2023/07/30 (日) 12:00 10
現役時代はトップ選手として長く活躍し、現在は評論家として活動する鈴木誠氏の競輪予想コラム。今回は名古屋競輪場で開催されている金鯱賞争奪戦の決勝レース展望です。
【金鯱賞争奪戦】が開催されている名古屋競輪場は、標準的な400バンクながらも、カントのきつさもあってか、タイムの出やすい傾向にあります。
このようなバンクで活躍が目立つのは、スプリンタータイプの若手選手であり、その中でも山口選手の走りが目を引きます。また、このバンクで【高松宮記念杯】と【オールスター】を勝っている新田選手も、相性のいいバンクと言えそうです。
自分が現役時だった頃、こうしたスピードバンクに参戦する際には、車輪のテンションを上げるなど、自転車の部品に手を入れながら、『堅め』のセッティングをしていました。
こうしたスピードバンクのレースでは部品だけでなく、堅めのフレームで臨む選手もいます。競輪は選手同士との競技とは言えども、やはり、トラックレーサー(競技用の自転車)も味方に付けなければ、能力を発揮することはできません。
特に記念競輪のように高いレベルで力が拮抗するほど、セッティングは重要になってきます。今回、決勝に残った9名も実力の高さに加えて、自分の走りに合ったセッティングができている選手たちと言えるでしょう。
その9名の並びですが、東日本での連携となったのが渡邉選手-武藤選手。中国ラインが取鳥選手-桑原選手。そしてS級S班での連係となったのが、北日本ラインの新田選手-守澤選手です。そして単騎は山口選手、伊藤選手、南選手の3名となりました。
山口選手、伊藤選手、南選手が単騎戦を選んだのは、今大会における個々の調子の良さもあるかと思いますが、その3名に負けず劣らずの走りを見せているのが、一次予選からずっと先行している取鳥選手です。
スタートも1番車となった渡邉選手ではなく、取鳥選手が取りに行く可能性もあると見ています。そうなれば東日本ライン、北日本ラインで続いていき、単騎の3人は後方に構えてることになりますが、そこから積極的にインを切ってきそうなのが、山口選手と伊藤選手です。
単騎戦を選んだ2人は、競輪学校で同期(117期)である上に、3番車と4番車で車番が並んだこともあって、山口選手が動いたのなら、伊藤選手もその後ろを付いていくでしょう。
それを見た新田選手も動き出していくはずであり、渡邉選手も先行も辞さない形で前へと踏んでいきますが、最終的にレースの主導権を握るのは、後方に下げてから一気に先行体勢へと入る取鳥選手となりそうです。
その時、山口選手と渡邉選手が中国ラインの後ろを取り合うようだと、レース経験の豊富な北日本ラインには願っても無い展開となります。
新田選手のこのバンクを得意としているのは、先に書いた通りですが、後ろを回る守澤選手も準決勝では、嘉永選手の捲りを止めただけでなく、内を付いてきた福永選手を閉め切っての1着と、番手選手として最高の仕事をしました。
新田選手は細切れ戦を得意としており、しかも後ろには守澤選手が付けているので、取鳥選手の先行を早めに捲り切り、そのまま押し切ってしまう可能性は充分にあると思います。
この展開となった時でも、単騎となった山口選手のスピードは驚異です。ライン戦は自分の調子が上がらなくとも、ラインを組んだ選手の総合力で勝ちきれるといった強みがあります。
ただ、今大会の山口選手はラインの力を必要としない程にコンディションが良く、それがスピードの違いにも表れています。
山口選手にとってこの細切れ戦は、願っても無い展開ともなりました。混戦の中を捲っていった北日本ラインに切り替えられたのならば、前を行く守澤選手や新田選手を、そのスピードで交わしきってしまうのかもしれません。
鈴木誠
千葉県市原市出身。日本競輪学校第55期卒。千葉経大付属高校の頃から競輪に没頭し、吉井秀仁氏に師事。現役時代はすべての戦法を完璧にこなし、「本物の自在型選手」と評されるほど多彩なストロングポイントを武器に、引退するまで長きにわたってトップ選手として君臨した。現役時代は通算3058戦665勝、優勝109回(うちGIは競輪祭新人王を含め4回、GP1回)、年間賞金王1回、通算獲得賞金は17億を超える。18年7月に、ケガのため惜しまれつつ引退。引退後は選手経験を生かし、解説者として活躍。スピードチャンネルなどの番組にも出演している。