改めてグランプリレースを考察したい。

　僕自身は記者席を出て、1センターで金網越しに見ていたが、まずは、慎太郎ファンが大声で「三本ローラーの唄」を歌い始めた。選手が敢闘門から、バンクに登場した瞬間だが、場内のボルテージは、すでに最高潮に達していた。入場者は12000人弱だが、それ以上のファンが観戦していた気がする。

　前受けは北日本で、単騎の郡司浩平、平原康多と続き、松浦悠士だけが位置取りを模索。そして後ろ攻めが脇本雄太。残り5周で松浦悠士が北分断に動くと、地鳴りの様な、どよめきが起こる。北の2段駆けを買っていたファンは、嫌な汗が出ただろうし、新山響平も、この時点で動揺したかもしれない。レース後に新山響平は「自分と先輩達の意思疎通が出来ていなかった。あの早い時点での番手勝負は想定外」と言葉を残している。

　新田祐大の公式コメントは「誰かが来る心の準備はしていたけど…」。ただ、競りになった選手は、こう油断とか心のスキを見せる訳にはいかないから、こうコメントするのが定番だし、真相は分からない。一つ言えるのは、1角からの番手捲りでは距離が長いし、2角スパートが基本の作戦だったと思う。北日本の選手が口を揃えて言っていたのは、「松浦悠士に全部、乱された…」。守澤太志も、慎太郎先生の前を回っている以上、自分の着を犠牲にして追い上げに行き、形作りに行かざるを得なかった。

　平原康多は「郡司にスタートで負けてプランが狂ったけど、北の後ろを取れれば、勝負どころで分断に行った」。やはり、このクラスの選手達は簡単に2段駆けはやらせないと言う気構えを持っている。今年後半のワッキーが極度の腰痛から調子を落としていたし、ワッキーより北作戦に恐怖を感じていたのかもしれない。松浦悠士が「二日目が終わってからの指定練習での脇本さんが凄かった」と話したが、レース直後なので、この辺りも、後々、掘り下げて聞いてみたい。

　優勝したのはワッキーだが、このレースを盛り上げたMVPは松浦悠士だと個人的に思っている。あの走りは賛否両論分かれるし、SNSでも、レース本番以上に盛り上がっていた。松浦悠士が本人のTwitterで「ファンの方に予想してもらえるように、コメントしているつもりです。作戦を分かるようにコメントすることは、はっきりいって、自分には何のプラスもありません。その辺り、ご理解いただきたいです」。

　普段の松浦悠士を知っている身としては、自分の状態、相手への評価、味方の先行選手の掛かり具合、作戦と、競輪界で一番、本音ベースで話してくれます。もちろん北日本の2段駆けを買っていたファンは怒りがある気持ちも、誰よりも車券を買い、誰よりも多くのお金を失っているので分かります。“そんなの言っていないじゃないか”となり、コメントに縛りを入れると、逆にあいまいなコメントばかりになります。自力と言って展開で粘ったり、先行と言って相手もいるから捲りになったりするのが競輪です。

　これでファンからの批判を避ける為に「自分でやる」、「流れで何かやる」、「臨機応変」とか、訳の分からないコメントが増えて来ました。これはコロナ禍で仕方ない事ですが、ビッグレースは共同記者会見やリモート会見が主体になってきました。もし、これがコロナ禍でなければ、松浦悠士と話した有能な記者達がニュアンスを感じて、紙面やネットで、もっと詳しい本意を原稿にしたと思います。これは記者同士の愚痴になっていますが、僕らは並びだけ分かれば良いと言う存在になっています。あとは YouTuber やタレントが予想して行けば良いと言う流れです。

　最後に、今年も1年、拙い文章ですが、ご愛読ありがとうございました。グランプリが終わった直後だけは、競輪界は安泰だし、あと20年は大丈夫だと感じてしまいます。競輪界のド真ん中にいる事は無理ですが、隅っこの方で、毒のある文章を書いて行きたいと考えております。 皆様も、良き1年を！