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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【滝沢和典×佐藤慎太郎】余計なことは考えず『無敵』になりたいだけ、これがオレたちの生きる道/勝負の世界の“ガチバナシ”【第3回・完結編】

2022/04/30 (土) 19:00 11

滝沢和典プロ(日本プロ麻雀連盟・KONAMI麻雀格闘倶楽部)と佐藤慎太郎選手の特別“リアル”対談は今回で完結編。「勝負の世界」がテーマのこの対談、二人の話は“時代”や“未来”の方角へ移行していく。「変化する戦略トレンド」や「他選手への意識」、「ファンへの想い」や「5年後にどうなっていたいか」など、縦横無尽にトークが展開。完結編となる本稿では、今二人が目指しているものが明かされる。

話は佳境に入っていく

■変わる時代、勝負の世界にもトレンドがある

ーー変わる時代、変わる対戦相手、変わる戦略のトレンドについてどう向き合っていますか? 流れに柔軟に対応しているのか、自分の軸をブラさないのか? 勝負の世界で20年以上、今も戦い続けるお二人のスタンスを教えてください。

佐藤慎太郎(以下、慎太郎) 時代は変わるね。

滝沢和典(以下、滝沢) 変わりますね。そして廻っていく。繰り返しています。

慎太郎 滝沢プロもそう感じてるんだ。麻雀はどう?

滝沢 麻雀は完全に偏る感じですね。「スピード重視」と「打点重視」とで。少し前の時代を思えば、「スピード重視」の時代。早いリーチ、早い仕掛け、いかに相手にオリてもらうかを目指すスタイルがトレンドでした。でも最近はやや「打点重視」でしょうか。トレンドは繰り返し回るので、次は「スピード重視」の面白い人が出てくる予感がします。でもMリーグに限って言えば、バランス良く得意戦法を持っている人が多く、「スピード重視」も「打点重視」も混ざっている感じです。どちらが優れている、とかもなく均等に成績もバラついています。

慎太郎 滝沢プロは打点重視でしょうね。

滝沢 好みは、ですね。自分の芯はそこにありますし。でも変わる時代に反応できないといけないとは思ってます。自分の軸をブレないように矯正して固いものにしなくてはいけないし、状況を見て判断し対応せねばと考えています。

慎太郎 なるほど。Mリーグのセミファイナルでは打点の低い麻雀で、珍しいと思った。

滝沢 あれは心臓に悪かったですね。自分のスタイルとは離れた打ち方なので、終わってから「こういうのはあんまりやりたくない、こええ〜」と思いましたね(笑)。競輪も時代によってトレンドがあるし、慎太郎さんはどう向き合っていますか?

慎太郎 競輪の場合は明らかにスピードが上がってる。自分のできることを最大限やって対応するしかないと考えてるかな。でも昔の競輪と比べると、少しだけ要素が抜け落ちた部分がある。具体的に番手の仕事で言うと“目で止める”がなくなったなあ。スピードが遅い時代は駆け引きも今よりあってね。後ろを振り返って“来たら止めるからな”って目で伝えられたわけ。そういうのはイチ競輪ファンとしても好きだったね。

滝沢 より自転車競技的になりましたよね。

慎太郎 そうだね。上半身を反転させて“来たら止めるぞ”と後ろを振り返ろうもんなら、スピードを持った若手の選手たちがビュンビュン前に出て行っちまう(笑)。でも、そういう今の競輪に対応する気は満々で。“目で止める”がなくなった分だけ、気配を察知してブロックに行くという技術を磨いていくつもり。

滝沢 湘南ダービーで犬伏湧也選手を止めたシーンが印象に残ってます。あれはかっこよかったです。ザ・競輪という完璧なシーンでした。競輪ファンはかなり興奮したと思いますよ。

慎太郎 滝沢プロは本当にしっかりと要所を見てくれてる。あのレースはうまくオレの持ち味を出せた。オレなんてできることが限られてる人間だから、それを磨き続けるしかないという感じ。柔軟に対応なんて涼しい話ではなく、命懸けでやるだけ。今までの選手生活もそうだったしね。

湘南ダービーを振り返る滝沢プロ

ーー20年のキャリアの中で、自分よりも後に出てきた才能ある選手に嫉妬心を向けたり、ライバル心を向けたりはありましたか? 同型の選手へ向ける意識なども気になります。

慎太郎 嫉妬心もライバル心もない。オレはすべて自分方向に意識が向いてる感じなんだよね。他人どうこうじゃない。でも自分と同じ追い込み選手でうまく走っている選手を見ると、オレも頑張らなくちゃという気持ちにはさせられる。滝沢プロはまったく動じなさそうだな(笑)。

滝沢 はい。嫉妬心、ライバル心ともにありません。でも新しい人が出てくると、自分の知らない新しい術をたくさん知ってそうだなって見てるかもしれないですね。自分が知らないことがあったら盗みたいなって。

慎太郎 競輪界のレジェンド神山雄一郎さんも同じ感覚を持っていると思います。新しい発見を探していく姿勢がストイック。検車場でも気さくに色々な選手と話しているし、自転車のことになると若手もベテランも級班も関係なく、情報収集してるんだよね。

新しい発見があるなら盗みたい、嫉妬心なんて無駄と断言

■勝負の世界からの幕引きを考えたこと、ファンへ向けている想い

ーーこれまでのキャリアの中で勝負の舞台から降りること、引退を考えたことがありますか?

慎太郎 具体的に考えたことはないかな。でもオレも45だし、引き際について想像することもちょこちょこ出てきた。自転車が好きで競輪選手になったわけだし、「弱くなってもチャレンジで頑張るだろうな」とか「GI戦線で戦えなくなった時にやめたくなるのかな」とか、ふいにイメージしてみる。一度大怪我をしたときに「終わり」というか、覚悟したことはある。「怪我を治して選手に戻れたとしても理想とする“一流”にはなれないまま終わるんだろうな」って。それが一番“勝負の舞台から降りる”に近い気持ちだったように思う。何とか選手を続けられるという感じにしかならないんだろう、と受け止めるほかないんだろうなって。

滝沢 僕は低迷していたスランプ時期に具体的に引退をイメージしました。今は過去一番と言っても差し支えないくらいコンディションがいいので、やっと乗り越えられたと思いますけど。今は目の前のことに一生懸命取り組む気持ちしかありません。

慎太郎 目の前のことに全力を出す、これが一番シンプルで簡単。さっきの嫉妬心やライバル心の話でも思ったんだけど、この手の感情は“余計なこと”であり、雑念。だから目の前のことに全身全霊で挑むだけ。自分以外のことなんてコントロールしようがねーもんな。

滝沢 共感します。結局、勝負の世界で生きていくなら余計なことを考える暇はないってことですよね。

目の前のことに全身全霊で集中していれば雑念が湧くスペースもないと結論

ーーお二人のファンのみなさんはさらなる活躍をまだまだ期待していると思います。

慎太郎 ありがたいよね。期待して声をかけてくれるファン、応援してくれるファンがどれだけ嬉しいか。全国300万人の慎太郎ファンすべてに感謝です。

滝沢 僕も本当に感謝してます。

慎太郎 滝沢プロにとってファンはどんな存在?

滝沢 麻雀は見てくれる人がいなければ成立しません。“何よりも一番大事にすべき人達”です。

慎太郎 同じだなあ。オレも“中心にすべき存在”だと思ってる。競輪選手としての言葉ではなく、個人的な言葉で表現すれば“力をくれる存在”。ファンの人達がいなかったらこんなにトレーニング頑張れてないよ。それは絶対。

滝沢 僕の勝った麻雀を見て本気で喜んでくれる人がいて、負ければ本気で悔しがってくれる人がいるんですよね。泣きながら観戦してくれた人もいました。最近そういう人に出会って、改めてありがたさを感じたところでした。

慎太郎 オレもいつも泣きながら観てるよMリーグは。

滝沢 それは信じられないです(笑)。

慎太郎 ガハハ!

滝沢 慎太郎さんのファンのみなさんって面白い人が多い印象があるんですけど、強烈に印象に残っている方とかいますか?

慎太郎 (腕組みで長考して)結構思い浮かぶもんだね(笑)。競輪場でもSNSでもユニークに交流してくれるから嬉しい人ばかり。ひとり今エピソードを話すとしたら通称『三本ローラーの詩』の人かな。本当に面白い人でさ。『三本ローラーの詩』というのはオレの師匠、添田広福さんが作詞作曲した歌なんだけど。

滝沢 『三本ローラーの詩』わかります。慎太郎さん玉野記念の勝利者インタビューで歌ってませんでしたか? それと関係がありそう(笑)。

慎太郎 大アリも大アリですよ(笑)。何の脈絡もなく歌い出さないって(笑)。

滝沢 通称『三本ローラーの詩』の人が気になります。

慎太郎 競輪場に『三本ローラーの詩』を歌うオジサンがいるんだよね。今にはじまった話じゃない。去年、岸和田の高宮記念杯でオレとザキ(山崎芳仁)の連係があって。レース前に「添田一門に気合い入れたるわ!!」って突然大声で歌い始めたわけ(笑)。「YouTube見て徹夜で勉強してきたぞー!」とか言いながらね(笑)。オレもザキも不意打ちの『三本ローラーの詩』だったから、レース前に笑っちゃってさ。レース終わってザキがオレのとこに走ってきて「先輩! さすがに笑っちゃいましたよ!」って吹き出しててさ(笑)

滝沢 (笑)。YouTubeで聴けますもんね『三本ローラーの詩』。

慎太郎 はい。カセットテープでも可です。その人は和歌山でも歌ってくれたし、今回の玉野でも。それで玉野ではオレも一緒に歌っちゃったって流れですね(笑)。あの人のインパクトは強い!

慎太郎さんの『三本ローラーの詩』を歌う姿はリアルタイムで観てたと笑う滝沢プロ

■「5年後」、今どんな未来を思い描いているのか

ーーきっとこの記事もファンのみなさんが楽しく読んでくれると思います。この機会に『5年後、どうなっていたいか』を聞きたいのですが、お二人の夢や目標を教えてもらえますか?

慎太郎 5年後って、オレは50になる。現実的な目標とするにはデカ過ぎるから、夢とか理想の類の話になるんだけど。『50でS級S班』というのは真剣に目指していこうと考えている。少し無謀な話かもしれない。でも現時点でどうなっていたいかと問われれば、ここしかない。

5年後は「50でS班にいたい」

滝沢 麻雀って色々な切り口で実力を図ることができるので評価すること自体難しいんですが、『どう見ても滝沢が1番強い』という評価を得たいです。5年後あたりは雀士にとって知識や経験が熟成してきて“良い時期”とされる「脂の乗った歳」に差し掛かります。そのタイミングでナンバーワンになりたいです。

慎太郎 滝沢プロはすでにそういう印象を持たれていると思う。でももっと揺るぎないものを目指すということでしょう。楽しみにしてます。

滝沢 絶対的な存在を目指したいですね。今の僕はその位置にいません。

5年後は「絶対的ナンバーワンに上り詰めたい」

慎太郎 最終的にその目標に立ちふさがる人がいるとしたら誰なのか。

滝沢 立ちふさがる強い人は周囲にたくさんいます。でもひとり明白な人で挙げるなら、やっぱり佐々木寿人プロ!

慎太郎 やっぱり寿人師匠ですか。『どう見ても滝沢が1番強いという評価を得たい』これを聞けてイイ感じに締まったね。今回の対談はすごく面白かった。滝沢プロの見ている世界を聞くことで、競輪ももっと強くなれるような気になってるよ。

滝沢 僕も競輪と麻雀の共通点が多々あって、この企画は面白かったです。でも慎太郎さん、締めは日本選手権への意気込みで。

ーー慎太郎さん、地元いわき平で開かれる日本選手権競輪への意気込みをお願いします。

慎太郎 サンキュー、オーケー。地元開催だから、めちゃくちゃ気合いが入ってる。今までもGIに出るたびに「応援してくれる人たちにGIで勝つ姿を見せたい」って言ってきてる。そのために毎日厳しい練習やトレーニングをやってるので。今回は心身のコンディションも申し分なく、平塚でも手応えを感じた。今オレは戦える。ふるさとダービーも湘南ダービーも獲ってるわけだから、今回オレは地元いわき平でダービー男になろうと思う。滝沢プロもファイナル頑張って!(※対談実施日はMリーグファイナルシリーズより前)

滝沢 ありがとうございます。ファイナルも頑張ります。競輪らしく言えば“自力自在”です。なんでもやる。スタートダッシュができたとしても一切の油断はできないし喜ばない。その逆もしかりで、スタートや道中で躓いても悔しがらないし反省もしません。応援してくれるファンのみなさんとチームのみんなに、自分のブレない麻雀を見てもらいます。最後の一打まで。

慎太郎 最高だね! 滝沢プロの活躍を心から願っています!

ーーさいごにもうひとつだけ。生まれ変わったら、同じように勝負の世界で生きる道を選びますか?

慎&滝 選びます。

慎太郎 ファンタジーな話するんだったら、今の知識と経験を持って小学生に戻りたい。

滝沢 「無敵」ですね(笑)。僕もそれがいい。

慎太郎 オレたちは結局「無敵」になりたい、それだけなんですよ。

慎&滝 ガハハ!

勝負の世界で生きる漢たちの最終結論「無敵になりたい」

 対談終了後、「勝負の世界のガチバナシ」を終えた二人は一気に“なかよし”モードに。帰り支度を進めながらも、まったく笑い話が止まらない。最後、別れ際には姿勢を正し、お互いの“これから”の健闘を誓い合っていた。滝沢和典プロ、佐藤慎太郎選手、ありがとうございました!

対談終了後、リラックスムードで笑わせ合っている二人※写真中央の青い紙パック2本はジュースではなく、慎太郎選手のプロテイン


取材・構成:篠塚久(netkeirin編集部)
撮影:Kenji Onose

【公式HP・SNSはコチラ】
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佐藤慎太郎公式ホームページ
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佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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