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前田睦生の感情移入

【三山王冠争奪戦】北日本のマーク屋、佐藤慎太郎と成田和也の関係

2023/06/28 (水) 12:00 52

落車に負けない心がある

輪界最高峰は鬼の集い

 前橋競輪場で6月29日〜7月2日に開催される「開設73周年記念 三山王冠争奪戦(GIII)」に、「高松宮記念杯競輪(GI)」を初日落車というアクシデントを乗り越えて優勝した古性優作(32歳・大阪・100期)、そして4日目の「青龍賞」で落車した平原康多(41歳・埼玉・87期)の名前がある。

 外からの目で見れば、欠場するのではないか…と思える状況だ。古性は地元GIという精神面での負担もあっただろうし、平原は肩甲骨骨折からの復帰戦でまた落車という過酷…。それでも、競輪選手として“走ること”の意味を考え、重みを背負っての出場だ。鬼たちの4日間は刮目して見るほかない。

 S班は古性、平原と佐藤慎太郎(46歳・福島=78期)の3人だ。シンタロウは直前の久留米記念(中野カップレース)をどう見ただろうか…。北日本4人が結束し、優勝は成田和也(44歳・福島=88期)。超奮闘の新山響平(29歳・青森=107期)が同着の4着に踏ん張り、4人で上位着に入った。

 シンタロウと成田は追い込みの最高峰を極める位置にいる。“マークアルプス”の険しい峰を、尊厳と美しさを持って築いている。そんな2人の関係は…。

佐藤慎太郎が嫉妬する男

2013年函館以来の記念優勝だった成田和也

 成田からすれば、シンタロウは純粋に偉大な先輩。福島の、北日本のマーク屋として背中を追いかけてきた。2012年に熊本ダービーを勝ち、シンタロウが「成田がふさわしい」と前を回す時期もあった。その走り、技術は最初は荒々しかったが、徐々に洗練され、押しも押されもしない追い込みのトップ選手になった。

 今はシンタロウの驚異的な強さが成田を上回り、成田はシンタロウをひたすら尊敬、尊重している。そんな2人だが、お互いにうらやむ、また嫉妬?する部分がある。

シンタロウ「成田は寡黙なキャラで売っていて、カッコよくて、ずるいよね!」

成田「いや、じ、自分も、シンタロウさんのように、しゃべりが、うまければ…」

 シンタロウは二枚目に加え三枚目の役回りも果たせる異能者。ファンの心を店頭で捕まえまくる。バナナの叩き売りを競輪場でやったならば、恐ろしいほどの大盛況になるだろう。でも“男”なので成田のカッコよさ(カッコよく生きていること)にはリアルに嫉妬している。

 成田の、ガウンを着て暖炉を前にしソファに深く腰掛けゆっくりと葉巻をくゆらせる…奥ゆかしくハンサムな人々の惹きつけ方に嫉妬しているのだ(成田の姿はイメージです)。

高松宮記念杯の初日

佐藤慎太郎の競輪こそが、競輪

 シンタロウが高松宮記念杯初日の2Rで強烈なブロックを披露すれば、6Rでは成田もそれに応えるように炎の仕事を披露した。“北の男”が演じる好演にファンは喝采を送った。無論、北日本ラインの先頭、後ろを固める選手みんなで演じ切ったレースだった…。

 今回、久留米記念の北日本勢の走りを見たシンタロウは心躍っていることだろう。饒舌にそれを前橋の舞台でたくし上げるのか。いや、静かに見せるのが男の仕事…とばかりに寡黙にこなすのか。

 先日、シンタロウが自身のコラムで「北への思い」を披歴した直後に北日本勢が久留米で大暴れ。これは、シンタロウがやっている競輪が、北日本の思いそのものであり、絶対に間違っていないことを証明するものがあった。

 高松宮記念杯の準決のレース。小松崎大地(40歳・福島=99期)が先頭で戦うところを、番手で激しく援護し、3番手に迎え入れ、最後は小松崎が踏んだ後にコースに入っていった。「これが競輪だ」。ぜひ、ファンの方々にはシンタロウのレースをたくさん見てほしい。

「それが、競輪なんです」ーー。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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