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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【佐藤慎太郎のルーツ】近鉄バファローズの野球帽が象徴するもの「他人と違うから面白いんだべよ!」

2023/07/27 (木) 18:00 50

編集部から“夏休み”リクエスト! 今回のテーマは佐藤慎太郎の学生時代やルーツの話(撮影:北山宏一)

 全国300万人の慎太郎ファン、そしてnetkeirin読者のみなさん、猛暑が続くので水分とプロテイン補給はお忘れなく! 佐藤慎太郎です。今回のコラムはオレの昔話、いわゆる「ルーツ」を書こうと思う。

子どもの頃と変わらない考え方がある

佐藤慎太郎は野球少年だった(写真:イメージ)

 小学校時代、オレは地元のソフトボールチームに入っていて、中学までは野球を続けた。オレはセンスがなくて「球が飛んでこない」という理由からライトに追いやられたりしていた。バッティングも全然ダメで打率も低い。活躍とは無縁の野球少年だった。

 まわりのヤツらを「みんなうめえなあ」って見ていたし、プロを目指そうなど1ミリも思わなかった。なんとかレギュラーにはなり、一生懸命練習に励んだ。野球がうまくなりたいとか試合に勝ちたいとかではなく「レギュラーの座を守らねば」という一点に集中していた。この考え方は競輪選手になってから今までを振り返ってみてもあまり変わっていない。

 オレの基本的な性格なんだと思う。目の前の小さな目標に全集中して練習する癖がある。今も「これ以上は弱くなりたくない」というニュアンスで練習している。「タイトル獲りたい、レースで勝ちたい、そのために強くなりたい」というのはもちろんあるが「弱くなるのを先延ばしにする!」とどこか“後ろ向きのトーン”でモチベーションを保っている。

幼少の頃から自己評価は低く、危機感とともに励む練習によって自信を補っている(撮影:北山宏一)

きっかけは“未熟な考え”

 野球の話に戻すと、中学3年の「中体連」一回戦、オレはめずらしいことにヒットを3本も打って活躍した。でも試合には負けて引退。この時、すごくチーム競技に冷めた感覚があった。「いくら活躍したって他選手がうまくいかなければチーム自体は負けちまうんだな。団体競技ってつまんねえ」って。今思えば未熟な考え方だし、何様だよって話(笑)。その試合まで活躍もしていなかったくせにだよ。年を重ねた今、この考えは全否定したい。間違っていた。

 でも、ルーツを語る上で団体競技よりも個人競技だと思った“きっかけ”になったのは事実。当時、“物分かりの悪い未熟者”じゃなければ、個人競技をやろうとはしなかったかもしれない。それに、団体戦の要素を含む競輪のレースでは、間違った考えを知っておくことが超重要だ。仲間がうまくいくか、いかないかは関係ない。己を磨くことに集中し、徹底的に準備することが大切だ。

連係相手へのリスペクトは絶えず(撮影:北山宏一)

専門的知識と職人への憧れ

 オレは小学生時代の卒業文集に「寿司屋になりたい」と書いている。叔父さんが東京の寿司屋で働いていて、帰省すると魚をさばいたり、寿司を握ってくれたりしたんだけど、とてもかっこよく見えた。当時から「その人にしかできないこと、専門的な職人になってみてえ」なんて漠然と思っていた。

 また、その時の将来の夢といえば大真面目に「暴走族になりたい」とも考えていた。ガキの頃に『カミオン』ってデコトラ雑誌があって、トラックには乗れないから仲間たちとデコチャリを作っていた。夜にピカピカしたランプをつけて仲間たちと集まり、走るのが面白かった。そんなわけで、いつか暴走族になりたいと考えた。これもオレのルーツみたいなもので、“何者かになって周囲に認識されたい欲求”があった。

 結局、寿司屋でも暴走族でもなくマーク屋になったわけだけど「オレにしかできない専門性」、「何者かになりたい」という希望は達成できたように思う。これは本当に幸せなこと。天職だと胸に刻み、絶対に選手として頑張り切らないといけないと思う。

天職「マーク屋」として人前で暴れたい(撮影:北山宏一)

“普通じゃない職業”につけ、の洗脳

 そんな感じで仲間と悪さをしながら成長したんだけど、中学卒業後の進路選択の際には自転車競技部のある学法石川に行こうと決断した。この選択の土台を作ったのは親父の洗脳にほかならない。親父はオレの自転車好きを見抜いていたし、大の競輪ファン。今思えば手塩にかけて洗脳してくれていた(笑)。

 最初に自転車を買い与えられた日、軽トラに自転車を積み、家から遠いグラウンドへ出かけた。すぐに補助輪を外して練習。乗れるようになるや否や「よしイイ感じだな。家までは自転車で帰って来いよ。んじゃな」といって親父はブーンと先に帰っちまった。子どもながらに「こえーよ。冗談じゃねえ」と思ったもんだよ。

 だが、ちゃんと帰れたし、帰り道でテクニックが上達した。それからというもの、友達とどこまでも乗り込んだ。いつだったかママチャリで「いわきの海に行こう」と朝5時に集合したこともあったっけ(途中で断念して引き返した)。レースも遊びの中でよくやっていた。

学区外まで冒険したり競走をしたりが楽しかった(写真:イメージ)

 どこまでも楽しそうに乗り込むオレを見て、競輪が好き過ぎる親父(※)は「選手にならねえかな」と思ったのかもしれない。「“普通じゃない職業”につけ」ってよく言われていた。「人と違う生き方はおもしれえぞ」と。

 ※実家の前の道路ではたまに競輪選手がロード練習をしていた。親父は走行中の選手を見つけると「慎太郎!今のS級選手だ! 行くぞ!バイク乗れ!」みたいなことを言いながらオレをバイクに乗せて選手を追いかけた。選手の横まで走っていくと親父は「頑張ってください!」とか熱心に声をかけていた。なぜかオレも挨拶しろと言われ、まるで面識もない人に「頑張ってください」とか言わされてたわ(笑)。ともあれ「競輪選手」を身近なものにしてくれたのは親父だな。

“人と違っていい”の言葉

 こんな感じで職人に憧れ、何者かになりたいオレには「普通じゃない職業へつけ」と言う競輪好きの親父がいた。そんな親父はよく「他人と違うから面白いんだべよ」と言っていた。この言葉は、ふとしたときに思い出す言葉だったりする。

 例えば競輪学校の卒業式、オレは涙一滴も流していない。周囲には泣いている同期もそこそこいた。一瞬自分はクレイジーなのかな?と思ったけど、オレは卒業に達成感も嬉しさも感じなかったから、デビュー後のバトルに集中しようと思った。わからない感情はわからないでヨシ! 人と違っていい! とした。

競輪学校順位13位、デビューしてトップになることに意識が行き過ぎ、卒業の感慨深さは皆無だった(写真:イメージ)

 また、父親としても“普通”ってわけにはいかない。競輪選手は自由にスケジュールを組める仕事だけど、オレは自分のトレーニングスケジュールだけは何よりも優先している。それが譲れぬマイルールだ。家族の時間は少なくなるし、行事への参加も難しい。でも人と違っていい。(幾分反省はある)

 まだまだある。食品の成分表示欄を確認するとき。タンパク質は何グラム入っている? 脂質は? 添加物は? と異常なほどに気を遣っている。生粋の健康オタクだ。異常なほど食品に気を遣いたくなるほど、いつも体を鍛え抜いていよう。人と違うアプローチで年齢による退化を遅らせたい。

 すべてが目標に繋がっている。年齢を重ねて弱くなることは“普通”なのだろうが、人と違っていいし、普通じゃなくていい。全部オレが決めること。「人と違っていい」を頼りに30年以上も人生をやってきた。これからも『より職人に、より何者かに、よりクレイジーに』の発想で、ほかの誰でもない「佐藤慎太郎」を確立させていく所存!

唯一無二の存在を目指している(撮影:北山宏一)

さいごに

 そろそろオチのエピソードを投入し、軽やかに話をまとめて筆を置きたい。巨人戦しかテレビ放送がなかった少年時代、ベースボールキャップが流行した。オレも親父に買ってくれと頼んだ。親父は地元の近隣チームでもなく、中継もやらないのに近鉄バファローズの帽子を買ってきた。

「親父、近鉄かよ! パリーグの帽子なんかかぶってる友達なんてひとりもいねーけど…」
「だから良いんだべ! 他人と違うから面白いんだべよ!」
「そんなものなのか? まあいいや。ありがとよ」

 親、友達、師匠、先輩、後輩、対戦相手。今に繋がるルーツは数知れず。でも近鉄バファローズの野球帽エピソードは、競輪選手としてたまに思い出すルーツの象徴だ。(阪神タイガースファンだけどな! ガハハ!)

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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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