アプリ限定 2023/10/24 (火) 12:00 73
弥彦競輪場で開催された「第32回寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI)」を古性優作(32歳・大阪=100期)が制し、今年は2月高知の「全日本選抜競輪(GI)」、6月地元岸和田の「高松宮記念杯競輪(GI)」に続く3冠目を手にした。競輪選手養成所の滝澤正光所長や神山雄一郎(55歳・栃木=61期)などといった伝説の選手たちに並ぶ大記録だ。
無論、11月小倉「競輪祭(GI)」で4冠目を狙う。
つまりすでに偉大な選手だが、古性はそこにはいない。「満足することはない」。KEIRINグランプリを含むグランドスラムに向けて突き進む。
しかし、それだけでもない。何か、見えないものと戦っている気がしてならない。
久留米競輪場で開催された熊本記念の後、村上義弘さんと話す機会があったという。古性にとっての最大のキーマンであり、ヒーロー。その背中を追いかけてきたわけだが、2人は違う。
“村上”と選手時代の形で敬称略で書かせてもらいたい。
今の古性はどんなレースでも勝てる強さを備えている。よく言われているようにやってきたことが積み重なって“位置を取れる”ことが、一番の武器だ。このことが勝てる可能性を高め、そして他の選手の可能性を減じる。
勝利への道、を古性は真っすぐ進んでいる。勝負師として、究極だ。ただし、勝っても納得しない姿をよく見る。何かが、こぼれ落ちていく。
村上の戦い方は、勝利の可能性が少なくなっても、そこに自分の勝利があるのなら、自らの戦いのその先にあるものを求めて走っていたと感じている。そんな姿を目の前で見て、生き様に接してきた古性なので、勝つことの他、があることを知っている。
勝っても、自分には何かが足りない。古性のこれからの戦いについて、新聞記者的には記録への挑戦を期待するべきだろうが、何かが違う。古性が埋めていくものは、もっと、ある。
村上引退について佐藤慎太郎(46歳・福島=78期)に聞いた時、「村上さんの穴は埋められないよ」とつぶやいた。強い、とは違うものを持っていた。ファンの心をつかんでいたこともあるが、選手間でも村上を見る目は違うものがあった。
脇本雄太(34歳・福井=94期)ら近畿の選手たちは村上の影を追い、その上で自分自身を作り上げようとしている。古性が「村上さん」と話す時の表情も、とにかく何か違う。
勝つことを喜ぶというより、勝つことが苦しいという戦いを全うしたのが村上だった。
初日に落車し、それでもそのシリーズを制したのが高松宮記念杯。また、単騎で制した静岡グランプリ(2021年)。時折、古性は“村上義弘”に重なっている。勝つことの、その先…。
村上引退から1年。古性は何度味わっても、物足りないのかも知れない。GI6回目の優勝ですら、まだ…。
「村上さん、どうですか」
右手を突き上げる姿は、無邪気で愛おしい。与えるより、求める。地上に降りた最後の天使がいる。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。
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