2021/05/19 (水) 12:00 14
前橋競輪場で5月20〜23日に開催される、前橋競輪開設71周年記念「三山王冠争奪戦(GⅢ)」に、“オグリュウ”こと小倉竜二(45歳・徳島=77期)が出走する。“輪史ナンバーワンの選手”と称する人もいるくらいの素晴らしい選手だ。生きる世界が世界なら、大親分だっただろう。
気構え、というのか、いや男女の文字を使った表現云々では非難もあるかもしれないが“男構え”がすごい、と書きたい。“漢”と一文字で書いてもいいかもしれない。
2008年7月8日の前橋競輪場、前を走っていたのは浜田浩司(42歳・愛媛=81期)。金子貴志(45歳・愛知=75期)がスーパーダッシュで巻き返してくる。
ブロック、ブロック、けん制、けん制。小倉は何度も何度も金子を外に追いやり、浜田を守った。「ハマダくん」と小学校の友達のような響きで呼ぶ。「マ」にアクセントがある。そこまでして先行選手を守るのか…という伝説のレースだった。
1999年と2006年の競輪祭とGIは2回優勝している。その実績を上回る人柄が小倉のすごさと思う。競輪は番組が発表された後、選手たちはその構成を考え、並び、戦い方を検討する。やや不利、と思うと「ムっ」と考え込むこともある。並びで悩むこともある。
現在の中四国の隆盛はかつてはなく、それぞれが孤軍奮闘だった。生き残ることに必死だった。そのため、中四国の追い込み選手には同県の選手であっても、戦い方に納得のいかない選手にはつかないことがままあった。何度も後方で仕掛け遅れ、では自分には何も残らない。よそにいくことは、普通だった。
小倉にはそれがない。義理や人情、すら超えている。1周回って感情がないのかとすら感じる。メンバーを見ると、「ここ」「そこ」「誰誰君」「何何さん」。ニコニコするだけだ。
どんなに調子が悪かろうと、対戦メンバー的に厳しい環境でも、以前に前を任せて頑張ってくれた選手の後ろを回る。「いやいや、この構成なら小倉さんがこの選手の番手で、自分は後ろで」と話しても聞かない。聞いた上で、ニコっと笑ってその選手の「後ろで」とつぶやいて去っていく。
筋や理論でもない。“オグリュウだから…”としかいいようがいない。
私が取材してきた中で、こうしたケースで小倉を説得するのに成功した選手は三宅達也(43歳・岡山=79期)だけだ。「オグさん、それはダメ。ちょっと待って。ねえ」。公称181cmだが、軽く2mオーバーの迫力の男が、懇切丁寧に小倉を説き伏せていた。
ノーベルお人好し賞の受賞歴がある三宅だけに、自分のことより他人のこと。小倉の前で頑張ってきた歴史は児島湾に投げ捨て、オグリュウを説得した。
主役は清水裕友(25歳・山口=105期)。ダービーでの活躍そのままに、今回は優勝を責務として挑む。地元勢も寬仁親王牌開催の関係で、たまにしかない地元記念に燃える。GIを開催する場は、その年に記念を開催できない。地元記念を走れる、選手たちの思いをみつめてほしい。
そしてまたオグリュウが前橋で伝説を作るのか、待ちたい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。