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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】ダービー出場逃した中川誠一郎、ひたすら過去の栄光にすがる「ボクは1人で取ったもん」♯36

2024/05/12 (日) 18:00 50

3月に落車し満身創痍の44歳が5月から再始動。かつての持ち場からの陥落に気持ちを落としつつも、7月に控える地元の大イベントを前にそうもう言ってはいられない。気持ちを奮い立て競輪の魅力を少しだけ伝えます。 【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーーどうしましたか。ずいぶんにぎやかですね。

 ああ、今日は後輩を連れてきました。読者の方の質問コーナーにこんなのがあって。

Q、松岡貴久選手のファンです。中川さんのコラムでは相当な変人として扱われていますが、事実なのでしょうか。インタビューとかで見る限りまともな人に見えます。(青森県/30代/女性)

 今回、玉野の仕事帰りなのですが、ちょうど(松岡)貴久の弟がいたから、この質問にだけ答えてもらおうと思って。

貴久の弟 こんにちは。松岡3兄弟の3番目です。

 いわば、「職業:貴久の弟」っていう。ゲストがいると味が変わるので、同席してもらいました。

貴久の弟  うちの兄弟は空気が読めないので通っていますから。

 貴久なんて、20年近い付き合いだけど、まともだったのは最初の1年だけで、あとはずっとあんな感じだから。

ーーあんな感じとは、変わっているということですか。

 何を考えているのかわからなかったり、ここでこんなこと言わないだろうってことを平然と言ったり。最初はかわいかったんですけど。タレントの小島よしおさんに似ているとか言われた時代もあって。

ーー今、それ言われませんね。年齢を重ねたからですか。

 何か、あか抜けたんですよ。昔からイケメンだったけど、ちょっと野暮ったかったんです。

貴久の弟  兄貴が変になったのっていつぐらいからかって考えたことがあって。兄貴は高校時代に遊んでいなかったから「選手デビュー」だったんだと思います。大学から遊びだした人を「大学デビュー」とか言うじゃないですか。

ーーそれが、今も続いているってことですか。

 でも、選手になって20年近く経つのにまだ「デビュー」を引きずっているって、それじゃ完全におかしいやつですよ。そうか、それでいまだに変だったのか。何か納得した。

松岡貴久の弟と共に

ーーさて、今月は競輪界の大イベントのひとつ「日本選手権競輪」が行われましたが、中川選手はいませんでした。

 ダービーにいられないって寂しいものですよ。もう10何年も当たり前のように走っていたから特一般を走ったら何着までがここに上がる、とか番組のプログラムもぜんぶスラスラ出てくるぐらいですから。

ーーどこで見ていたのですか。

 現場にいられない切なさを感じましたね。開催中は千葉のPIST6を走っていました。ウィナーズカップの落車からの復帰戦でビラビラして、何をやっているんだか、と寂しくなりました。

ーー中川選手はここまで長年レギュラーを張ってきました。

 かつて、栄光の舞台で6600万円をゲットした男が、36トン(万円)を握りしめて帰りましたから。

ーー心中、とても穏やかではないですね。

 熊本に帰ってからも、まだダービーがやっていて。そのタイミングで高田隼人さんと飲んでいたんです。

ーーいつもなら走っている大会を俯瞰して見てどう感じましたか。

 本当は競輪を見たくないんですよ。前に話したようにアタマが痛くなるから。でもさすがに熊本勢のレースとかはチェックするんですよ。そうしたら、GIのあまりにものレースの激しさに「おー、すごいなあ、熱いなあ」ってファンの感想みたくなって。

ーーかつての大会覇者とは思えません。

 隼人さんとそんな話をしていたら「でも、誠一郎はあれを取ったんだよな?」って聞かれたんです。

ーー冷静になりましたか。

「怪しいからプロフィール欄をもう1回、確認したよ。やっぱ、取ってた(笑)」って言われて。

ーー2016年ですから、8年前です。

 段々とオレも自信が無くなってきたから、自分のプロフィール欄を確認しましたよ。確かに優勝していたし、そのあともたった2つほどですがGIタイトルを取っていましたね。

ーーさりげなく自慢をはさまないでください。ダービーと言えばGIの中でももっとも格式の高い大会として認知されています。

 そうなんです。競輪選手になった以上、グランプリの次に取りたい大会でしょう。

ーー優勝賞金もグランプリに次いで高いです。中川選手の時は6600万円でしたが、今回は8900万円でした。

 今はあのときより賞金が2割ぐらいアップしていますから、それぐらいいくでしょう。でも、ダービーっておカネじゃないんですよ、やっぱり。気高い名誉です。

ーー優勝した平原(康多)選手も会見で「一番、取りたかったGI」と話していました。

 それはそうでしょう。だけど、そんな大会をワタクシは平原より先に取っているのです。

ーーラインの結束力を示した平原選手と違い、単騎で取ったのも中川選手らしかったです。

 その話になると、みんなが「GIを援護無しで取ったんですか?」って冷やかしてくるんです。ああ、良かったなって。ネタ扱いで盛り上がってくれるから。でも「平原クンは前と後ろの3人がかりで取っていたけど、ボクは1人で取ったもん」って自慢できます。

ーーとても嫌らしい人ですね。

 マジメに話すと、ヨシタク(吉田拓矢)の先行や4角の武藤(龍生)の内締めとか、ラインの力っていいなと思いましたよ。

ーー中川選手は3つのタイトルのうち2つが単騎戦でした。

 唯一ラインができたのは別地区のワッキー(脇本雄太)と組んだときだけ。九州は大きなレースの決勝ともなるとなかなかラインができないし、関東の絆がうらやましかったです。

武藤龍生(撮影:北山宏一)

ーー競輪の基本的な形であるライン戦、がもっともわかりやすいレースでした。

 それにしても、武藤っていいですね。気合が入っているのに礼儀正しくて、出たがらずに献身的。あんな人、なかなかいないですよ。

ーーコツコツと自分の位置を守り、追込選手としての経験値を上げている印象があります。

 それに顔は怖いけど、めちゃくちゃ優しいんですよ。ってか、“顔が怖い”って表現は悪口にならないですよね?

ーー追込選手ですから、むしろ認めている感が伝わり褒め言葉になると思います。

 ヨコも相当えげつないですから。それでいて、本来なら主役になれる力があるのに自分は前に出ずに自力選手を立てるでしょ。

ーー九州で似ている選手はいますか。

 どうだろう。(中本)匠栄が近いのかな。でも、どっちかというとタテ型だからちょっと違うか。

ーーご贔屓の小岩(大介)選手はどうでしょう。

 小岩は… ちょっと我が強いかな(笑)。大分の色が強いし、ヤンキー気質のオラオラ感があるからなあ。結局、九州にはいないですね。

平原康多(撮影:北山宏一)

ーー文通相手の平原選手の優勝はうれしかったのではないですか。

 ああ、それは…。でも、500勝達成のときにお祝いを伝えたけど、返事が返ってきていないんだよなぁ。

ーーそんなことを根に持っているのですか。あのときは「500勝したなら記念に寿司を食わせろ」とか、むちゃくちゃなことを言っていたじゃないですか。

 あ、だから返事がなかったのか。でも、ここはしつこく行かなきゃいけない場面だと思うんです。押してダメならもう一回、押す。

ーーレースと同様に、どこで頑張るスイッチが入るかよくわからないです。

 ひとまず8900トン持っているのだから、ダービーラインで呼ばれますよ、きっと。オレのときは6600トンだったし、この2300トンの差はデカい。

ーーさっきまで、ダービーはおカネじゃない、とか言っていたじゃないですか。

 平原にフラれたら、武藤にお願いしましょうか。いい子だから、たぶん一緒に寿司をつまんでくれると思います。そのときはウチのラインから、普通に怖い顔の荒井(崇博)さんでも呼びますよ。

伏見俊昭と

 ダービーの話に戻りますけど、出走メンバーを見ていたら、時代の変わり目なのだと実感させられましたね。

ーーふと、何を感じたのですか。

 あるレースの出走表に「〇R、誘導・伏見俊昭」とあったんですよ。えー、伏見さんが出ていないのかって。

ーーいわき平の開催で伏見選手が出場していないのは寂しいものがありました。

 あと、今回の玉野ってダービーの裏開催だったんですけど、神山(雄一郎)さんがいたんです。久々にお見かけしたら、もう本当の神様みたくなっていて。検車場や風呂場で会うと、拝んだり、とげぬき地蔵の煙みたく悪いところにかけたくなるんです。

ーー世代交代を感じます。

 神山さんとは最終日のレースで一緒になって。もう何か、一緒に走れるだけで光栄だなって。自分も弱っているし、いつまで一緒に走れるんだろうって考えましたもん。S級を噛みしめて走ろうとか、珍しく感傷的になりましたね。

尊敬する方々との会合に参加

ーーレースの話はこれぐらいにして。私生活も含めて他に話題はありますか。

 それが、特になにも無くて。いつも通りに飲みに出たのですが、この間、西川(親幸)さんに会いました。

ーー去年、引退された西川さんですね。お元気でしたか。

 ものすごいお元気でしたよ。木瀬親方が熊本に来たとき、会食に呼んでもらったら西川さんも見えたんです。そこで一緒に写真を撮ったんですけど、このスリーショット、強烈でしょ。

ーーかなりパワーのある一枚です。

 ものすごく濃いでしょう。これをコラムで公開したいがために撮影してきました。楽しかったです。

 あと、皆さん、この時期の風物詩を何か忘れていませんか。

ーー意味深ですね。何でしょうか。

 オールスターのファン投票の季節がやって参りました。事前に中間発表をチェックしたら30何位だったかな、その辺にいました。

ーーもっと宣伝して集票したら、間違ってオリオン賞ぐらいまで食い込むのではないですか。

 それはおこがましい。こんな競輪をやっていないのがオリオン賞に乗ってしまったら、必死に競輪をしている人たちに失礼ですよ。出していただけるだけでありがたいです。

ーー今年も出られるといいですね。

 そうですね、このコラムを読んでいる皆さん、中川誠一郎への清き一票を、改めてお願いします。

ーー中川選手に申し上げにくいのですが、投票期間は12日の正午までです。コラムの公開日は12日の18時ですので、すでに期間は終わっています。

 え、そうなんですか! それじゃここでいくら熱く語っても一票も反映されないってことですか…。せっかくファン用に刷ったクオカード3000枚もパーですね。

ーーそういう冗談は怒られるので慎んでください。

 ♪刷ったクオカは五万枚〜、ですよ。実は、今年はもしかしたら点数で出られる位置にいると思って、集票活動をおろそかにしておりました。

ーー何で手を抜いてしまったのですか。

 去年は出られる可能性があるGIはオールスターだけだったから、かなり一生懸命でした。でも今年は全日本選抜にも出たし、うまくいけば10月の寬仁親王牌に出られる可能性もあるから楽観視してしまいました。

ーーオールスターもまだ圏内とは言えません。

 そうですよね。ああ、今月のコラム…もっと早くやっておけばよかった。レースと同様に詰めが甘かったです。痛恨!

ーー今月も質問が来ておりますのでお答えください。

Q、初めまして、中川さん。自分は競輪をツマミにお酒を呑んでいる依存性の男です。中川さんはお酒の量はどれくらい呑めますか? 僕は、ウイスキーならロックでボトル半分、芋焼酎ならロックで5号瓶1本ってとこです。あと、二日酔いはどうですか? 僕は、40歳を過ぎた頃から、二日酔いが更に酷くなっています。(愛知県/40代/男性)

 若い頃より量は減りましたが、まだ飲むには飲めます。二日酔いの話ですが、これは酔うというより、最近は奇行に走ることが多いようです。これが怖くて。記憶が飛ぶんです。最近ではコインパーキングの縁石を枕にして寝ていたみたいで。通行人が「すいません、ここで寝ていると絶対にダメだと思います」って救出してくれたそうですが、記憶がまったく無いんです。気を付けます。

Q、貴方は分かりやすくて良いね、1か9。捲りの鋭さに惚れた。ただガラスは割れる時は脆い。でも買っちゃうんだな。取らせて貰ったし怨めないんだな。あと、昔の石丸電気は貴方と一緒で捲りが最高でした。(神奈川県/60代/男性)

 このガラスって表現は自分でも使っていたし若い頃の代名詞ですよ。「ガラスの脚、ガラスの左肩」って。脚はキレるけどすぐ割れる。肩はまくりに行ってブロックをもらうとすぐ粉々に割れちゃうってやつです。石丸電気、とは石丸寛之さんのことですね。イケメンダッシュ組合の先輩です。

Q、いつも楽しく拝見させていただいております。懐深く心の広い中川大先生にお聞きしたいのですが、もし学校の先生だったら子どもたちにどんな話をしますか? 今の子は一昔前と違う印象をもっていますが、時代に合わせた感性をお持ちの中川先生に現代でも通用する教育論を是非伺いたいです。よろしくお願いします。(高知県/30代/男性)

 オレの人間性は少年ジャンプでできているので、元々は根が熱いんです。「友情、努力、勝利」を人生の基軸として。今でこそいろんな経緯で寄り道をして心がねじ曲がっていますが、実は小学生の担任とか合っていると思います。

 そういえば、この間、子どもの三者面談に行ったのですが、担任の先生が新卒の人でした。それがすごくちゃんとした方で、1年目でこんなにしっかりとクラスをまとめられるのかって。伊藤旭と同じ年齢なのに。そんな先生が頑張っているのだから、日本も明るいなって思いました。別に教育論では無かったですね。

【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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