アプリ限定 2023/04/30 (日) 19:00 30
日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。その素顔と魅力に松本直記者が深く鋭く迫る『すっぴんガールズに恋しました!』。4月のクローズアップ選手は先日ガールズフレッシュクイーンを制した小泉夢菜(24歳・埼玉=122期)。選手をめざしたきっかけから現在に至るまでの軌跡を写真とともにご紹介します!
埼玉県出身の小泉夢菜。“自転車エリート”の印象が強い彼女の自転車競技との出会いは、家族の影響だ。幼いころからアマチュアの大会に参加する父に付いてまわり「優勝した父の代わりに表彰台へ上がって賞状をもらうのがうれしかった」と当時を振り返る。
小泉の5歳下の弟も父の影響でロードレースを始め、大会で活躍。その姿を見て「自分もやってみたい」と思ったという。こうして小泉の自転車競技生活は小学6年生の頃にスタートした。同期の野寺楓とはこの頃の大会で知り合い、長い付き合いなのだそうだ。
中学ではソフトテニス部に所属していた小泉だったが、頭の中は自転車のことでいっぱいだった。休みの日には県内のロードレースチームの練習に参加し、中学1、2年時の夏休みにはガールズサマーキャンプにも参加。全国各地から幅広い年代の女子選手が集まるガールズサマーキャンプは、刺激が多かったようだ。
「自分はまだ中学生だったんですけど、幅広い世代の女子と交流を持てたことがすごく楽しかった。自転車のことやウエアのこと、練習内容などいろいろ情報を交換することができました。自転車をやっていくなかで悩みもあったんですが、同じ競技をしている人とは悩みも共有できて、すごく充実した体験でした」
あるとき、弟の大会の応援でお台場に行くと会場にガールズケイリンの特設ブースがあった。ここでの1期生の選手とのふれあいを通じて、“自転車少女”小泉はガールズケイリン挑戦を決意する。
高校は自転車競技の強豪校・埼玉県立浦和工業高校へ進学。家からの通学も自転車で、朝練、夕練ととことん自転車漬けのスクールライフを過ごした。
「中学時代のロードレースの練習に浦和工業高校の自転車競技部の顧問の先生が来て、声を掛けてくれたんです。もともとは川越工業高校の自転車競技部で顧問をしていたんですが、浦和工業高校に移ることになっていたそうで…。そのタイミングで自分に声を掛けてくれたので、すごくお世話になりました。高校時代は『オリンピックに出たい』『どうやったら強くなれるか』とそればかり考えて過ごしていた。その先には『ガールズケイリン選手になる』って夢を常に持って練習をしていました」
ちなみに、同県の藤田まりあ(116期)は浦和工業高校自転車競技部の1年後輩だ。
「浦和工業高校は男子が多い高校で、女子は少なかったです。自転車競技部は“ガチ”の部活動だったので、1学年下の藤田まりあちゃんとは一緒に大会にも出ていたし、いいライバルでもありました」
高校2年でJOCジュニアオリンピックの2キロ個人追い抜き、500メートルタイムトライアルで優勝。順風満帆な競技生活を送り、高校卒業後はすぐにガールズケイリン選手になるつもりだった小泉だが、転機が訪れたのは高校3年生のときだった。
その輝かしい実績からジュニアのナショナルチームに選出され、世界選手権への派遣が決定。大会前にスイスのWCC(ワールドサイクリングセンター)での事前トレーニングに参加したことで、気持ちに変化が芽生えたのだ。
「日本から、自分ひとりでトレーニングに参加したんです。WCCには世界各国の自転車競技の選手が集まっていて、1か月共同生活をしていく中で、いろんな国の選手と交流をすることができました」
流暢に英語が話せるわけではなかったが、身ぶり手ぶりを交えてコミュニケーションを図った。
「アフリカの同い年の選手と話をしていたら、自分の視野の狭さに気が付いたんです。もっとたくさん時間をかけて、視野を広げたいと思うようになったので、大学に進学したいと思いました」
実りのある海外遠征を終えて地元埼玉へ帰ると、ガールズケイリン選手への挑戦をいったん胸の奥へとしまい、大学進学へ進路変更をした。志望大学は早稲田大学。これは早稲田大のコーチが熱心に声を掛け続けてくれていたことも大きかった。
無事に早稲田大学に合格し、自転車競技部に入部した小泉。インターハイ優勝と海外遠征を経験し実績は十分だったが、大学に進むと別の苦労が待ち受けていた。
「大学時代は実家を出て一人暮らしでした。高校まで親に家事全般は頼り切りだったので大変でした。一番大変だったのは食事ですね。自分で作っていたんですが、体重が落ちてしまって競技にも影響が出てしまったんです」
そこで小泉は栄養の勉強を始める。アスリートのパフォーマンス向上に特化した食事管理の資格『アスリートフードマイスター』を取得し、苦手だった自炊を克服した。
それからは大学2年の時に全国大会で優勝。大きな達成感を味わう一方で、進路に迷いが生まれてしまったこともあった。
「高校でも大学でも全国で優勝できたし、もう自転車はいいかなと思ってしまった時期もありました。周りの同級生は就職活動を始めていたので、その影響もあって…。自分も就職をして、会社員として働こうかと考えたこともあります」
小学生の頃からの夢であるガールズケイリンに挑戦するか、就活に専念するか。人生を左右する決断は自分ひとりではできず、まわりの人に相談した。
「自転車競技の先輩に相談したら『ガールズケイリンに挑戦したほうがいい』と背中を押してくれたんです。後に師匠になってくれる國廣哲治さんを紹介してもらったのもこのタイミングでした。養成所の試験に向けて不安もあったけど、國廣さんもすごく優しく接してくれたことで、何とか養成所に合格することができました」
そして2021年5月、122期として日本競輪選手養成所へ入所した。
高校、大学と全国優勝を経験した小泉だったが、記録会での成績は伸び悩んだ。養成所でのランクを決める帽子の色は青で、最下位グループに入ってしまう。
「大学に入ったころがピークでしたね…。あのころは天狗にもなっていたんだと思います。でも落ちるとこまで落ちたんで、後は上がっていくだけ。養成所の生活も苦じゃなかった。大学時代は家事をしながら練習だったけど、養成所は栄養管理された食事が用意されるし、お風呂も沸かしてくれる。練習に専念できる環境でした」
だが前向きな姿勢で鍛錬を重ねて最終的に成績を上げ、在所成績2位で卒業した。
直後のルーキーシリーズでは松戸、松山と2場所連続優勝。地元大宮で迎えた7月の本デビュー戦も先輩レーサーを相手に2、3、1着で優勝と、“122期・小泉夢菜”の名前をガールズケイリンファンにアピールした。
「養成所時代から先行したらダメダメだった。車券を買ってくれている人がいるので、自分の得意な戦術で全力を出すことを意識しました。私が得意なのは展開を読むこと。それを生かして、追い込みとまくりを中心に戦いました」
今月から選手生活は2年目に入り、成長を感じるレースを続けている小泉。後方になってしまったときにはしっかり動いて主導権を握ることもあり、元気いっぱいのレースで魅せている。
選考順位5位で臨んだ4月のガールズフレッシュクイーン(高知)ではあっと驚く直線一気の差し脚さく裂で1着。同世代のトップに輝いた。
「フレッシュクイーン優勝の結果は自分が一番驚いています。前のほうにいないと、と思って臨んだ。山口真未さんに合わされたときは苦しかったけど、番手に入ることができて、最後は何とか差すことができました」
順調に見えた初優勝からしばらく優勝から遠ざかっていたが、大舞台で今年の初優勝を達成し、今後の期待は高まるばかりだ。
「デビューしたときはいろんなことがうまくいきすぎた。フレッシュクイーンまで優勝できなかったけど、焦らず地道にやっていたので、勝つことができてよかったです」
フレッシュクイーン優勝後の武雄は3、7、3着とやや精彩を欠いたが、課題は明確で気持ちの切り替えも完了している。
「武雄バンクの特徴をつかみきれなかったし、実力がまだまだ足りないことを実感しました。優勝後の大事なシリーズだったから悔しいです…。次、武雄に呼ばれたときは結果を残せるように頑張ります」
ガールズケイリンでは、今年から3つのGIレース(6月『パールカップ』、10月『オールガールズクラシック』、11月『競輪祭女子王座戦』)が開催されることになった。それにより小泉の目標も明確に定まったようだ。
「今年の目標はGIレースに出場すること。そのあとはGIに出続ける選手でいたい。ここまで自分は周りの人に恵まれてきました。これからも地道にコツコツと頑張っていきたいです」
一度は競輪選手になることに迷いもあったが、今はどう感じているのだろうか?
「競輪選手になれて本当によかった。プロになってよかったことは自立できたことです。社会人として、親に迷惑を掛けることなく生活ができるようになった。今は時間も自由に使えるし、オンオフの切り替えもしやすい環境です。毎日の練習が終わったあとは漫画を読んだりアニメを見たり、YouTubeを見たりしてリフレッシュしています。最近ハマっているのは…『名探偵コナン』と『東海オンエア』かな」
“ガールズケイリン選手になる”という少女時代からの夢。紆余曲折こそあったが夢をつかみ、ようやくスタートを切った。長い自転車キャリアに裏付けされた抜群のレースセンスは目を見張るものがある。今年は度胸満点の組み立ても増えてきて、さらなる飛躍が待っているだろう。
「プロの競輪選手になった以上、車券を買っている人がいることを忘れてはいけない。アマチュアはレースで試すことも許されるけど、プロは違う。自分が出せる最高のパフォーマンスを出し切らないといけないと思っています」
小泉夢菜の挑戦は、始まったばかりだ。
松本直
千葉県出身。2008年日刊プロスポーツ新聞社に入社。競輪専門紙「赤競」の記者となり、主に京王閣開催を担当。2014年からデイリースポーツへ。現在は関東、南関東を主戦場に現場を徹底取材し、選手の魅力とともに競輪の面白さを発信し続けている。