2022/05/27 (金) 12:00 19
5月28、29日に佐世保競輪場で「全日本プロ選手権記念競輪(FII)」が開催される。“本体”、といっていい「全日本プロ選手権自転車競技大会」の方は30日に実施予定だったが、こちらは中止となっている…。佐世保での全プロ競技大会は49年ぶりの開催…となるはずだったがやむを得ない。
全プロ記念の方は「スーパープロピストレーサー賞」という賞を巡った争いになる。権利があるのは初日の優秀3個レースに選ばれた選手のみ。3着までに入ると「スーパープロピストレーサー賞」に勝ち上がるのだが、メンバー、選考基準の様相から、GI決勝クラスの戦いになる。
一昨年豊橋、昨年広島と連覇している松浦悠士(31歳・広島=98期)が3連覇を果たすのかに注目が集まる。豊橋大会ではその3ヶ月前の全日本選抜競輪決勝で松浦が前を回り、清水裕友(27歳・山口=105期)が全日本選抜競輪でGI初制覇、その後の物語があった。広島は地元戦。4番手外並走からのまくりを、執念で決めた。
全プロ記念の思い出で、豊橋の「スーパープロピストレーサー賞」の前の時間がある。関東勢が平原康多(39歳・埼玉=87期)と諸橋愛(44歳・新潟=79期)、木暮安由(37歳・群馬=92期)と3人乗った。
当時、諸橋と木暮は同じラインを組まなかった。
2人の考え方の違いもあり、木暮が弥彦記念で諸橋にジカ競りをぶち込んだこともあった。だが当時、平原としては「他のラインが結束している中、関東も結束しないと」の思いがあり2人にその話をしたようだ。
決めるのはもちろん、当該の2人。検車場にいて、緊迫感が徐々に高まっていったのを覚えている。木暮が諸橋のもとへ行き、長く話していた。当然、近寄ることなど許されない。
ただ、遠めに見ていて「遅いよ! 」という諸橋の声が聞こえた。背筋に汗が、流れた…。
諸橋は地元で、それも晴れ舞台の記念で競られた身。相当な思いがある。木暮が「関東で並びたい」と話した時に、どんな思いが胸中を巡ったか…。想像を絶する。
関東ラインの中で新潟は、はっきりいって恵まれていない。普段から位置があるわけでもなく、何か自分でしないといけない。諸橋はずっと戦ってきた。木暮もすべてランダムスタイルで暴れてきた。どこかでぶつかる…。
その「スーパープロピストレーサー賞」では諸橋がアクシデントもあり落車したため、連係はうまくいかなかった。決定的な成就とはいかなかったので、胸が苦しくなったもの。今ではコロナ禍において、そうしたシーンを取材することもできない。
徐々に収まってきているので、新聞記者のあり方、価値を取り戻していければと思う。画一的な情報で統一され、異様な状況に追い込まれている中、何が大切なのか、ファンに届けるべきものを見失ってはいけない…と訴えたい。
そもそも競技大会は、かつてはその結果において世界選手権への出場など、道が開かれるものがあった。現在は「寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI)」への選考には影響するが、競輪選手が自転車競技で輝く姿の根底は揺らいでいる。
車券発売を伴う全プロ記念が後付けで、競技大会が本体。各団体に諸規定があるので、中止の判断はそういったものに従う。だが、東京五輪が終わった後、競輪界の中の自転車競技への注力は薄れている。
“ナショナル所属の選手と競輪選手”という見えない壁を東京五輪代表として戦った新田祐大(35歳・福島)、脇本雄太(33歳・福井=94期)、小林優香(28歳・福岡=106期)、橋本英也(28歳・岐阜=113期)が打ち壊したと思ったが、さかのぼってはいないか。パリの灯は、本当に輝いているか…。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。