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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

脇本雄太をまたしても襲った原因不明の身体の不調…そして「史上最強はアイツ」と断言する男とは

2024/03/20 (水) 18:00 49

脇本雄太は、またしても身体の不調に襲われている…。シビレ。それも原因不明で治療方法を模索している最中だ。その現実の中で走った2月岐阜競輪「全日本選抜競輪(GI)」や、記念。何を考えながら、また他の選手の変化を感じながら走っていたのか。そして「史上最強はアイツ」と断言する男について、を語った。(取材・構成:netkeirin編集部)

脇本雄太(撮影:北山宏一)

治るのであれば欠場してでも…原因不明のシビレ

 2月岐阜競輪の「全日本選抜競輪(GI)」では近況を話しているように、位置取りも考えた動きを見せていた。「調子の上がり下がりがすごいんで。今までのように深く戦略は練らずに力ずくで、ではない走り」を心がけていた。結果は振るわなかったが、二次予選では1着。根田空史(35歳・千葉=94期)の内で並走したのは「先行力で脅威のある所では、やっていかないと。結果的にみんなが中団中団を狙って、展開が向いた」とレースの流れを生む動きだった。

 こうした動きは「調子が良ければいらない」と話す。全日本選抜は「落車後でもあったし」と考えてのレースになった。加えて現在、また身体に故障を抱えているという。

「グランプリ前くらいから、シビレが出てきたんです。症状もちょっとずつですが、悪化している」

 シビレがあると「勝負所で反応が遅れてしまう」とレースへの影響もあるという。どうしても「シビレを気にしてしまう」。そんな状態で「記念クラスでは対応できるけど、GIでは通用しない。シビれていても力は入るけど…」と眉間にしわを寄せた。またしても、苦悩。

 原因も不明で「ナショナルチームのドクターも分からない、と。地元の福井でMRI検査をしたので、それをまた見てもらって」という現状だ。もしかしたら「これも一生の付き合いなのかもしれない」と話す。これ“も”。昨年8月の肩甲骨骨折についても「肩に影響が出るものだったし、一生の付き合い」という重傷だった。競輪選手の宿痾(しゅくあ)ともいえるケガとの付き合いだが「それも含めての戦いなので」ーー。言い訳にすることはない。まずは検査の結果や治療の方針を待つのみだ。

「原因が分かって、治る、という方法があれば欠場して治します。実際、東京五輪後の腸骨のケガの時がそうでしたし、2ヶ月必要なら、2ヶ月。治るに越したことはないので」

松山記念で見た北井佑季の衝撃の走り

北井佑季選手の走りには衝撃を受けた(撮影:北山宏一)

 しかし、求められる戦いは目の前にあり取手競輪「ウィナーズカップ(GII)」に挑む。初日特選の想定番組は古性優作(33歳・大阪=100期)と一緒で、「選考基準で、いつもとは違うメンバー構成にもなるので」とまた話して前後を決めていく。松山記念(金亀杯争覇戦)の初日特選は古性が前だった。

 あの時は、調子の問題もあったのか。「調子というよりも松山の時は、ギックリ腰の影響が大きかった。奈良記念(春日賞争覇戦)の後の合宿で腰を痛めてしまったんです。それもあって、古性君から『前でやりましょうか』と言ってくれて、その気持ちがうれしかった」。そのレースでは、北井佑季(34歳・神奈川=119期)が衝撃の走りを見せた。

「新山(響平)君、嘉永(泰斗)君、古性君の3人をまとめて相手して勝っているんで。強いな…と」

 全日本選抜の準決では直接対決もしている。先行争いを制し叩き切ったが、番手にハマされて最後、差し返された。力関係は「先手は取れる。タイミング次第で出られないこともあるかもしれないけど」と感じている。このレースでは後ろが離れたため結果につながらなかったものの「自分がやるべきことはやったので」。

同じ先行で頑張ってきた新山響平の気持ちはわかる

 今一番の注目選手には「北井君は急激に上がってきて、年齢も1個下なのかな。今後がどうか」と目を配るが、気になる選手は違う形でもいる。「新山君が苦しんでいるな、と」。同じ先行で頑張ってきた者同士なので「気持ちは分かる」。松山で会った時は「心、折れてましたね」と、顔色の悪い新山の姿を見た。

松山競輪で会った新山響平選手の心は折れていた(撮影:北山宏一)

「自分の得意パターンが通用せず、そこでどうするか。でもアドバイスをする、っていうよりも、新山君には年齢のことも関わってくるのでね。いつまでも先頭で先行で、は劣化してしまうんです。若くはないんで」

 若くはない選手たちで、まだまだパワーを発揮する選手もいる。九州の北津留翼(38歳・福岡=90期)と中川誠一郎(44歳・熊本=85期)はどう見えているのか。「北津留さんはもうすぐ40歳ですよね。落ちてはいると思う。昔は打鐘で先行態勢に入ったら、決まった、みたいな感じでした。今はさすがに持つ距離は短くなっている」。仲のいい“誠ちゃん”とは松山で一緒だった。

「熊本勢も多くて楽しそうでしたね。まあまあ自力はあると思う」

 タテ脚の衰えは見せておらず「条件が付けば、でも、45歳になってもそれができれば、ね」と中川の今後に期待している。7月熊本競輪再開も控えており、10月には記念もある。「走れると、いいですね。7月は福井記念があるので…」

知っているからこそ「ゼロ」

 8月にパリ五輪が近づく中で、2月3日にはラ・ピスタ新橋で「ネーションズカップ第1戦」の解説を行った。募集をした途端に満席。「好評だったとは聞きましたが、すぐに埋まっていたとは」と喜んだ。

(C)日本自転車競技連盟

「今のナショナルチームの動きを分かりやすく伝えるのは得意。分かりづらいルールの部分も楽しんで見てもらえれば、と話せたと思う」

 世界への挑戦を支える立場で、自身の経験をすべて伝えたいという思いは変わらない。では今、ワッキーの目から見て、世界と戦える選手は。「ナショナルに(太田)海也君と(中野)慎詞君がいるけど、他はゼロ。知っているからこそ、ゼロと言わざるを得ない」。それだけ世界には驚くべき強豪がいる。知っている。

SSが8人で戦っても敵わないハリー・ラブレイセン

 ハリー・ラブレイセン。オランダが生んだ世界王者だ。ラブレイセンが競輪を走ったら…が気になるが。「北井ー深谷(知広)で並んで戦えるかな…。そこだけ。えっ、脇本ー古性?いや、今の自分のタテ脚が足りないので厳しい」と断じる。強さは別格で「ラブレイセンを誰かと比べちゃいけない」。

 コロナ禍もあり、海外選手の競輪参戦は不可能になっていた。ラブレイセンの来日は切望されるが「来たら、日本の競輪は終わる。1対8で、8人がSSでも負ける可能性がある」と衝撃を恐れる。それほどの選手。「史上最高の選手です」。競輪になれば、と思うが、郡司浩平(34歳・神奈川=99期)、松浦悠士(34歳・広島=98期)、清水裕友(29歳・山口=105期)でも「だいぶ厳しいと思う。ハリーは横に当たられても強いんです。郡司、松浦、清水が当たっても跳ね返される」と判断する。東京五輪前はワッキーも、可能性のある戦いをしていたが…。

「あのころはハリーもまだ若くて、戦える部分はあった。でも今は年齢も重ねて、他の選手と比べても違い過ぎる。競輪を走って、S級を走っても全然違う。僕がチャレンジを走るようなもの」

 そもそも「競輪選手と自転車競技の選手は別物」が現実としてある。各国の代表選手は「コーチがうまくピーキング(※)をやってくれる。トレーニング内容も食事も含めて。個人でやるピーキングとはわけが違う」と状態面、また強くなるトレーニングの環境が違うという。

「競輪選手はオフシーズンがないし、グランプリとGIで考えれば年間に7回ピークを作るなんて無理」

 その中でファンの期待に応えるために、日々、1日1日を積み重ねているのが競輪選手なのだ。日常生活でも「シビレはある」という現在だが、15日は古性の寬仁親王牌の祝勝会に出席し、古性を祝った。

読みが甘かった終電のサンダーバード

「岸和田市長も来られて、盛況でした。自分はもう、静かに、ね」と他の多くの古性に接したい人たちに席を譲り、空気を楽しんだそうだ。そしてこの15、16日という2日間は福井人にとって重要な日だった。

「大変でした…」

 16日は金沢駅から敦賀駅までの北陸新幹線が開通する日で「16日に福井駅に帰るのはヤバイ」と早めの移動を心がけた。15日中に帰り着くために、祝勝会後は即帰路に着いた。が、「サンダーバードが激混みで立ちっぱなしだったんです」ーー。

 終電のサンダーバードは「福井まで行く最後の日の列車だったみたいで…。思い出で乗る人や、終電で帰らないといけない人で」。まさかの混みように「そこまで読んでいないといけなかった…」と立ち尽くした。ーー。

「ってか、サンダーバードはなくならないから!敦賀までは行くし、福井まで行かないだけだから、もう!!」

追記

 取手競輪「ウィナーズカップ(GII)」の前検日、現状について聞いた。

「首のヘルニアが見つかって、まずはそれを治療していく。ただこれが治ったらシビレも治るかは分からない。今の段階ではどれくらい治療が必要かの期間も分からない。治らなかったら別の原因を調べる」

(※)運動選手などが大切な大会へ向けてコンディションを最高の状態にもっていくように、調整すること。また、その調整法。


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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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