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山田裕仁のスゴいレース回顧

【中野カップレース 回顧】“らしさ”が出た北津留翼 開催を盛り上げた郡司浩平

2022/06/29 (水) 18:00 14

現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが久留米競輪場で開催されたGIII「第28回中野カップレース」を振り返ります。

久留米競輪場で開催された中野カップレースは北津留翼の優勝に終わった(撮影:島尻譲)

2022年6月28日(火) 久留米12R 開設73周年記念 第28回中野カップレース(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①北津留翼(90期=福岡・37歳)
②郡司浩平(99期=神奈川・31歳)
③成田和也(88期=福島・43歳)
④竹内雄作(99期=岐阜・34歳)
⑤阿部将大(117期=大分・26歳)
⑥岡本総(105期=愛知・34歳)
⑦伊藤颯馬(115期=沖縄・23歳)
⑧伊藤旭(117期=熊本・22歳)
⑨渡邉一成(88期=福島・38歳)

【初手・並び】

←④⑥(中部)⑤⑦①⑧(九州)②(単騎)⑨③(北日本)

【結果】

1着 ①北津留翼
2着 ②郡司浩平
3着 ⑦伊藤颯馬

シリーズの“主役”だった北津留翼

 6月28日に久留米競輪場で、中野カップレース(GIII)の決勝戦が行われました。6月とは思えない猛暑日が続いており、決勝戦当日の久留米も気温は33度という高さ。関東地方よりはまだマシとはいえ、この暑さのなかで走る選手たちは本当に大変ですよ。レースはまだいいんですが、問題となってくるのが練習。炎天下での長時間の街道練習なんて、逆に調子を崩してしまいますからね。

 この「猛暑」といかにうまく付き合って調子を維持していくかも問われてきそうな、今年の夏の競輪シーン。このシリーズにはS級S班から、郡司浩平選手(99期=神奈川・31歳)と清水裕友選手(105期=山口・27歳)が出場していました。しかし残念ながら、清水選手は準決勝で、ブロックされた選手のアオリを受けて8着に敗退。そのほかの有力選手も苦戦しており、初日特選に出場した選手は3名しか決勝戦に残りませんでした。

北津留翼
北津留翼(撮影:島尻譲)

 若手選手がいい走りをしていた印象が強いですが、このシリーズの“主役”は、なんといっても北津留翼(90期=福岡・37歳)でしょう。地元福岡の記念開催に合わせて身体をつくってきたのか、連日10秒台の上がりをマークする素晴らしいデキ。勝ちパターンを崩されると脆い面はありますが、それでも押し切ってしまえるほどの調子のよさを感じました。決勝戦でも、好勝負になって当然ですよ。

 地元・九州勢が4名も決勝戦に勝ち上がり、1つのラインで結束したというのも、北津留選手にとっての追い風。先頭を買って出たのは阿部将大選手(117期=大分・26歳)で、準決勝では伊藤旭選手(117期=熊本・22歳)に差されましたが、その積極的な走りは高く評価できます。番手を回るのは伊藤颯馬選手(115期=沖縄・23歳)で、こちらもタテ脚はかなりのもの。3番手が北津留選手で、4番手を伊藤旭選手が固めます。

 機動力のある選手4名がラインを組むのですから、二段駆けや三段駆けがあって当然。これを相手に戦うとなると、ほかのラインは「九州ラインの分断」や「共倒れ覚悟のもがき合い」を考えねばなりませんが…そんな“悪役”をやれる選手が見当たらないんですよね(笑)。九州ラインを捌くような競輪を仕掛けてくるとすれば、単騎での勝負となった郡司選手くらいのもの。それでも、そう強引なレースはしてこないですよ。

郡司浩平
郡司浩平(撮影:島尻譲)

 2名が勝ち上がった中部勢は、竹内雄作選手(99期=岐阜・34歳)が前で、番手に岡本総選手(105期=愛知・34歳)という組み合わせ。同じく2車ラインとなった北日本は、渡邉一成選手(88期=福島・38歳)が先頭で、成田和也選手(88期=福島・43歳)が番手となりました。どちらのラインも、強力な九州勢に対してどのような戦いを仕掛けていくか、ここは非常に難しいところです。

九州勢のペースでレースは進む

 では、決勝戦の回顧に入っていきましょう。スタートを取りにいったのは意外にも岡本選手で、ここは中部ラインが前受けを選択。その直後の3番手に、九州ライン先頭の阿部選手がつけます。単騎の郡司選手は7番手で、最後方8番手に北日本ライン先頭の渡邉選手という、初手の並びとなりました。

初手
(撮影:島尻譲)

 最初に動いたのは最後方の渡邊選手で、青板(残り3周)周回のバック手前からゆっくりと進出を開始。しかし、少しずつポジションを上げていく程度で、どこかを抑えにいくような明確な意図は見えません。この動きをみた中団の阿部選手は、進路を外にとって、いつでも前へと踏める態勢に。各ラインが併走して「動きそうで動かない」状態のまま、レースは赤板(残り2周)を迎えます。

 先頭誘導員が離れたところで、九州ライン先頭の阿部選手が先頭の竹内選手を斬って先頭に。単騎の郡司選手も、これに連動して上がっていきます。竹内選手はとくに抵抗せず、郡司選手までを前に入れて6番手に。渡邊選手は結局、初手から変わらず後方8番手のままで、赤板周回の2コーナーを通過しました。九州ラインは、竹内選手が早めに仕掛けて、前がもつれる展開を待つカタチですね。

赤板2Ce
(撮影:島尻譲)

 そのまま隊列は変わらず、一列棒状でレースは打鐘を迎えます。労せずに主導権を奪えた阿部選手は、打鐘と同時に前へと踏み込んでスパートを開始。ここで動いたのが郡司選手で、九州ライン4番手の伊藤旭選手が2センター手前で外に膨らんだところでスッと内に入り、抵抗する伊藤旭選手を4コーナーでうまく捌いて、北津留選手の後ろのポジションを取りきります。

 しかし、伊藤旭選手は諦めることなく、挽回を狙って1センター過ぎからポジションを上げて、郡司選手の位置を取り返しにいきます。中団にいた竹内選手も、この動きに追随。さらに、後方の渡邊選手も前との差を詰めにかかります。前では、逃げていた阿部選手の脚色が鈍ったのをみて、番手の伊藤颯馬選手が早々と番手捲り。最終2コーナー過ぎで、九州ロケットの「二段目」が点火します。

最終2Ce
(撮影:島尻譲)

 この番手捲りに仕掛けを合わされるカタチとなった後方勢は、必死に前を追うも、なかなか差が詰まりません。竹内選手の捲りは不発に終わり、早々と勝負圏内から脱落。竹内選手マークの岡本選手は自力に切り替えて、インで勝機をうかがいます。外からは渡邊選手がいい脚で伸びてきますが、3コーナー手前で郡司選手や伊藤旭選手の外に並びかけたところで一杯に。レースはここまで、完全に九州勢のペースです。

(撮影:島尻譲)

 それに「待った!」をかけたのが郡司選手。勝負どころで前との差を一気に詰めて、外に出して前を差す態勢に入った北津留選手のインに潜り込むと、直線ではそのまま内を突いて九州ラインを強襲。番手捲りからの押し切りをはかる伊藤颯馬選手と、その番手から差す北津留選手の間に入っての直線勝負となりました。

 ゴール手前では伊藤颯馬選手に郡司選手と北津留選手が横並びとなり、その後は郡司選手が少し前に出た瞬間もありましたが、最後の伸びで競り勝ったのは北津留選手。じつに5年ぶりとなる通算6回目の記念優勝を、地元で見事に決めてみせました。僅差の2着に郡司選手で、3着に伊藤颯馬選手。岡本選手が大きく離れての4着と、ここは九州勢が終始リードしたレースとなりましたね。

ゴール
(撮影:島尻譲)

らしさが出た北津留翼 開催を盛り上げた郡司浩平

 本来は1番車の北津留選手がスタートを取って、前受けから何がきても突っ張る予定だったとのこと。そういった「想定外」がありながらも、結果的には阿部選手が楽に主導権を奪い、番手から早々と捲った伊藤颯馬選手もいいスピードをみせてくれたことで、うまくバトンが繋がりましたね。最後かなりヒヤッとした、まるで薄氷を踏むような勝利ではありましたが、それも含めて北津留選手“らしい”ですよ。

北津留翼
中野浩一(左)と北津留翼

 S級S班らしい巧みな走りで、単騎ながら僅差の2着まで詰め寄った郡司選手もお見事。最後は悔しい結果となりましたが、攻めるべきところでキッチリ攻めて、レースをおおいに盛り上げてくれました。初日特選から無傷の3連勝で決勝進出と、デキもかなりよかった印象です。玉野競輪場でのサマーナイトフェスティバル(GII)まで、この調子のよさをいかに維持するかが課題となりそうですね。

 意外だった中部ラインの前受けは、「下手すると何もできずに終わる」のを避けたいという気持ちからでしょう。結果的に中団からの勝負で最終バックから捲りにいきましたが、正攻法で強力な九州ラインと戦うには、ちょっと力不足でしたね。もともと選択肢の少ないレースだったので、致し方のない面があります。

 終始後方で存在感を発揮できずに終わった北日本ラインも、同様に選択肢の少ないレースでした。共倒れ覚悟で竹内選手が九州ラインと主導権争いでもがき合う…といった展開を期待していたのでしょうが、他力本願でそれが叶わなかった以上、勝負にはなりません。地元の九州ラインを分断して北津留選手のポジションを奪いにいくというのも、記念ではやはり難しい。いまの競輪で“悪役”には、誰もなりたくないですからね。

成田か渡邉一成
渡邉一成(撮影:島尻譲)

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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