2024/06/11 (火) 18:00 43
5月は仕事が少なく、いつもながらにマイペースな日々を過ごした6月7日に45歳となった中川誠一郎。7月にはいよいよ熊本バンクが再開し、モチベーションはギンギンにたかまるばかり。そんな沸き立つ闘志を押さえ、クールに本番を待つ男が、競輪の魅力をそっと紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】
ーー5月は玉野FIと高知の全プロ記念競輪を走りました。玉野の話は前回、出ましたので高知の話を中心にうかがいます。
全プロは、本来なら九州地区プロ「スプリント」の1回戦で負けたため出場できないはずでした。だけど、色々な条件が向いたため、急きょお呼びがかかりました。
ーー地区プロの1〜3位入賞者に全プロの出場権利が与えられるのですよね。いったい、何があったのですか。
まずは3位の青柳(靖起)が降りたんですよ。それで4位の(橋本)宇宙君が繰り上がったけど、来期はA級ってことで辞退したため、5位だったワタクシにお鉢が回ってきたんです。
ーー紆余曲折あり、出場権を手にしたということですね。
全プロのメンバーが発表されたとき、(松岡)貴久が「たしか、1回戦の予選で消えましたよね。なんでいるんですか?」って驚いていました。
ーーそのような入れ替えって地区プロでは普通にあることなのですか。
いや、わかりません。だって、これまで地区プロのスプリントで権利を取れなかったことが無かったから。
ーー絶対王者ですね。
荒井(崇博)さんに負けることはありましたよ。だけどスプリントは3位以内に入れないことはまずなかった。だって、これでメシを食っていたわけですから。オリンピアンですよ。
ーー全プロ記念競輪の話に戻ります。
初日はこれといって見せ場はなかったです。ただ、あまりも点数を下げると、函館GIIIの初日特選から漏れそうだったので焦ったけど、2日目の1着で踏み留まりました。
ーーその2日目は8番手まくりで大塚健一郎選手とワンツーが決まりました。
2日目のメンバーが発表されたときは気乗りしなかったんです。だから大塚さんに、別の3番手へ行ってもらって4番手を固めますって提案したんです。そうしたら、一言「俺、そんな競輪してないち」って(笑)。
ーー何ですか、それは。
じゃあ今度はって、菊池(岳仁)君の番手とかどうですか? と勧めたら、今度は「魅力、無いち」とか言い出して。
ーー菊池選手はバック数20本以上を持ついい先行選手と思いますが。
そうですよ。だから不動産業者みたく“優良物件”を次々と紹介したのに「中川、一本。譲らないち」って一番、危険な物件を選んできたんです。
ーーそれでも、まくってしまったのだからすごいです。
自分が一番ビックリしましたよ。自力で1着なんて久しぶりだったから。珍しく一歩目から車が出たし、500バンクの仕掛けを体が覚えていたのかもしれません。
ーー大塚選手とは長い付き合いですよね。
前に話していた「チーム冷や飯」で、不遇時代を含めて23、4年近くラインを組んできた腐れ縁です。今年初めて会いましたが、久しぶりに「大塚語録」を聞いていたら、前よりも進化していました。
ーー中川選手はかねがね大塚選手の言語のチョイスがすばらしい、と話していましたね。
もう、脳の回路が明らかに違うんです。何て言えばいいんだろう、ここ数年はかなりぶっ飛んでいるんです。
ーー今回、具体的にありましたか。
控え室でレースを見ていたら、テレビに向かって「大ラッキーや、大ラッキー。大ラッキーが走りよる」って言うんです。
ーーすでに、何が何だかわかりません。
大ラッキーって何だ? と、九州の控え室はみんな戸惑うわけですよ。すると「大ラッキーや。こいつラッキーやろ、ラッキーやろ」と、まだ言っているんです。
ーー余計、混乱しますね。
そうしたら、ふいに「この大ラッキー、お前の同期やろ?」って言ってきたんですよ。慌てて出走表を見たら、大槻(寛徳)のことでした。え、何で大槻なのかとこんがらがりました。
ーーなぜ、大槻選手が「大ラッキー」なのですか。
ざっくり説明しますと、大槻の大を「おお」じゃなくて「だい」と読み、槻を「ツキがある」の「ツキ」に変換したらしく「ツキがある」=「ラッキー」だと。合わせて「だい・ラッキー」と説明を受けたけど、そんなの、誰も永遠にわかりませんよ。
ーーたしかに理解が追い付きません。
ツイている、を本来の意味ではなく、文字や字面だけで人の名前にあてがってしまうという高度なレトリックです。
ーー脳の回路が独特とは、そういうことでしたか。
レースが終わっても「やっぱあの名前には勝てん。だって、大ラッキーやぞ」とか延々と言っていましたから。きっと大塚さんのスマホは「大槻」と打ち込んだら「大ラッキー」って変換されるのでしょう。
ーー開催中は他の選手とのやり取りは。
平原(康多)にダービー優勝おめでとうございます、って神妙に伝えたら「やっと、先輩に追いつきました」と返されましたが、お前は何本取っているんだって。本数が違いすぎて恐れ多いわってなりました。
ーー寿司をごちそうになる話はいかがでしたか。
「コラムは見ました」と言っていましたが、その件に関しては詳しい言及を避けているようにみえました。
ーーやんわり、断られているじゃないですか。
気持ちは聞いたけどちょっと… って感じでしょうね。だけど、一方的な片思いシリーズはまだまだ続きますので、もう少し接近しようと思います。
ーー前回のコラムでは荒井(崇博)選手を連れていくと話していましたが。
荒井さんと飲むなら、わざわざ埼玉まで行かなくてもいいかな。どうせ、その辺にいるんですから。今回、高知でも気持ちよくご馳走になりましたし。
ーー荒井選手とはいつ飲みに行ったのですか。
全プロの日程って、競輪の翌日に競技大会があるんです。全レースを終えるとあっせんが解除されるため、宿舎に荷物を置いて外に出られるんですよ。
ーーそのタイミングを縫って荒井さんと飲みに出かけたのですか。
どうやら、荒井さんは競輪の開催前から友人にあらかじめ店を探させていたみたいでした。
ーー競輪が終わったら高知の街に繰り出す気マンマンだったと。
ですね。開催中に「(レース後の夜は)誠一郎、行くやろ? 店を探させているから」って言われて。ああ、すでにオレは頭数に入っているんだと。
ーー勝手にメンバーに入っていたのですか。
はい、わかりましたと観念していたら「何人来るかは分からんけど」って言うんですよ。だけどオレは心のなかで“たぶん誰も来ないだろうな”って思っておりました。これは、さすがに怒られちゃうかな(笑)。
ーー悪い人ですね。
案の定、熊本勢に声を掛けても「誠一郎さん、楽しんできてください」と万歳三唱で送り出され、(井上)昌己も「ウチの親分を頼むバイ」って、来る気は1ミリも無かった。
ーー結局、何人で飲んだのですか。
予想通り荒井さんとその友人とオレの3人ですよ。せっかく5、6人は入れる席を予約していたのに(笑)。
ーー盛り上がりましたか。
そりゃスーパープロピストレーサー賞の2着ですから、気持ちよく飲んでいましたよ。会計のときはこっちも一応、財布を出して支払う素振りをしたけど、キレイに払っていただきました。「まともに稼いだのは久々。今年初めてかも」って上機嫌で、まるで松方弘樹とか梅宮辰夫みたいでした。ただ、その夜は別の場所で怪事件が起きたんです。
ーー何があったのですか。
大塚さんら大分チームがひろめ市場で食事をしていると、偶然にも貴久が現れて合流したそうです。
ーーそれは別に変では無いですよね。
そうです。初めは楽しく飲んでいたけど、じきに貴久が酔っ払って、周りのお客さんに「ウチのけん坊、大塚健一郎をよろしくお願いします!」とか、わけわからん挨拶を始めたそうです(笑)。
ーーそんなにイジられても、大塚選手は怒らないのですか。
結構ノリノリだったみたいで、帰るとき、周りの人たちに元気よくあいさつしたら、なぜかひろめ市場中から拍手が沸き起こったとか。
ーーもはや、登場人物の誰が正しい行動をしているのか理解できないです。
オレが宿舎に帰ったら(同部屋の)貴久がすでに寝ていましたが、物音に気付いたのか「おい、帰ってきたか〜〜中川!」って貴久のベッドの方から聞こえてきました。
ーー攻撃対象が大塚選手から中川選手に変わりましたね。
貴久が今度は寝言をブツブツ言いだしたのですが、その内容がもう頭が悪すぎて…。
ーーここで言えるようなことでしたら教えていただけますか。
最初は「おい、松川(高大)を呼べ〜」とか言っていたけど、そのうちに「けん坊、こん棒、肉棒」と謎のワードを連呼しだしたんです。
ーー一応、確認ですが「けん坊」とは大塚選手のことですか。
そうでしょうね、それにしても嫌な寝言ですよ。しかも連呼。
ーー荒井会の裏でそんなことがあったのですね。
その日って、翌日が貴久の40歳の誕生日だったんです。もう日付を超えていたし、不惑を迎え最初に発した言葉が、まさか「けん坊、こん棒、肉棒」とは…。貴久も大塚さんのような回路ですね。
ーー競技大会の話をうかがいます。中川選手は「スプリント」に出場しましたが何かエピソードがありましたら教えてください。
予選でハロン10秒4を出したんです。そうしたら、大槻が寄ってきて「すごいな。どうやったらそんなタイム出るんだ?」って聞いてきたんです。
ーー大槻選手は同期、同学年ですよね。
そうです。大槻だって10秒9とか出したから強いんですよ。同じく予選に出ていた東口(善朋)を含めて話していたら、大槻がオレにばかり質問してくるもんだから、そのうち東口がオレにも聞け、みたいな雰囲気を醸し出してきた(笑)。
ーーまるで嫉妬じゃないですか。
東口は、オレたち3人に(渡部)哲男を加えた4人のタイムを計って、誰が強いか、みたいな大会を1人で勝手に開いていたんです。だから、熱心に取り組んでいました。
ーー預かり知らぬところで謎の大会が行われていたのですか。
「東口カップ」ですよ(笑)。「大槻には負けない」とか「哲男はやってくれる」とか1人で楽しそうでした。だけど、こっちは何も知らないから、何で東口はこんな盛り上がっているんだろう? って感じで不思議だったんです。
ーー中川選手が10秒4、大槻選手が10秒9でした。他の2人はどうだったのですか。
東口と哲男は11秒0だったかな。「大槻は膨らみが無けりゃ10秒7は出ていた」とか「哲男は良かった」とか、うれしそうに解説していました。こうしてみると、俺らの世代もまだまだ頑張っていますよ。
ーー5月は高知以外には大きく目立った仕事をしていません。普段は何をしていたのですか。
そうなんですよ。だけど、私生活は結構、忙しかったんです。中野(浩一)さんとゴルフに出かけたり。
ーー中野さんには以前、けっこう過激な論調で批評されていましたよね。
以前は容赦ない、かわいがりを受けていましたね。でも、中野さんも言っていました。「今のお前はオレが語るところにいないから論評できない」と。たしかにそうだと思った。
ーーゴルフは盛り上がりましたか。
中野さんってもう70歳近いのに、ものすごく強くてオレなんか足元にも及びませんでした。一緒の組でラウンドをさせてもらい、勝負への執念を見せ付けられました。
ーー勝負への取り組み方は中川選手とは真逆な感じがします。
だって、60人ぐらいいるコンペで普通に優勝していましたから。せっかく熊本まで来たのだからタダでは帰らない、とばかりに優勝賞品とかゴッソリですよ。やっぱ、世の中ってそういう人が勝つんだと勉強になりました(笑)。
あとは映画の「ガチ星」の再上映イベントに参加してきました。
ーーそれは熊本で行われたのですか。
はい。市内の映画館で江口カン監督、安部賢一さん、林田麻里さんらとトークショーをしました。ほかにも(中本)匠栄や(上野)優太や倉岡(慎太郎)さんも来て盛り上がりましたよ。熊本競輪の界隈もにぎわってきましたね。
ーー来月、いよいよ熊本競輪が再開します。7月20日から行われるFIシリーズの出場メンバーが発表されました。
おかげさまで、昔の名前で呼んで頂けました。チーム熊本で頑張りますが、北井(佑季)君の逃げ切りや荒井さんが3番手から突き抜けるシーンが目に浮かんで今から少し怖いです(笑)。
ーーそんなネガティブなことを言わないでください。地元は嘉永(泰斗)選手や中本選手らメンバーも揃っています。
こっちは予選スタートだし、苦しい戦いになるでしょう。だけど、まずは最低でも決勝へ。今はバンク練習ができるようになったし、7月に向けてサビた刀を研いでいる最中です。
ーー期待して良さそうですか。
高知でちょっとだけ片鱗を見せたでしょ。これまでの感覚としては、もうちょっと上向くはずですのでお待ちください。あと、最後に一言いいですか。
ーーもちろん大丈夫です。見ている方々への熱いメッセージとかですか。
あ、いや、そういうのじゃないです。再開にあたり、バイトのお問合せをチョコチョコといただいております。常時、受け付けておりますのでトークショー、インタビューなどご用命がありましたら、どしどしとご一報ください(笑)。
ーー盛り上がりに乗じてバイトの募集ですか…。それでは、今月も質問にお答えください。
Q、好きなお寿司のネタと、漫画等の好きな女性キャラクターを教えてほしいです。(熊本県/20代/男性)
寿司はまんべんなく食べますね。逆に嫌いなものはないぐらい好きです。好きな女性キャラクターは「僕のヒーローアカデミア」って漫画の「トガヒミコ」ちゃんです。
Q、私も焼酎があまり好きでは無いのですが、熊本の友人からもらったのがキッカケで白岳KAORUだけは好きなんです。なんとそのKAORUが愛媛で売っていて即購入しました! オススメのアテはなんですか??(オールスター投票中川選手に投票しました!) (愛媛県/20代/男性)
KAORUって熊本県以外ではあまり見かけないんですよ。ハマるのはわかります。炭酸で割ると、吸い込みが早くなってドンドン飲めますから。アテは何でも合うけど自分は魚介類ですね。あと最後のカッコの中、こういうの好きです♡。
Q、最近、日本酒にハマっています! 推しをいくつか教えてください! 教えていただけたら中川選手をもっと推すかもしれません(笑)。(埼玉県/30代/男性)
最近のヒットは千葉の寒菊ですね。熊本だと産土も好きですけど結構、手に入らないんですよ。こちらの最後の一文も好きです♡。
Q、中川さん、井上さん、荒井さんでラインを組む事になったらどういう並びになりそうですか? 全盛期時代と今の時代と並びが変わるのかと、3人で連係した事があるのかも気になりました。(熊本県/20代/男性)
一度だけあるんです。10年ぐらい前の佐世保記念決勝で中川-井上-菅原(晃)-荒井と並びました。荒井さんがイン切りした上を、オレがカマして昌己が優勝ってやつ。その時、後閑(信一)さんが謎のパワーで迫ってきたのを覚えています。今だと中川-荒井-井上でしょう。後ろ2人のパワー関係が変わりましたから。井上氏は年相応に老化したけど、荒井氏が年不相応な謎のパワーで元気ですから。
Q、中川選手は「リンカイ!」を観ていますか? 熊本のキャラクターが噛ませ犬みたいなポジションで見ていて可哀想です。応援したくなります。(神奈川県/30代/?)
まだ見ていないんです。(高木)真備ちゃんが声優で出たとかは聞いたけど…。熊本のキャラクターっていうのがいるのですか。それはいいとして、熊本の噛ませ犬っていうのはけしからんですね。だって、そのフレーズって、どう考えてもオレじゃないですか。まさかオレをディスったキャラなのかな? 気になるので今度、見てみよう。
【大募集】
中川誠一郎選手が、読者の皆さんのお悩みを解決します!「仕事がうまくいかない」「お酒がやめられない」「オフの日の過ごし方は?」……など皆さんからのお悩み&質問を中川誠一郎選手へお届けします!
中川誠一郎
Seiichiro Nakagawa
中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。