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前田睦生の感情移入

【選手の実家】具志堅用高を倒せると思ったファンキーな祖父とガールズケイリン・宮西令奈の決意

2024/06/24 (月) 12:00 20

宮西令奈の実家はBAR

祖父の夢

 加賀温泉駅を降りて、山代温泉の一帯へ向かうと、その風景に“らしからぬ” BARがある。「TRANSAM トランザム」。もうすぐ創業50年になろうという老舗BARだ。そこにちょっと変わった人たちがいる。

「ハッハッハ、若いころにね、なんだか具志堅用高に勝てるなんて思っちゃってたんだよ。世界チャンピオンになって13回も防衛した人に失礼だよね。井の中の蛙というやつ」

 ファンキーな祖父はバイク乗りで、夢はアメリカをバイクで横断すること。
「いや〜もう無理だと思うんだけど。アメリカ横断“Trans AMERICA”ということでトランザム」。空手で石川県のナンバーワンになった男は、その土地に根を広げていく。息子が現在のBARのマスターで高校、大学と空手で日本一に輝いている。そのファンキーな男性は、ガールズケイリン選手・宮西令奈(23歳・石川=124期)の父である。

 また、マスターは宮西翼(44歳・石川=100期)の兄。今回はトランザムな人たちの話。

ゲットだぜ!

異色な魅力を持つ令奈

 宮西令奈は昨年のデビュー時期から、NHKの名物番組「のど自慢」に出演したり、空手の演武をトークショーで行ったり、異色な活動に定評がある。父は「目立つことが好きな子で(笑)。この前はローカル番組の突撃取材に出てました」と温かく見守っている。「自分は自転車経験がないのでアドバイスとかはできないので」と、ひたすら応援している。

 令奈としては家族の支えに結果で応えたいところ。「だいぶ練習での感じはいいんですよ」。ダッシュを生かして位置を取るレースがハマればチャンスにつながっている。後はその精度や、総合力を高めていく。

 この地域には伊藤健詞(54歳・石川=68期)といういぶし銀のレーサーがいて、ある時「1000m、1分を切れるか」という話になったそうだ。体を鍛えていたという翼が挑戦したのが、翼が競輪選手になるきっかけ。競輪っぽさがない地域で、ファンキーな一族に火が点いた。

井上遥妃も輩出した

カミカゼを見つめ決意を固める

 この一族は空手の道場を開いており、ここからは女子ボートレーサーの井上遥妃も誕生している。「父親が徳島の人で、徳島でボートレーサーをやっています。体を鍛えてやってくれ、と言われて道場に来たんです」とマスターは振り返る。

 加賀市に、静かに、熱い時間が流れていた。

 加賀市は石川県の福井寄りの地域。1月1日の能登半島地震では震源地からはやや離れていたものの揺れは大きかった。加賀温泉駅前の加賀市美術館は今でも閉館中だ。1日のこと「ちょうど美術館のところを歩いて帰ったんです。地震で美術館も崩れたので、タイミングが違っていたら…」。令奈は蒼白な顔で振り返った。

 少しでもこの地域を明るくできればという思いが生きている。

目標を立てた

カクテルを作る父

 昨年5月にデビューして、7月の本デビューから、片鱗を見せつつも成績的には苦しんでいる。父がシェイクしたカミカゼを手にする。ウオッカ、コアントロー、ライム。爽快に喉を駆け抜けるその味わいは、強さを求める。

 ファンキーの始祖であるジイジは「もうアメリカ横断は無理だよ…」とつぶやく。しかし、店頭に飾られたハーレーダビッドソンは、倒れていない。カッコよく、立っている。何かを、待っている。

 令奈は目標を立てた。「アメリカ横断してもらえるように」。
 活躍して、稼いで、資金を作って、祖父の背中を押すことが目標。もちろん、その時はバイクの後ろにピッタリ付いて、ロッキー山脈をバイク誘導の形で乗り越えていく。テキサスの荒野を、祖父の背中に付いていく。ミズーリの自然の中を、駆け抜ける。ワシントン広場の夜はふけて…。

 バンジョーの音色が、加賀の夜に消えていく。

トランザム!


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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