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松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士の優勝報告】苦しみの先の喜びは大きい! 戦う自信を取り戻したウィナーズカップ

2023/04/20 (木) 18:00 29

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。前回のコラムまでは成績が振るわず、悔しい振り返りを綴ってばかりでしたが、やっとウィナーズカップで勝つことができ、今年はじめての優勝報告を書くことができます。でも嬉しさもある反面、勝ち切らないといけないポイントで勝ち切れなかったレースもありますし、“まだまだ”の気持ちもあります。そのあたりを振り返りながら、今月も書いていきたいと思います。

第7回ウィナーズカップを制した松浦悠士選手(photo by Shimajoe)

兆しを見つけられた松山記念

 今年は和歌山グランプリを欠場してから、体は回復しているのに成績が伴わないレースが続き、本当にフラストレーションがたまっていました。「踏んでいる感触もいいし、タイムも出ているのに…」と不安ばかりが先行して、自信を持ってレースを走れていませんでした。自信のない状態では「迷い」が生じますし、レース判断自体が鈍くなっていたと反省しています。

 そんな中で復調の兆しを見つけたのが追加参戦の松山記念。このシリーズでしっかりと自力を出して戦った結果、自分の中で吹っ切れる何かがありました。今振り返ってみてもウィナーズカップの優勝は“吹っ切れる何か”を実感した松山記念に要因があると考えています。勝ち上がりは逃してしまいましたが、「方向転換できるぞ!」と手ごたえを感じたシリーズでした。

自力戦中心のシリーズで吹っ切れる何かを感じた(photo by Shimajoe)

シリーズを走りながら調子を上げたウィナーズカップ

 初日は連係予定だった松本貴治君が欠場してしまい、ウィナーズカップ初陣は単騎戦となりました。松本君は前を買って出てくれましたが、僕も前を走ってもいい気持ちで準備できていたため、イレギュラーにも動じず集中できました。このレース、最終直線で新田さんとの距離を詰めて行けた感覚があり、「今節は勝負になる脚だな」と気持ちが明るくなりました。

 2日目も単騎になりましたが、冷静に走れたと思います。僕は先手を取りそうな関東ラインを追うことにしましたが、同じく単騎の新田さんもその位置に。ここは迷いなく下げられましたし、その後のレース展開も「誰がどう動くか? 誰が何を思っているか?」を細かく見極められたように思います。初日と2日目で脚と状況判断に良さを感じていたので、「戦える自信」を固めていくことができました。

 しかし犬伏君と連係した3日目…。南関ラインを越えようとしたときに郡司君が犬伏君を持っていきました。僕はそのタイミングで両者の間にタイヤを挿してしまっていたので「やばい…こけるか…」とヒヤリ…。何とか難を逃れましたが、危ないシーンだったと振り返っています。その影響で苦しいレース展開になりましたが、あきらめることなく勝ち上がるためのルートを走ることができました。最後まであきらめずに走ることは大切ですが、ウィナーズカップの準決勝では本当にこれを痛感しましたね。晴れて決勝に進むことができ、安堵しました。

1番車・白が松浦選手、最後の瞬間まであきらめない気迫の走行 (photo by Shimajoe)

苦しんだ分だけ喜びは大きい

 決勝は南関地区の福田知也さんと連係しました。福田さんは会えば話をしますし、他地区とはいえ意思疎通ができる選手です。決勝前に「好きなように走っていい」と僕のことを尊重してくれました。地区こそ違いますが中四国の先輩たちと走る感覚に近く、いつも通りの気持ちでレースへ臨むことができました。

 初日と2日目に“脚をためてからのキレ”に感覚の良さを感じていたので、勝負所まで極力脚を使わずにレースを進めようと作戦を練りました。各ラインに積極的に動く選手がいましたし、機をうかがうレースの方が勝負になると考えての判断です。実際のレースでも迷いがない分、相手の思惑を考えたり、各選手の動作もよく見えており、感覚は冴えていました。勝負所で新田さんが落車してしまうアクシデントがありましたが、周囲の選手が反射的に上体を起こした瞬間まで見えており、俊敏に最善のルートを取れたと思います。

「隙あらば突く」といった競輪のレースにおいて、迷いなくレースに臨むことがいかに大事かと改めて感じる決勝になりました。苦しんだ分、優勝の結果が本当に嬉しかったです。今年ここまで見つけられなかった「戦う自信」。その自信を取り戻せたような気持ちになり、安心感と喜びは噛み締めるものがありました。

苦しんだ分の喜びは大きかった(photo by Shimajoe)

 心配してくれた周囲の選手や応援してくれるファンの方に優勝を報告できて嬉しかったです。でも、その後に走った玉野記念と高知記念では1着を獲らなければならないレースで勝ち切ることができず、課題を痛感し反省もしています。「復調して自信を取り戻したから良し!」とは思えず、今一度「勝ち切る」という姿勢を追求していこうと思っています。

玉野記念の決勝こそ勝ちたいレースだった

 玉野記念の決勝は選手全員がしっかりと力を出してぶつかり合ったレースでした。森田君と海也君の先行争い、海也君の突っ張り、降りてきた森田君の僕への重い一発、そのタイミングを見逃さない南関ラインの仕掛け、勝負所では単騎ながら見せ場たっぷりの慎太郎さん。素晴らしいレースだったからこそ優勝できず悔しかったです。

 それにしても前方で進めるレースは本当に頭が忙しかったです(笑)。とにもかくにも海也君の追走に神経を注ぎ、(結果として海也君は突っ張れましたが)森田君が超えていくようなら、坂井君の位置を奪い海也君を迎え入れるなど考えなくてはいけないし、予測していたのに森田君には内に押し込められるし。かと思えば渡邊君と小原さんが絶妙な仕掛けで来てしまった…。時間にすると何秒かの出来事ですし、瞬時に判断する必要がありました。もう少しうまく判断できるポイントがあったと思うので、次回に活かして頑張ります。

「想定していたとはいえ“そんなに来るん!?”って思う勢いでした」(photo by Shimajoe)

見えないところからの“猛スピード”

 勝ち切れず悔しいといえば高知記念はとにかく悔しかったです。決勝には中四国から5人が勝ち上がりました。自力選手が揃っていたので、それぞれお互いの気持ちを話し合って別線勝負を決めました。犬伏君のラインは対戦相手として勉強にもなるので、正々堂々と戦いたかったです。前日には優勝したい思いも相当湧いてきました。しかし、優勝を掴んだのは新田さんでしたね。

 レース終盤の判断が極めて難しいレースでした。最終4コーナーでも太我は失速することなく踏めていましたし、僕は前には踏めない状況です。そこで「脅威となるのは平原さんに違いない」と僕は真後ろの平原さんを警戒し、備えていました。そんな中で迫る「音」が聞こえました。

 新田さんの追い上げを目視できる角度ではありませんでしたが、「音」がみるみるうちに迫ってきたので僕も踏み込んだ形です。新田さんが見えていたら多少対応は違ったかもしれませんが、見えないところからの一気の加速…。あの局面では僕も加速しているのに、その上を猛スピードで抜き去っていく新田さん。優勝できなかった悔しさと同時に新田さんのスピードに驚き、唖然としました。今でも「何をどうすれば勝てたのか?」とレース分析をしています。

勝ち切れないレースは悔しいがいつかの糧になる(photo by Shimajo)

太我の後ろで深谷さんを思い出した

 玉野記念も高知記念も勝ち切れない悔しさを味わい、課題を見つけることも多かったです。でもそれ以上に収穫がありました。連係する若手選手の目覚ましい成長を肌で感じることができたからです。太我が強いことは練習を一緒にしているのでわかっていますが、今までは実戦でその強さを活かし切れていない面がありました。でも最近は走り方を工夫できているし、巧い仕掛け方をしています。

 衝撃を受けたのが玉野記念の二次予選。このレースはお互いのタイミングが合わなかったとはいえ、太我のダッシュが凄まじく、クチを空けてしまいました。なんとか態勢を整えて一息つけるかと思えば2コーナーからの踏み直しが超強力…! 本当に「これ千切れるんじゃないか?」と思いました(笑)。この時、太我の後ろを走っていて、どこか深谷さんを思い出しました。

 深谷さんは先行しても2コーナーからグングン踏み上げていくんですが、そういった走りを見た時、「深谷さん今日捲りだっけ?あれ?先行だよな?」とわけがわからなくなったこともあります(笑)。太我もそんな感じでした。また、海也君と初連係した時にはそのダッシュ力が凄まじいと感じました。

自身のスタイルを貫き成長を続ける町田太我選手(photo by Shimajoe)

太我と犬伏君と海也君と一緒に強くなる

 太我や犬伏君、海也君はそれぞれタイプも違います。3人とも僕が言うまでもなく、トップレベルで活躍する素質がある選手たちです。僕の視点で「この選手は絶対に強くなる!」と思う選手は『吸収能力が高い選手』なのですが、3人とも脚力の高さに甘んじることなく、一戦一戦の中で吸収したい意欲が高く、素直にアドバイスを実践してくれます。脚力だけでは勝ち切れないのが競輪なので、今後も僕自身の経験を伝え、戦術や走り方、仕掛けのポイントなど具体的な方法論を共有していきたいです。

 また、脚力に課題を感じている僕ですが、彼らと連係することで学びが多いです。踏み込み方や体の使い方を番手位置で体感できることには大きな意味があります。彼らと連係する際に「いかに得意な戦法で走ってもらえるか?」を考え、いかんなく実力を発揮できるようなレースをしてもらいたいです。後ろを走る時は余裕を持って追走できるように実力を上げていきたいです。

「押し切られてしまう!」と恐怖に思うことは嬉しい悲鳴であり、僕から車券を買ってくれるお客さんのことを思えば、絶対に勝たなくてはいけません。将来有望な若手選手との連係が続いた玉野記念と高知記念。良い雰囲気の中で彼らと信頼関係を築けたことをとても嬉しく思っています。

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は3問の質問に答えていきます!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:北山宏一)

ーー「セッティングがうまくいかない」などのコメントがよく見られるのですが、部品は全て付いているのに、そんなに大きく影響するものなのでしょうか? レースでは何割程度影響していますか?

 数字で何割とビシッと答えるのは難しいですが、かなり変わります。体が100%の状態に仕上がっているとしてセッティングが出ている自転車に乗ればその力はそのまま自転車に伝えることができます。でもセッティングが出ていない場合は半減(もしくはそれ以下)します。セッティングが出ていない自転車で戦うとすれば、まったく勝てなくなり降級は間違いありません(笑)。

 自転車だとわかりにくいですが、「靴」で考えてみてはどうでしょうか? 履き慣れたスニーカーと履いたこともない高いヒールで走ってみることを想像してみてください。こんな感じで比較してもらえるとセッティングの重要性が伝わるのかなと思います。

ーー松浦選手は競輪に対してとても研究熱心な印象を受けます。そこまでのめり込む理由はどこにあるのでしょうか?

 “当たり前”という感覚があり、自分のことを研究熱心だとは思っていません。僕の場合は素質といった意味で脚力だけで戦うのは厳しい選手です。でも僕は競輪選手としてプロになったわけですし、やはり徹底的に勝利を目指さなくてはいけません。だから研究や観察は必要不可欠になってきますし、戦術やセッティングなどあらゆるところで秀でなくては勝負にならないのです。だから研究熱心と言われると否定したくなります(笑)。いつもまだまだと思っています。研究する理由は至ってシンプルで「プロだから、勝ちたいから」ですね。

ーー初日特選はどのような気持ちで走るのでしょうか? 調子のピークは準決勝に合わせるのでしょうか?

 ピークへの持ってき方はシリーズ毎に違いますね。消耗度合いによっても変化するものなので、一概には言えないところがあります。僕の場合は初日にしっかり走れるように準備することが多いかなと思います。初日こそ自分の調子にも相手の調子にも“アタリ”がつきますし、そこは大事に走っています。準決勝にピークを合わせるのは難しいです。予選の勝ち上がりで初日、2日目とタフな展開ともなれば、準決勝・決勝はパフォーマンスが落ちますし、力の入れ具合が変わってきます。シリーズごと、レースごとに考えて調子を整える感じですね。

日本選手権競輪への意気込み

 それでは今月のコラムはこのあたりで筆を置きます。僕は今、日本選手権競輪をとても楽しみにしています。勝ち上がりが難しいダービーですが不安はなく、太我や犬伏君とGIで連係したいという気持ちが強いです。一人でも多くの味方と一緒に勝ち上がりたいです。長丁場のダービーでは『初日特選から入ってゴールデンレーサー賞を走る』ということがスケジュールを計算する上でも有利に働くと思っています。このあたりを頭に入れて、これからしっかりと戦っていきたいです。そしてダービー決勝に乗ることが叶えば、優勝した年のように裕友と一緒に走りたいです。

激戦の合間、リラックス中のオフショット(photo by Shimajoe)

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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