北山宏一)

 そして勝敗を分ける最終3コーナーから2センターあたり。良いスピードで窓場千加頼が来た。集中していた分、ブロックに行く反応も良く、動きは悪くなかった。ただ、わずかながら“もうワンテンポ早いブロック”を繰り出したい感じではあった。これはオレの技術云々の話ではなく、窓場は意図的にブロックを受けるタイミングを計算して、“ワンテンポ遅くなるように”仕掛けていた。しかし、オレの感覚と目線ではスピードを殺しているわけで、最終4コーナーでは自身の優勝を信じて踏み込んでいた。

運命の最終直線、5車が横並び(撮影:北山宏一)

 だが、ゴール線を通過して、最終結果5着。前を走っていた響平は3着。優勝でもなければ響平を捉えることもできなかった。

僅差の熱戦、ゴール直後は9車が大密集していた(撮影:北山宏一)

決勝を走り終えて

 久々のGI決勝は心底悔しい結果になった。「この展開で獲れないとは。佐藤慎太郎、お前本当にこの先に獲れるのかよ」と自問自答したし、競輪のレベルアップを体感して「どう太刀打ちするつもりだよ」と考えた。あまりにも自分が弱すぎるだろう、と。

 しかし、決勝を細かく分析すれば課題や反省点がみつかった。最終直線に関しては、もっとうまくできた。まだレベルを上げる材料も具体策もゼロではない。さすがに一晩は落胆したし、オレのタイトル獲得に現実味を感じながら応援してくれた佐藤慎太郎ファンに優勝する姿を見せたかったから、悔しかった。

ファンの前でGIを制覇する姿をみせたかった(撮影:北山宏一)

 でも、ありがたいことに4年に1度のオリンピックではなく、オレがやっているのは競輪だ。すぐにリベンジの場に挑戦することができる。その環境にいながらにして、ガッカリばかりはしていられない。貴重な時間が流れている。手の届くところに優勝があり、それに近づいていく感覚の中で走れていた。走り終えて、もっと強くなるための材料も発見している。「あれで獲れないのかよ、佐藤慎太郎は」と本気で思っている。同時に、すぐそこに優勝を感じたのだから、やはり手中におさめたい、おさめられると本気で思っている。

 オールスター明けにトークイベントに行った。「次は優勝だからな」や「また目指せよ、狙えよ」と声をかけてくれた人たちがいた。オレのタイトル獲得を応援してくれる人たちがいた。

天才ではなく凡人、しかも初老

自身を“凡人”と評価している佐藤慎太郎(撮影:北山宏一)

 最先端のトレーニングも広まり、選手誰もが強くなるための練習に取り組めるようになった今、単純に身体能力が高い選手が速く、強い時代になったのだと思う。自分を鼓舞するとか、考えを深めるとか、プロセスを重視するとか関係なしに、タイムで凌駕していく感じで『天才がそのまま勝つスタイル』も見受けられる。

 オレはこの点に否定的な見解はなくて、競輪を“ファン目線”で見ていたりもする。最近はGIに限らず、記念開催でも、“ザ・脚力”のような強い勝ち方を目にする。正直、競輪の進化にテンションも上がるし、他選手は全員ライバルとはいえ、リスペクトの感情も高まる。ただ、このオールスターを走り終えて、少し考え方を意識的に改める必要がある気がしている。

 「アイツすげえな」と認めるべきポイントがあるなら、当然リスペクトの気持ちは間違いだとは思わない。だが、オレの中ではこのメンタルを変えないといけないと感じるようになっている。オレも真っ只中で戦っているわけで、リスペクトよりも「天才かなんだか知らないが、頂点はオレがかっさらう」くらいの気概がなくては、GIタイトルに脈はないのかもしれない。

 ハイレベルな現場に身を置き、天才でもなければ若くもない超凡人、しかも初老(笑)のオレがどう戦っていけるのか? ということを考えている。天才の初老ならまだよかったかもしれない。凡人の若者なら伸びしろも無限大。勝つための方法論など、やりながら見つけていくほかない。だが、初老の超凡人が「タイトルをあきらめない」と本気で思うのなら、タイトルのすぐ近くで感じた弱さを飲み込み、『最高級の気合』を胸に刻み最善を尽くしていくしかできない。小田原から考えを改めて出直すとする。あきらめずに出直す。

あきらめない超鉄人が天才を丸飲みにする日は近い(撮影:北山宏一)

【公式HP・SNSはコチラ】
佐藤慎太郎公式ホームページ
佐藤慎太郎X(旧Twitter)

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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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