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すっぴんガールズに恋しました!

【高木佑真】名レーサーの指導でスランプ脱出! 新たな目標に向かって駆ける「結果で恩返ししたい」

アプリ限定 2023/12/14 (木) 18:00 85

日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました!』。今回は2年連続オールスター競輪出場の人気選手でありながら、今年は苦悩した時期もあったという高木佑真選手(24歳・神奈川=116期)。選手をめざしたきっかけから現在に至るまでの軌跡を写真とともにご紹介します!

2つ上の兄と2人きょうだいで育った(本人提供)

名門サッカー部出身のスポーツ少女

 父母2人の故郷である長崎で生まれ、神奈川で育った高木佑真。小さいころから体を動かすことが大好きで、2つ上の兄と遊ぶことも多かった。

 球技全般が大好きな根っからのスポーツ少女で、小学2年生から中学3年生までバスケットボールをしていた。仲の良い友だちがバスケットボールの体験に行くと聞いて高木も一緒についていき、その面白さにハマったそうだ。第一志望の高校は県立のバスケ強豪校だったが残念ながら不合格。私立横浜翠陵高校へ進むこととなった。

 横浜翠陵高は女子サッカーの強豪校。初めは高校でもバスケットボールを続けるつもりだった高木だが、よりハイレベルな環境を求めてサッカー部の門を叩いた。県内屈指チームゆえに練習は厳しかったが、一生懸命練習に打ち込んだ。ちなみにサッカー日本代表の吉田麻也とは親戚だが、それがきっかけでサッカーを始めたわけではないそうだ。

「小さいころからなりたい職業がはっきりしていなかった。でも体を動かすことは好きだったし、スポーツでご飯を食べていければと思っていました。高校でもその気持ちは変わらなかった」

女子サッカーの強豪校で厳しい練習に励んだ(本人提供)

思いがけないガールズケイリンとの出会い

 漠然とアスリートに憧れていたものの、なかなか具体的な将来像は描けなかった高木。高校3年生になっても進路が定まらない娘を心配した父が、思いがけないところからガールズケイリンを見つけてきた。

「父が会社の人との食事で、ガールズケイリンのことを聞いてきたんです。父の同僚の息子さんが東スポの奥山雄大記者。その場に自分はいなかったのに、親同士と雄大くんで『高木佑真をガールズケイリン選手に』みたいな話になったそうです。その場で父から電話があり、ガールズケイリンの説明を雄大くんからしてもらって…。ガールズケイリンって面白そう、と思いました」

 家から高校までは毎日自転車を“爆走”して通学していたという高木。現役の記者が身近にいたこともあり、ガールズケイリン選手を目指すステップはトントン拍子に進んでいった。この時すでに114期の願書受付は終わっていたため、翌年116期の試験合格に向けて動き出した。

 さっそく奥山記者から神奈川支部の渡邊秀明(68期)を紹介してもらい、平塚競輪場を訪れた。すると渡邊の弟子である尾崎睦も一緒にいて、初めてバンクでカーボンフレームの競技用自転車に乗ったそうだ。

「初めてカーボンフレームに乗ったときの感覚は今でも覚えています。通学はママチャリで自宅と学校を爆走していたから自転車には馴染みがあったけど、ガールズケイリン用のカーボンフレームはブレーキがないし、足が勝手に前へ進む感覚は新鮮だった。ワットバイクにもチャレンジして『吐きそう、こんなに苦しいのかぁ』と…。でも周りの選手たちが褒めてくれて、改めて『ガールズケイリンに挑戦してみよう』と思いました」

ホームバンク川崎には高木ののぼりが(本人提供)

ガールズグランプリを生観戦「カッコいい!」

 競輪学校受験の意志を固めた高木に渡邊は「116期の試験を目指すのは高校を卒業してからでも大丈夫。まずは高校生活を最後まで楽しんで」と温かく声をかけてくれたそうだ。

 それでも高校3年生の後半、スクールライフを満喫しながらもガールズケイリンが頭から離れることはなかった。12月28日には平塚競輪に来場し、ガールズグランプリを観戦。奥井迪の先行勝負に心が熱くなった。

「ガールズグランプリを生で見て、より明確にガールズケイリンをやってみたいって思いました。今はグランプリを走っていた7人のすごさが分かるのですが、あの当時はただただ奥井さんの逃げに感動してカッコいいなって思いました」

 高校卒業後、渡邊からの提案で高木と家が近所だった白戸淳太郎を師匠として紹介された。白戸にとっては初弟子で、それも女子選手。大変なことも多かっただろうが、親身になり試験に向けて練習時間を共にしてくれた。

「浪人期間は練習漬けの毎日でした。朝一番の始発電車に乗って、師匠がいる川崎競輪場に向かう。一日中練習して終わるのは夕方、家に帰るのが20時くらいでしたね。そこからご飯を食べてお風呂に入っていたらもう寝る時間です。翌日はまた朝から練習…。そんな感じでした。師匠がレースに参加している期間は1日だけ休んでよかった。でもあのときの猛練習があったから試験に合格できたんだと思います」

競輪学校の入試直前に大アクシデント

 116期の試験直前にはアクシデントがあったと振り返る。

「試験前最後の練習で落車をしたんです。師匠がバイクで引っ張ってくれる練習だったんですけど、バイクの後輪に突っ込んでしまって、50メートルくらい吹き飛びました。すぐ救急車で病院に運ばれたんですけど、幸い骨折はなかった。フレームも無事でなによりでした。あの時の師匠の青ざめた顔は一生忘れません。全身擦過傷で116期の1次試験に向かいました」

 それでも傷だらけで受けた116期の1次試験は見事に合格。しかし次なる課題は2次試験の面接だった。

「自分は今ではいろんな人と話せるようになったけど、当時は緊張してしゃべることが苦手でした。せっかく1次試験が受かったのにこのままじゃ2次試験で落ちてしまうと頭を抱えていたんです。そうしたら小島寿昭さん(引退・52期)が面接官役をやってくれて、練習の合間に面接の稽古をしてくれました。そのおかげで2次試験も無事合格。携わってくれた方みなさんのおかげで116期の試験を突破することができました」

同期の山口伊吹、岩崎ゆみこ、南円佳とはプライベートでも仲が良い(本人提供)

 2018年の春、116期として日本競輪学校に入学。自転車競技経験はなかったが、先行にこだわって競走訓練に励み、在校6位の成績を勝ち取った。卒業記念レースは決勝進出(7着)と充実の1年間を過ごした。

「寮生活は初めてだったけど、楽しかった。厳しい環境だからみんなには『信じられない』って言われるけど、本当に楽しかったんですよ。もう1年競輪学校にいて、技術を身に付けてから卒業したいって思ったくらい。練習も量なら誰にも負けないってくらいやったと思いました。そういえば卒業記念レースの前の練習でも落車したんです(笑)。大事な節目の前でいつも落車するんですけど、なぜか大きなケガにはならない。丈夫に産んでくれた両親に感謝しないとですね」

期待のルーキーとして結果を出すが、本心は…

 仲間に恵まれた競輪学校生活を終えると、いよいよプロデビューに向けた練習が始まった。川崎には同じ学年の佐藤水菜(114期)がおり、高木にとっては大きな存在だったという。

「(佐藤)水菜ちゃんとは高校3年生のころから面識はありました。小田原競輪場で一緒に練習したときかな。そのときはあいさつしたくらいだったけど、私が学校にいるとき水菜ちゃんはデビューして優勝もしていた。競輪学校から電話したことを覚えています。卒業してからも水菜ちゃんがいてくれたから、高いモチベーションで練習することができました。水菜ちゃんはどう思っているかわからないけど、自分にとってとても大事な人です」

 川崎での練習を積んで、いざデビュー。初戦は2019年7月の伊東温泉で、予選を3着5着で勝ち上がり、決勝は4着だった。

 デビュー2場所目の奈良ではガールズケイリン1期生のレジェンド・加瀬加奈子を相手に主導権を奪って初白星も挙げた。2開催連続で決勝進出を果たし期待のルーキーとして上々の滑り出しを決めたように見えたが、本人は全く違う感覚だったそうだ。

「緊張で吐きそうでした。先輩たちとのレースは競輪学校とは全く違うし、大変だった。川崎地区の先輩・岡嵜浩一さんと一緒に参加したんですけど、帰りの道中は全く覚えていないんです。いろいろレースの振り返りを話してくれたのに、緊張からくる疲れのせいか何にも反応できなくて…。2場所目の奈良は自分が7Rだったんですけど、先の6Rで(久米)詩ちゃんが1着を取った。そのおかげで自分も『頑張らないと』って気持ちがより入って逃げ切ることができました」

 デビュー1年目はがむしゃらに駆け抜けた。とにかく先行して先輩たちにぶつかっていった。駆けてもまくられるイメージしか湧かないときもあったそうだが、“先行で勝ちたい”という気持ちから逃げることなくチャレンジし、1年目を終えた。

人気レーサーに成長もアルテミス賞で現実突きつけられる

 2年目もその気持ちは変わらなかった。しかしなかなか結果が出ず、苦しい日々も続いた。そんななかでも同期の活躍は刺激になり、11月の松戸で初優勝を果たした。グランプリトライアルの裏開催ではあったが、3連勝の完全優勝だった。

「松戸の前に練習のタイムも良くなり、自信を持って臨めた開催で優勝することができました。ただ優勝したあとに、成績がダメダメになってしまった。気が抜けたわけじゃないけど、初優勝を目標にやってきて、それを達成したことで新しい目標が行方不明になっていた時期がありました」

 デビュー3年目には116期の代表として吉岡詩織と2人で4月にフレッシュクイーン(西武園)に参加し、初のビッグレースを経験。8月にはオールスター競輪のファン投票で14位に入り、ガールズケイリンコレクション・アルテミス賞に初めて選出された。ファン投票は翌年も11位。2年連続でアルテミス賞出場となった。

「ファン投票はうれしい反面、もっと頑張らないといけない気持ちになります。1年目は大穴を出してやるぞと意気込んだけど、初めて上位の人と単発レースで走ったことで、自分の弱さに気付かされました。このままじゃ勝てないぞって気持ちになりました」

(本人提供)

陥ったスランプ、名レーサーからの救いの手

 今年は1月の松山で自身2回目の優勝を達成したが手応えはなかったと振り返る。

「1回目の松戸の優勝は勝ち取った優勝だったけど、2回目の松山はラッキーだっただけ。このままじゃやばいって感覚はありました」

 高木のホームバンク・川崎競輪場はバンクの改修工事に入り、練習は街道とウエイトトレーニングだけになっていた。バンク練習ができず成績が伸び悩んでしまったタイミングで手をさしのべてくれたのは、GI4勝の名レーサーだった。

 平塚競輪場へ練習に訪れると、保立沙織らが練習をしていた。そのとき高木隆弘(64期)から声をかけてもらったという。

「苦しんでいるタイミングで、自分の現状を変えたいと思っていた時に高木隆弘さんに声をかけてもらった。自転車のセッティングを見てもらい、バイクで引っ張ってもらう練習をしたらまた自転車の楽しさを思い出せたんです。川崎競輪場のバンク改修中は自分で練習をして自問自答している時間が多かったけど、高木隆弘さんと練習をすることで練習が楽しくなった。最近は川崎競輪場も使えるようになったので、川崎での練習もやりつつ、高木隆弘さんに練習を見てもらっています」

 名レーサーの指導を受けたことで迷いが晴れ、練習に打ち込める環境が整うと、成績は再浮上した。

(本人提供)

新設されたGIで「みんな輝いて見えた」

 高木佑真にとって刺激になる出来事がもうひとつあった。それは今年から新設されたGIレースの存在だ。

「特にオールガールズクラシック。116期のメンバーが多く出ていて、みんな輝いて見えた。優勝した(佐藤)水菜ちゃんもすごかった。自分も出たいと思いました。高木隆弘さんにも『目指す場所を明確にしたほうがいい』とアドバイスをもらったので、まずはオールガールズクラシックに出ることを目標に。出るだけで満足しないで、しっかり車券に絡んで勝負できるところまで持って行きたいと思っています。今の自分の力ではただ出るだけになってしまうので、もっと脚力を上げていきたいです」と気持ちは高まっている。

 同期たちに刺激を受け目標が定まると、10月の平塚ではデビュー前から世話になっていた尾崎睦を差して1着と成長した姿を見せた。11月の地元川崎では予選2走で5着と悔しい思いをしたが、最終日の一般戦はきっちり1着で締めくくった。

(本人提供)

パワーアップした高木佑真の2024年に期待

 その後の開催でも白星量産とはいかないが、一歩ずつ前へ進んでいる。以前に比べ体も大きくなり、自力のパワーは確実に上がっている。苦悩を乗り越え、2024年の期待は高まるばかりだ。

「いろんな方に指導してもらっているので、いい結果で恩返ししたい。過去は変えられないし、今は前を見てやっていくだけです。良くなるために進んでいきたい」

 さらに、よりレースに集中できるよう生活環境も見直したという。

「以前は一人暮らしをしていたけど、最近は実家に戻ったんです。食事のサポートなど家族には感謝しています。車の運転も好きだったけど、最近は練習場所の移動で車に乗ることが増えたので、レースの参加のときまで車で行くと疲れてしまう。休みの日は体のケアをすることに専念しています」

 戦法に迷い、メンタルが苦しくなった時期もあったが、今は前だけを見て進んでいる。

 GIレースに出場し、結果を出すと強い信念が芽生えた高木佑真のガールズケイリン人生はまだこれからだ。

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松本直

千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。

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