2022/05/19 (木) 18:00 33
みなさんごきげんよう、佐藤慎太郎です。前回は開催前〜開催4日目の振り返りを書いたが、今回は5日目と最終日について綴っていこうと思う。
選手によって感じ方はそれぞれ違うと思うけど、準決勝は一番気持ちがピリつくという選手も多い。当り前だけどシリーズを勝ち上がってきた強いメンバー同士がぶつかり合って決勝への切符を争うわけで、準決勝の文字通り、決勝前の勝ち上がり戦において最高難度になる。
その準決勝、しかも地元GIの大舞台。普通だったらかなりプレッシャーを感じるシチュエーションだと思う。だが今回は気持ちが“ラク”だった。それは平原康多という輪界最高峰の自力選手と連係できたからに他ならない。
何度も連係しているし、信頼関係も完熟している(とオレは思ってる)。北日本地区の自力選手に感じる信頼度合いと同じレベルの絆を作ってきたと思っているし、とにかく“任せられる男”なんだよね。
全幅の信頼を寄せられるので、余計なことは考えず自分の仕事に集中できる。「すべて平原に任せる」と思い切ることで、緊張とかプレッシャーはないに等しくなったな。地元の準決勝を走る追い込み選手の気持ちをラクにさせる『自力屋の信頼感』。平原はやっぱりすげえんだよなって改めて認識した。そして無事決勝への切符を手に入れて、安堵した。
そういうわけで、オレはさまざまなドラマを感じながら決勝へと駒を進めた。今書いていても「ドラマチックなことが目白押しの開催だったな〜」と振り返ってんだけど、決勝もとてつもないドラマに参加させてもらった。連係した眞杉匠のストーリーなしで、この決勝は語れん。オレも地元でとてつもないドラマに立ち入ったもんだよ。
眞杉と日本選手権と言えば、去年のエピソードがある。去年、眞杉は自分のスタイルである“先行”が叶わず、悔しい一戦になったと思う。そこから一年努力を重ね続けて、再びダービーの決勝に戻ってきたわけだ。
「ダービー決勝で感じた悔しさをダービー決勝で返す」ってことは想いだけでは達成できない。そもそも最高難度の勝ち上がりを突破しなくちゃならないんだから。自分の力でリベンジの場を手繰り寄せるなんて、同じ選手としてリスペクトを向けざるを得ない。そんな選手とラインを組むわけだから、オレもそのドラマに一枚噛んでいるような感覚だった。これからの競輪界を引っ張っていく眞杉のドラマに出演できたような。
決勝の眞杉の走りは気持ちをそのまま表現するような熱いものだった。ジャンをめがけて「絶対出させない」という攻めの気持ちが全面に出ていたし、気持ちだけではなくスピードも加速性も凄まじかった。後ろを走っていて「このカカリなら易々と脇本も来れないだろう」と感じた。眞杉は1年前にできなかったことを、1年越しに達成したね。
最終バックに差し掛かる頃、オレにも役割が回ってきた。まず、勝負に出た裕友の勢いを止める必要があった。外から脇本が来ていたので大きくアクションを取ることはできなかったが、肩を入れることで裕友の勢いを殺す。脇本の位置まで仕事をしにいくのは、オレと脇本の間に裕友がいるから不可能と判断し、あとは平原に託すような展開になった。
この局面ではレースや各選手の位置が冷静に見えていて、小さなアクションで裕友に対応できたことや脇本の位置とスピードを把握できたことに自身の経験というか成長を感じた。「地元だから!」と意気込んで空回りしたり、無理な状況判断をしたりもなかった。
最終直線に入る頃に「古性の勢いを止めてから前に踏むか、否か」の二択はあったが、古性の勢いを止める必要あり、と判断した。やるべきことをやり、最終直線へ向かった。レース後にその選択が間違っていなかったかどうか映像で振り返ったが、過去の経験を頼りに判断すればベストだったように思う。どの選択を取っても脇本の優勝は揺るぎなかった。
自分の役割を疎かにせず、最後まで優勝争いできたことはよかった。結果だけを見れば悔し過ぎる2着だったが、それだけではない安堵感のようなものも自然と出てくるようなゴール線上だった。
でもやっぱり悔しいけどね(笑)。今回は素晴らしい物語が沢山あったから、悔しい気持ちにフォーカスしたくないだけ。地元GI優勝というドラマをどうしても完結させたかった。本当にデカい声援をもらっていたしね。お客さんに「1着」の姿を見せたかった。そしてもうひとつ、最後に守澤のことを書こうと思う。
シリーズを通してオレはいろいろなドラマの中にいたが、決勝の最終直線でもひとつモチベーションの上がる物語をもらった。全面的に信頼している守澤太志とのバトルだ。
決勝前日、オレは守澤太志に気持ちを伝えた。内容としては「準決勝で世話になった平原の後ろに行く」ということ。3番手を固めるならオレから“先に”意思表示するべき流れだし、現状その権利があるのはオレだと思って。守澤も守澤で自由であり4番手を固めてくれだなんて思わない。
競輪選手はどんな時でも自分が1着に近いと思う後悔ない判断をするべき。守澤は「眞杉の後ろから勝ち上がっているし、慎太郎さんの後ろに行く手もある。でも少し時間をもらいたい。ダービーの決勝ということを踏まえ、コメント出します」とのことだった。守澤は最終的には「自分でやる」と単騎戦を選択した。それもアリだよね、と思った。
そして最終直線。守澤が絶妙なタイミングで勝負に出てきて、オレにヘッドパンチを食らわせてきた。この時オレの脳内は守澤と対話しているような感じになっていた。「そう!ココだよ守澤!お前は天才か。1番効くタイミングをわかってるじゃねぇか!」みたいなことを考えていた。
オレの中にも北日本地区の先輩追い込み選手として後輩に負けるわけにはいかない意地があるんだろう。無意識的に体が守澤の動きに応戦していた。肩肘を入れて、ぶつかり合って、何も考えずに対応できていた。本当に脳内で対話して体が勝手に動いている感じ。地元戦の気合いとこれまでの経験、意地の密度が濃すぎて、不思議な感覚をもたらしたんだろうね。
もともと守澤の競輪センスの良さや強さは知っているんだけど、改めてそれを感じた。最高の後輩とプロ同士の勝負ができたように思う。競輪を愛してくれているファンのみなさんにも「同じ北日本の選手同士でも最終コーナーを回ったらガチンコ勝負」というのをしっかりと見てもらえたと思うし、その面でもよかった。
レース後、守澤と最終直線の攻防を振り返って笑い合った。これからも守澤と切磋琢磨していきたい。「慎太郎さん、いつまでもそこにいられると思わないでくださいよ?」という秘めた闘争心が、守澤の繰り出したヘッドパンチに込められていると思うし、その挑戦状はもちろん受け取る。今回は後輩に負けなかった、次も負けたくはない。それだけ。
かくして、オレの地元GIはさまざまなドラマがあり、とにかく“濃い”開催になった。去年、いわき平で開かれたオールスターは無観客開催だったが、このダービーは現地にお客さんがたくさん来てくれて、マスクはしてるんだけど楽しんでくれている表情だったり、そういう声援だったりが感じられて、とにかく嬉しかった。
「慎太郎、慎太郎」って声をかけてくれた人達に感謝しなくてはならない。現場では「何着になっても一時の悔しさは置いておいて、お客さんとコミュニケーションを取りに行きたい、手を振りにいきたい」という気持ちにさせられるような応援をもらっていました。応援アザした!
よくネットの書き込みに頭にきているオレだけど、やっぱ場内の温かさに触れる時は「腹立ててる場合じゃねーんだよな(笑)」ってしみじみ思うんだよね。
オレと裕友、オレと平原、去年の眞杉。時間の流れの中で続いているドラマを知っている競輪ファンの多いこと多いこと。そういう声を届けてもらったから、本当に深いところまで競輪を知ってくれている人がいるのだな、面白がってくれてる人がいるのだな、と感動しました。それに最近では新しい競輪ファンが増えてきていることも感じてる。
まだまだ高いレベルの場所でレースがしたい。『限界は気のせい』これを証明するべく、日々トレーニングに打ち込み、最強を目指していくだけです。ガハハ!
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佐藤慎太郎
Shintaro Sato
福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界の第一線で活躍し続けている。2019年、立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現で常にファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。麻雀とラーメンをこよなく愛する筋肉界隈のナイスミドルであり、本人の決め台詞「限界?気のせいだよ!」の言葉の意味そのままに自身の志した競輪道を突き進む。