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【ギャンブル依存症を考える】繋がれば治すことができる! 不安を抱えて一人で悩まないで/田中紀子氏インタビュー

2023/03/01 (水) 18:00 7

今回は「ギャンブル依存症を考える」と題して、識者へのインタビューを企画しました。取材に応じてくれたのは「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表。ギャンブル依存症のリスクについて正しく理解することで、のめり込みに不安のある方やこれからギャンブルを楽しみたい方にとって有益な情報になれば嬉しいです。(netkeirin編集部)

ギャンブル依存症問題を考える会・田中紀子代表

ーーはじめに田中代表が「ギャンブル依存症問題を考える会」を立ち上げた経緯について教えてください。

 私自身、ギャンブル依存症に苦しんだ経験があり、自助グループに参加することで回復しました。当時は依存症についての正確な情報を集めること、相談すべき場所を知るまでにとても時間がかかりました。回復した時には「まずは正しい情報を提供したい」と考えましたね。

 自身の経験をオープンにして、実名・顔出しで情報発信することで、苦しんでいる人が然るべきところに相談できるような環境を作りたい一心でした。人への貢献を考えることは私自身のためにもなりました。ギャンブルをやめて空いた穴が幸福感で埋められる感覚があったんです。

ーー依存症についての「正確な情報」とは具体的にどのような情報でしょうか?

 意志の強い・弱いはまったく関係がなく、ドーパミンの分泌に異常があるなど「脳の病気」だということです。そして依存症がどういったものかを知れば「治すこともできる」ということです。

ーーたしかに世間が抱く依存症のイメージは意志の強さ・弱さを中心に語られています。「ギャンブル依存症問題を考える会」の活動内容をお聞かせいただけますか?

 私達の活動は相談業務が基本です。電話や対面でお困りの方から相談を受けます。ただ、活動を知ってもらわないことには相談の入り口を見つけてもらえません。啓発活動が相談に繋がるので、セットで考えなくてはならないです。地域でセミナーを開催したり、YouTubeで動画配信をしたり。とにかく知ってもらうことにも尽力しています。

相談業務と啓発活動に飛び回る日々

ーー現代の「ギャンブル依存症」の実態についてどのような見解をお持ちでしょうか?

 私が苦しんでいた時代と比較すると「若年化」は顕著で、抱えている借金も大きいのが特徴的です。スマホでハマり、ギャンブルの現場には行ったことがないという若者も多いです。私の時代と悩みの質も違いますし、依存症の中身・背景に変化を感じています。また、コロナ禍で公営競技やオンラインカジノといった相談は増加傾向にあります。ゲームの延長で入りやすくなっている気がします。

ーー「自分は依存症なのかもしれない」と当事者は気が付けるものでしょうか?

「自分は問題かも」と認識できる人は多いと思います。でも気が付くことができても「そんなはずない」と否認してしまう方がほとんどです。「仕事をしているから大丈夫」や「毎日はやってないから大丈夫」という感じで。これは当事者だけでなく、ご家族も否認する傾向があります。相談件数のうち70%はご家族からですが、なかなか受け入れられない方は多いです。

ーー否認してしまうことは良くないのでしょうか?

 私も経験があるので、受け入れがたいという気持ちは痛いほどわかります。ただ、回復することを前提に話せば、受け入れて行動した方が事態は好転します。(当事者の)性格や資質なんてこれっぽっちも関係のない「病気」なので、受け入れることで道が開けるのは明白です。怪我をしたら治療をしますよね。本当にそれと一緒なんですよ。

ーーその一方で「自分は問題かも」と受け入れている人の場合は、最初の一歩をどのように踏み出せばいいのでしょうか?

 まずは一人で抱え込まず相談して繋がることです。全国各地に「GA」と呼ばれる自助グループが点在しています。近隣にあれば、ぜひ参加しましょう。地域によって参加が難しいエリアもありますから、その時は私たち「ギャンブル依存症問題を考える会」のZOOMミーティングも活用してもらいたいです。ちなみにご本人ではなく、当事者のご家族による相談も効果的です。ご家族の相談からご本人が回復していくケースを相当件数見ています。

ーー依存症に陥りやすい人の特徴や傾向はありますか?

 性格や資質といったものに関連はないので、特徴はありませんね。ただ、データ分析の裏付けがある傾向としては「遺伝要因」と「環境要因」があります。具体的な環境要因としては「若い頃からギャンブルをする環境があった」、「ギャンブラー比率の高い職場で働いている」が代表的です。競輪は「20歳から」と決められていますが、家族を通して幼少期に体験していたりするとリスクは上がるものと思われます。

根気強くセミナーを開催して情報提供に尽力している

ーー競輪にのめり込み依存症問題を抱える方は多いのでしょうか? 事例なども教えてください。

 競輪はもともと相談件数が少なかったです。でもコロナによる生活様式の変化を境に、若い人を中心に一気に増えたなという印象があります。動画配信者による「賭けてみた企画を視聴して」や「スマホゲームの延長のつもりで」は最近とてもよく耳にします。

ーーギャンブルを楽しんでいる人、これから楽しみたい人に伝えたいことはありますか?

 全員が「依存症になるリスクがある」と認識して欲しい思いがあります。ギャンブルなので当たり前ですが、お金にも気をつけてもらいたい。自分の収入を考えてどのくらいが「余裕のお金、遊んでもいいお金」なのかを明確にしておくことが大事。また、依存症にならないための心がけで思いつくのは「ストレス解消」にギャンブルを利用しないこと。不安や悩み、喪失体験などをギャンブルで埋めようとすると危険です。

ーーこの記事を読んで不安に思う方がいるとして、すぐにとるべきアクションはありますか?

 私達が研究者と共同開発した「LOST」という自己診断シートがあります。

『Limitless』
・ギャンブルをするときに予算や時間の制限を決めない、決めても守れない
『Once again』
・ギャンブルに勝ったときに「次のギャンブルに使おう」と考える
『Secret』
・ギャンブルをしたことを誰かに隠す
『Take money back』
・ギャンブルに負けたときにすぐに取り返したいと思う

 上記4つのチェック項目のうち『1年以内のギャンブル経験で2つ以上「Yes」がある場合、ギャンブル依存症の可能性があります』というものです。この自己診断結果をもとに、相談をしたり、自助グループに参加したりと、一人だけで悩まないで欲しいです。

ーーさいごに読者の方へ伝えたいメッセージをお願いします。

 みなさんにお願いがありまして、それは「ギャンブル依存症の方にはお金を貸さないで」ということです。依存症の方は「ギャンブルに使う」とは明かしませんから、難しいお願いなのですが。「ギャンブル好き」で「いつもお金に困っている人」がいたら、それは依存症の可能性が高いです。

 (借金をしてのギャンブルは)回復していく過程の中でも、借金問題と向き合うことになるのですが、職場関係での金銭の貸し借りは、貸した方にも借りた方にも影を落とすことが多いです。この点に私たちは難しさを感じているので、依存症ではない方にもできることを実践してもらいたいんですよね。

ーー田中代表、本日はありがとうございました。

 こちらこそありがとうございました。

公益社団法人『ギャンブル依存症問題を考える会』ホームページはこちら

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