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「怪物にならないといけない」中川誠一郎の言葉を読み解く

2024/07/21 (日) 08:00 18

中川誠一郎(撮影:北山宏一)

 8年ぶりの再出発、熊本競輪場の再開が話題となっています。

 その地元のスター、中川誠一郎選手(45歳・熊本=85期)は、かつてnetkeirinの連載コラムで「怪物と戦うには自分も怪物にならないといけない」と謎めいた言葉を語りました。

「別にやっつけようと思ってやっているわけではなくって。ナショナルチームのメンバーには敵っていうよりも尊敬の方が勝つ。だからいい競輪がしたいって思いが強くなるのかなあ…。怪物と戦うには自分も怪物にならないといけないのですよ」(「競輪偏差値70の男」より、2021/10/31)

ニーチェを捉え返した中川誠一郎の言葉

 中川選手が語った「怪物と戦うには自分も怪物にならないといけない」という言葉は、実力者たちに敬意を払いながら、自らも戦いのなかで高みを目指す意志を示したものです。そしてこれは、19世紀の哲学者ニーチェの言葉を踏まえたものでもありました。ニーチェは著作『善悪の彼岸』のなかでこう書いています。

「怪物と闘う者は、闘いながら自分が怪物になってしまわないようにするがよい。長いあいだ深淵を覗きこんでいると、深淵もまた君を覗きこむのだ」(※1)

 この言葉は、強力なライバルや困難に直面するなかで、自分自身がその影響で変わりすぎてしまうことへの警告。怪物の一部となってしまい、新たな価値を創造するのを止めてしまうことへの戒めです。近からず遠からずのイメージで言えば、「ミイラ取りがミイラ」になる危険も近いかもしれません。

 ニーチェは「怪物になるな」と言っていますが、中川選手は「怪物になる」と宣言。この対照的な表現が面白く、怪物たちを飲み込む強さを表しています。ニーチェが説く「超人(高次の人間)」の思想とは厳密には異なるかもしれませんが、自己の向上を目指す点では共通していると言えそうです。

さまざまな「怪物」たちを乗り越える

 ニーチェの思想では、単にライバルと同じレベルに留まるのではなく、それを超えようとする意志を尊びます。この点から、中川選手の言葉はニーチェの思想と大いに共鳴するものが感じられます。

 7月20日に開催した「熊本競輪再建記念(FI)」。参戦する北井佑季選手も、中川選手にとって新たに加わった「怪物」の一人となるでしょう。さまざまな怪物たちを乗り越え、熊本競輪場から飛び立つ競輪界の「超人」、中川誠一郎選手の活躍に注目です。

(netkeirin編集部・木村邦彦)

【出典】 ※1 ニーチェ著、中山元訳『善悪の彼岸』光文社古典新訳文庫 (2009/4/20)


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