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松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士のGI回顧】“苦いダービー”に思う「最高峰のレースでは一切の隙も許されない」

2023/05/26 (金) 15:00 37

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。4月、武雄記念で落車してしまい、ファンのみなさんにはご心配をおかけしました。たくさんの人に応援してもらったダービーですが、期待に応えられず、申し訳なかったです。もう体はだいぶ良くなっていて、今は万全の状態で6月を戦えるように励んでいます。それでは今月のコラムはダービーと宇都宮記念を振り返りたいと思います。

日本選手権競輪は落車明けの出場となってしまった(撮影:北山宏一)

レースよりも日常生活がキツイ

 落車後に病院に行き『骨は折れていない』との診断が出ました。3日間安静にしてからローラーに乗り、体の状態を確認したのですが、思いのほか痛みは感じず。不幸中の幸いで、自転車を乗る分には痛みが出にくい怪我でした。

 ただ、今回一番痛めたのが肋骨だったのですが、重たいものを持つときや寝返り、咳やくしゃみで激痛が走り、日常生活に難がありました。平塚入りする前検日の朝はめちゃくちゃ痛くて「大丈夫なのか?」と思いましたが、いざ練習を走ってみるとそこまで痛みを感じませんでした。「展開有利のレースになれば戦えるレベルにある!」と自分を鼓舞してシリーズ入りしました。

日本選手権競輪開会式(撮影:北山宏一)

 そんな心境で迎えた1走目…。最終ホーム手前から仕掛けようと踏んだのですが、スピードが思うように上がらずに途中で断念。やはり好調時とはギャップがあり、勝機を逃してしまいました。好調時ならタイミングもバッチリ行けているところですので、調子の悪さとそれらが作り出す不安が前面に出てしまいました。

初日から怪我の影響を感じるレースとなった(撮影:北山宏一)

 2走目はどうにか展開有利の中で走りたかったですが、叶わず…。悔しいですが勝ち上がりを逃す結果になってしまいました。落車明けでも「1割2割減のパフォーマンスならできるはず!」と考えての参戦でしたが最高峰のGIは甘くなかったです。ほんのわずかな不安もウィークポイントになり、レースでは弱さとなって表れます。シリーズ中の睡眠の質も悪く、「自転車に乗っていない時のコンディションも重要」だと改めて思い知りました。

二次予選は町田太我選手が出切れず。連係外し猛追するもブロック受け、脚力を消費した(撮影:北山宏一)

衝撃が続いた開催5日目

 3走目に2着、ここでようやく確定板を捉えることができました。でも「嘉永君とゴール勝負できる! 1着行ける!」と確信したにも関わらず、渡邉雄太君に先着を許してしまったレースです。渡邉君の最終直線の伸びは次元が違う加速で、過去に体験したことがないものでした。

 前を走る嘉永君も失速していませんでしたし、僕も後方から来る選手の位置確認を怠っていません。「後方を確認できずに相手の速度感が把握できないとき」に差されてしまった経験ならあるのですが、後方も確認していて、なおかつ直線の入りで1着を確信している状態で抜かされていく経験はないので、ゴール線では驚きました。あの渡邉君のスピードは信じられませんがインプットして、今後の対応策を練らなければいけません。

 また、僕のレースではないのですが、準決勝の脇本さんと新山君が衝撃的でした。打鐘前から発進して加速しながらゴールする脇本さんの走りは過去に見たことがないレベルでした。万全の状態で戦っても難しいのに、僕は調子悪いままにダービーを走っているのが現実。「仮に勝ち上がれていたとして何ができたのか」という気持ちになりました。

 これからも勝負していく相手ですし「犬伏君の番手に自分がいるとして…」などイメージを膨らませて、勝つために何をすべきかを模索しました。いずれにせよ、僕自身の能力値を上げないとイメージの具現化も難しい。「今までと違う意識で進化しないと!」と痛感しましたね。

日本選手権競輪準決勝、脇本雄太選手の逃げ切りを見て進化を誓った(写真提供:チャリ・ロト)

 最終日は白星で締めたかったですが、自分の首を絞めるようなレース展開を引き寄せてしまいましたし、噛み合わないシリーズは噛み合わないままに終わりました。「体が本調子ではなかったからダメだった」とはまるで言えないです。その上でする判断も悪かったし、非常に“苦いシリーズ”になりました。脚が戻ってきた感覚があったのが救いで、すぐさま切り替えて宇都宮記念に向けて練習を開始しました。

街道練習メインで仕上げ宇都宮記念へ

 ホームバンク広島は改修工事中で、現在バンクが使用できません。バンク練習メインの僕は防府競輪を使わせてもらおうと計画していましたが、1時間半の高速運転や重い荷物の積み下ろしがしんどく、バンク練習は断念…。日に日に軽減しているとはいえ、肋骨は日常生活がツライ(泣)。そのため、街道練習を中心に取り組みました。

 ただ、その街道練習が脚に良い刺激を入れたのか、宇都宮に入る時は筋肉の張り具合なども満足できるものでしたし、だいぶ調子を戻せました。寝返りがキツイので睡眠の質は元に戻りませんでしたが、それ以外は問題なしと言えるほどに快復できていたように思います。

バンク事情により街道練習メインに仕上げた(写真提供:チャリ・ロト)

 初日は単騎ながら粘り強く戦えたレースになりました。振り返ると打鐘で遅れ過ぎてしまったのがマズかったです。コーナーで置いてかれる感じになってしまったので、このあたりに街道練習をメインにした悪影響が出てしまったと思います。バンク練習で仕上げていないと他選手との距離感や全体の速度感の認識が甘くなります。そんな中でしたが、体は申し分なく動き、最後まで力を出し切れました。直線伸びての3着は決して悪くない感覚でした。セッティングはイメージするものと違ったので、レース後に微調整を施しました。

同県後輩・竹内翼の走りを受けて

 セッティング修正をして迎えた2日目ですが、アップやローラーではバッチリだと思っていたのにレース本番で噛み合わず…。自転車と体の一体感がなく、余力があるのに踏んでも踏んでもスピードが上がらない…。かろうじて3着という結果でした。初日も3着でしたが、まるで違う内容でした。レースが終わり、セッティングを初日のものに戻しました。

 セッティングの難しさについては今までもたくさん書いてきましたが、本当に自転車は難しいです(苦笑)。「微調整」と書くくらいですから、本当にわずかにいじっているだけなんです。今回だって1cm以下、2mm〜3mmくらいの調整です。それでも感触は変わる。これからも万全の状態にこだわり「最適なセッティング」を求めていきますが、奥が深過ぎます…。

 そして3日目の準決勝。同県後輩の翼が「関東勢を出させたら難しくなる」と読み切り全力MAXの先行策。いつもと違うパワーが出ているというか、すごいカカリ! 本当に気持ちの入った走りでラインの勝利を手繰り寄せてくれたと思います。

竹内翼-松浦悠士-岩津裕介の布陣で臨んだ中国ライン、竹内選手の気迫の先行(撮影:北山宏一)

 追走していて「このままゴールまで行き切るには厳しい」とわかる踏み上げようだったので、「最終2センターからバック付近では出ることになる!」と勝負所に集中しました。待ち過ぎて翼が失速してから出て行くと伸びていかないところがあり、そうなると翼の頑張りを無にするばかりか岩津さんにも影響します。

 絶対に外せないポイントだったので、後続の巻き返しを確認しながら躊躇なく踏みました。厳しいレースが続く中での同県後輩の気持ちあふれる先行策。気持ちだけでなく「すごいカカリ!」と思えただけに嬉しかったです。

「翼のカカリは半端じゃなかったですよ」(撮影:北山宏一)

競輪は1人で戦うものではない

 そして最終日の決勝。シリーズの勢いは地元関東にありました。僕たちは車番的にも後ろからになってしまう選択肢の少ないレースです。久田君も出切ろうと頑張ってくれましたが、眞杉君の好ブロック。あれはうまかったです。このブロックの場面で僕も外に振られてしまい、展開はかなり苦しくなりました。ここが勝敗を分けたシーンだと思います。

 振り返れば久田君の先行経験があれば、別のタイミングで仕掛けることもできたと思います。今後(久田君と)コミュニケーションしていく中で、気づいたことを伝えていきたいです。また、眞杉君のブロックの場面で反射的に外の進路を取っているので叶わなかったですが、佐々木悠葵君の横までは行くとか、眞杉君の内まで行くとかできれば戦える余地があったと分析しています。次に活かしたい学びと経験は得られました。

 話を続けますが、ブロックを受けた後、「何かしないと!」と隊列を見た時、関東勢ばかりか浅井さんのラインも追走にまったく隙がありませんでした。結果として最終ホームを前に下げざるを得ない判断に。こうなるともはや“万事休す”に近い状態です。

 宇都宮記念決勝をまとめると「競輪は1人で戦うものではない」ということです。準決勝で僕たち中国ラインがやったレースを決勝では関東ラインがやった形です。ラインの力で戦い、しっかりとそれぞれの持ち場で仕事をすることの大切さが滲み出ていたシリーズでした。

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:北山宏一)

ーー広島は改修工事ですが選手への影響はありますか?

 今回のコラムでも書きましたが、練習環境が大きく変化しているので影響はあります。今は来場者用駐車場にプレハブの選手会と道場があるので、最近はそこに集合して練習に出ています。細川貴史支部長代行や隅田幸助副支部長、大川龍二さんや細田純平さんと一緒にやっていますね。「ホームバンク」が2年も使えないのは寂しいですが、防府競輪場を使わせてもらいながら、工夫しながら鍛えていこうと思います。

ーースイーツ王子からフルーツ王子に転身したと聞きました。うまかったフルーツは?

「体にダメージあるスイーツよりも、これからは体に良いフルーツだ!」と宣言したものの、全然フルーツ食べていません(笑)。これからの季節はメロンなのでメロンを狙っていこうかな!

ーー競輪のレーススタイルが自力優位になってきていると感じます。レース巧者・松浦悠士の見解があれば聞いてみたい。

 まずは3年前の誘導退避のルール改正によってレースは変化しました。その後も少しずつ変化し続けていて、今では2周もがき切れる自力選手が増えてきて、タイムだって速い。ルール上、そういった選手が台頭するのは必然かなと思います。

 A級だった頃に「今日のラスト1周はそこそこのタイムが出たなあ!」と思うことがありましたが、今はそのタイムが赤板から出るみたいな感じです。その上で、最終周回でさらに1秒縮めてくるような力のある選手もいます。当然割り当てられる車番の影響なども超重要になりました。自力の突出した選手に「どのようにラインで対抗するのか?」という課題にたくさんの選手が向き合っていると思います。

 見解ではないですが、個人的には「成長欲求」が強くなっています。常々レベルアップしなくてはと思っていますけど、どんな戦術であれ脚力の向上なくしては戦えない時代になっています。さきほど大川龍二さんと練習していると書きましたが、年上ですが目に見えて実力を向上させている先輩です。年上で「成長・進化している」選手が身近にいると「自分もできるはず!今からだって成長できる!」と信じて練習できるので、ありがたい存在です。もっと脚力をつけてもっと戦術を深めて走っていこうと思います!

時代にあった走りをするためレベルアップする!(撮影:北山宏一)

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松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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