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山田裕仁のスゴいレース回顧

【平安賞 回顧】後続をまさに“完封”してみせた北井佑季

2023/09/04 (月) 18:00 49

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが京都向日町競輪場で開催された「開設73周年記念 平安賞」を振り返ります。

2023年9月3日(日)向日町12R 開設73周年記念 平安賞(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①村上博幸(86期=京都・44歳)
②佐藤慎太郎(78期=福島・46歳)
③太田竜馬(109期=徳島・27歳)
④坂井洋(115期=栃木・28歳)
⑤和田圭(92期=宮城・37歳)
⑥川村晃司(85期=京都・47歳)
⑦北井佑季(119期=神奈川・33歳)

⑧尾形鉄馬(107期=宮城・33歳)
⑨山田久徳(93期=京都・36歳)

【初手・並び】

←③⑧(混成)④⑤(混成)⑦②(混成)⑨①⑥(近畿)

【結果】

1着 ⑦北井佑季2着 ②佐藤慎太郎
3着 ①村上博幸

SS出場ゼロの危機も、面白いメンバーの開催に

 9月3日には京都府の向日町競輪場で、平安賞(GIII)の決勝戦が行われています。先日のオールスター競輪(GI)における落車の影響もあって、S級S班の出場がゼロになるかと危ぶまれたこのシリーズ。佐藤慎太郎選手(78期=福島・46歳)が追加あっせんを受けて出場したことで、選手層にかなり“厚み”が出ましたね。なかなか面白いメンバーによる開催になったと思います。

 その佐藤選手は、危なげなく決勝戦に勝ち上がり。北日本の自力選手が少なく、初日特選から他地区との連係だったにもかかわらず、キッチリ結果を出すのはさすがですね。ちなみに初日特選は、地元である村上博幸選手(86期=京都・44歳)と山田久徳選手(93期=京都・36歳)のワンツー決着。どちらも、このレースを目標にかなり身体を仕上げてきている印象で、村上選手はその後も2着、1着で決勝戦に駒を進めています。

 なぜ初日特選の結果について触れたかといえば、決勝戦がその再戦ムード漂うメンバー構成となったからです。9名のうち7名までが初日特選と同じで、四分戦となったことや、各ラインの先頭を任された選手まで同じですから、予想をする側としてもかなり参考となりますよね。それは選手の側も同じで、初日特選で失敗していた選手は、同じ轍を踏まないように走り方を修正してくることでしょう。

決勝は実質「逃げイチ」のメンバー構成

 まずは近畿勢ですが、勝ち上がった3名はすべて京都の選手。先頭は山田選手で、番手を回るのが村上選手。そしてラインの3番手を、川村晃司選手(85期=京都・47歳)が固めるという布陣です。初日特選では前がもがき合う展開を後方から捲りきりましたが、今度も同じ展開になるという可能性は低いですからね。どういったレースプランで挑んでくるのか、興味深いところです。

 近畿勢と同じく3名が勝ち上がった北日本勢は、いずれもマーク選手。そういう理由から、それぞれが他地区と連係して決勝戦に臨むことになりました。佐藤選手は、準決勝でも連係していた北井佑季選手(119期=神奈川・33歳)と再コンビを結成。同じく和田圭選手(92期=宮城・37歳)も、準決勝で連係していた坂井洋選手(115期=栃木・28歳)の番手につきました。太田竜馬選手(109期=徳島・27歳)の後ろは、尾形鉄馬選手(107期=宮城・33歳)が回ります。

 実質「逃げイチ」のメンバー構成ですから、主導権を奪うのはおそらく北井選手。連日非常にいい動きをみせているので、北井選手がすんなり逃げられる展開になると、他のラインは厳しい戦いとなるでしょうね。ただし、2車ラインなのでその「直後」である3番手のポジションを取れれば、好勝負に持ち込めるはず。そのベストポジションを、どう立ち回って手にするかという攻防にも注目したいですね。

 それでは、決勝戦のレース回顧に入りましょう。スタートの号砲が鳴って、いいダッシュで飛び出していったのは8番車の尾形選手。つまり、太田選手が先頭のラインが前受けを選んだということです。その直後の3番手には坂井選手がつけて、北井選手は5番手から。そして近畿勢が後方7番手からというのが、初手の並び。車番通りではありませんが、レース前に想定されていた並びのひとつではあります。

平安賞決勝レース青板の様子(写真提供:チャリ・ロト)

 レースが動き出したのは、青板(残り3周)のバックから。後方に位置していた山田選手がゆっくりと位置を押し上げて、先頭の太田選手を抑えにいきます。この動きに合わせて、3番手にいた坂井選手も前を抑えに。つまり、3つのラインが併走するカタチで、先頭誘導員が離れる赤板(残り2周)を通過します。後方となった北井選手は、進路を外に出して前の様子をうかがいます。

 赤板通過と同時に前に出たのは山田選手。太田選手は抵抗せずに引いて、ポジションを下げます。そして坂井選手がその後ろに入ったタイミングで、後方にいた北井選手が外から進出。先頭に立った山田選手の動きをみながらポジションを上げていき、突っ張る気配がないのを察知したところで一気に加速して、レースが打鐘を迎えたのと同時に先頭に立ちます。

 上手な立ち回りで主導権を奪った北井選手は、打鐘からスパートを開始。一気にペースが上がって、後続もそれを追いかけます。一列棒状で最終ホームに帰ってきますが、3番手の山田選手と北井選手の間には、少し車間が開いていましたね。そのままの隊列で最終1センターを追加して、バックストレッチに入ったところでも、山田選手は車間を詰められないまま。最終バックの手前では、6番手の坂井選手が捲りにいきます。

 最終3コーナー手前で村上選手の外まで差を詰めた坂井選手ですが、完全に抜け出している北井選手や佐藤選手とは、まだかなり距離がある状況。そして、坂井選手の捲りはそれ以上に前との差を詰めることができず、不発に終わります。その間も3番手の山田選手は前を追いすがっていますが、レースも終盤だというのに、こちらも前との差がまったく詰まらない。北井選手の逃げが、それだけかかっていたということです。

 隊列に大きな変化がないまま、レースは最後の直線に。佐藤選手が進路を外に出して、北井選手を差しにいきます。その後方では山田選手や村上選手、坂井選手の番手から内に突っ込んだ和田選手などがごった返していますが、北井選手や佐藤選手を捉えられそうな勢いはなく、すでに3着争いの様相。ゴール直前、佐藤選手が北井選手を差せるかどうかにファンの注目が集まります。

佐藤選手の差しは届かず、北井選手が力強く逃げ切って優勝した(写真提供:チャリ・ロト)

 しかし…佐藤選手の差しは届かず、北井選手が力強く逃げ切って優勝。元Jリーガーという異色の経歴で、競輪選手としてデビューしてからは先行に強いこだわりを持ち続けた遅咲きの男が、うれしいGIII初制覇を達成しました。番手を回った佐藤選手に何の仕事もさせず、その差しも寄せ付けずに1車身差をつける完勝。これは北井選手にとって、大きな自信となりますよ。

 打鐘から1周半を逃げ続けたとはいえ、山田選手が突っ張る姿勢をみせなかったことで、すんなり主導権を奪えた。そして、けっこうスローな流れから逃げに入れたんですよ。「逃げイチ」のメンバー構成が大きく味方した結果で、さらにいえば初日特選での失敗や、脇本雄太選手(94期=福井・34歳)や松浦悠士選手(98期=広島・32歳)が落車による怪我で出場しなくなったことも、この結果につながっている。さまざまな要素が、彼のGIII初優勝を後押しした感がありますよね。

 地元・京都勢については「やるべきことはやったが力が足りなかった」という結果でしょうね。北井選手が主導権を奪いにきたときに突っ張る手もあった…と考える人がいるかもしれませんが、山田選手と北井選手がもがき合ったとして、得をするのは太田選手や坂井選手ですからね。結果的には完敗だっただけで、やはり「佐藤選手の後ろの3番手」が、優勝を狙えるベストポジションだったと思います。

 坂井選手もそこを狙っていたと思いますが6番手となり、そこからの捲りでは村上選手の外に並びかけるまでが精一杯。本人もコメントしていたように、デキもひと息だったという印象です。まったく見せ場なく終わった太田選手については、初手で前受けを選んでから「いったい何がしたかったのか?」が見えてこない。そして、結果的に最悪の立ち回りをしてしまった。そこは、しっかり反省するべきでしょう。

 この決勝戦については、とにかく北井選手の強さが目立ちました。シリーズを通して存在感を発揮していたように、デキも本当によかった。展開も味方につけて、素晴らしい走りをしていたと思います。それでも、山田選手を最後まで寄せ付けず、S級S班という競輪界の“横綱”まで完封するというのは、並大抵ではない。今後さらなる飛躍が期待できる選手の登場で、北井選手には競輪界を“もっと”盛り上げてほしいですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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