2022/04/29 (金) 19:00 8
前回に引き続き今回も滝沢和典プロ(日本プロ麻雀連盟・KONAMI麻雀格闘倶楽部)と佐藤慎太郎選手の特別“リアル”対談をお届けする。「勝負の世界」がテーマのこの対談、今回は「プレッシャー」や「成長」、「ルーティン」や「変化する理想の形」といった勝負師ならではのトークが炸裂。勝負の世界で生きる漢たちの“ガチバナシ”も深いところまで進んでいく。※昨日28日より3日連続コラム更新
ーーここまで「運は作れるもの」など、勝負の世界で生きるお二人ならではの話が飛び交いましたね。
佐藤慎太郎(以下、慎太郎) 麻雀と競輪の共通点がここまで多いと聞いてみたくなるんだけど、滝沢プロさ、戦っている最中に「反省」ってする?
滝沢和典(以下、滝沢) しないです。してはダメだと思います。って言いたいんですけど、なかなか(笑)
慎太郎 レースを走ってて自転車を調節し直したくなる時があって。反省点を見つけて。それまで準備してきているものがあるから、オレはそれをしないように我慢するんだけど、気持ちを抑えるのが難しくてね。麻雀プロの打ち方を見てると、その答えを知ってる気がして聞いてみたかった。
滝沢 対局中は反省もしません。悔しくもなりません。
慎太郎 そこまで…。悔しい気持ちもNGなんだ? かぁー。
滝沢 …と言い切りたいんですけど、なかなか難しいです。でも、ひと半荘終わってから悔しがる、戦いがひと区切り終わってから反省する、というのが麻雀では正解だと思ってます。それこそ、佐々木寿人プロは反省を全くしません(笑)。一切ブレない、そこは本当に強い。
慎太郎 寿人師匠、やっぱすげえな。オレなんてひっかけリーチに振り込んだら、二度とスジ切れなくなっちゃうよ(笑)。場合によっては何年も(笑)。
ーープロになろうと思ったきっかけは?
滝沢 完全に遊びの延長です。好きでやっていて、ちょっと「自分は強いのかな」って思うことがあったくらいで。
慎太郎 オレは自転車が好きだったから、かな。滝沢プロはプロになってからのギャップってある?
滝沢 仕事にすることで麻雀が楽しくなくなった、というギャップはありましたね。勝っても次の負けが不安になるし、負ければ全否定されたような気にもなるというか。麻雀が仕事になることで、どこか義務的になるような感覚もありました。純粋に楽しかった時を思い出せば“覚えたての頃”だったんだなって。でもプロになってはじめて立てる舞台があって、そこで勝った時の喜びは覚えたての頃では到底味わうことのできない大きさ。良いギャップの比重が大きいので、プロになったことは幸せなことです。
慎太郎 好きなことを仕事にできたという点でオレも幸せだと思うんだよね。
滝沢 僕もふとした時に最高ってなります(笑)
慎太郎 仕事だから厳しいこともある。でもそこを乗り越えたときの喜びの大きさがたまらないよね。滝沢プロは“スタイル”がある人だと思うんだけど、“ただ勝てばいい”で打ってるのか、観られている意識を忘れず“魅せて勝つ”のか、どちらに重きを置いてる? オレのテーマでもあるんだけど、プロだから結果を出さなくてはいけないし、オレの走りを楽しみにしてくれる人達に佐藤慎太郎スタイルを魅せて勝ちたいっていうのも同時にある。
滝沢 今はそれが中途半端なのかもしれないと自問自答することもあるんですが、現状は五分五分です。大スランプを経験した時は“魅せて勝つ”の方に寄っていた感じがあるんです。いや、“魅せる”とは違った意識かもしれない。例えば、僕は戦術本なんかも出させていただいていて、その戦術と矛盾する打ち方はできないと自分を縛ってしまったんですよね。プロの世界でそれは通じず、同じ対戦相手とやれば返し技なんかを食らうようになりました。今はやっと自由な発想で打てているような気がします。
慎太郎 それが勝負の世界で生きるプロの難しさだと思う。ただ勝てばいいわけではない、でも結果を残さなくちゃならない。ラインで走って自分の仕事もしないで勝ちだけを目指すなんてできない。でもそれだけでは勝ち切るのは難しい瞬間がある。オレは今、九分一分がかっこいいと思って取り組んでる。一分は勝ちという結果に泥臭くこだわらないといけないという感覚。先行選手と追い込み選手で考え方は違うけど、あくまでもオレのスタイルではそう。
滝沢 今スランプ時期の話をしましたけど、スタイルの話で言うと“作られたイメージ”に振り回されてしまったというのが、ダメだったなと思ってるんです。でもこれが変な話で、その時の滝沢イメージに今になって救われることもあるという。
慎太郎 うん。絶対にそれはあるよね。回り道に無駄なことってない。
滝沢 それです。無駄なことってないんですよね。その渦中にいるときは病みましたけど(苦笑)。
ーープロだからこそ常にお客さんやライバルたちから見られているのでしょうし、勝ち負けという結果にも向き合わなくてはいけない。そういう世界で感じるプレッシャーはどうなんでしょうか? その重さというか…向き合い方というか…
慎太郎 プレッシャーの話をはじめたら、オレ絶対あんな環境で麻雀できないわ! 無理! 怖すぎる!
滝沢 それは僕も競輪選手に対して思ってます(笑)。そもそもお客さんのお金が乗っているプレッシャーってやばいです。
慎太郎 でもMリーグだと…まずはチームメイトに対する気持ちとか?
滝沢 チームメイトですね。
慎太郎 だよね。すごい似ているプレッシャーを感じていると思う。自分以外の想いが乗っているという点で。
滝沢 Mリーグって優勝賞金が5,000万円で2位、3位と高額な差があります。場合によっては最終局面の一打で何千万の運命が分かれるやつになります。そういった中での一打が個人ではなく、チームに乗るというのは凄まじいですね。
慎太郎 クレイジーだね(爆笑)
滝沢 そんな一打でも佐々木プロは動じないと思いますけどね。
慎太郎 寿人師匠!
滝沢 そういうところを心から尊敬してます。プレッシャーを感じない“揺るぎない自信”を持ち合わせている。最悪何も考えてないまであるもん、あの人。
慎太郎 でもさ、自信こそプレッシャーに打ち勝つ最強武器だよね。
滝沢 はい、それに勝るものはないです。慎太郎さん、優勝したKEIRINグランプリ2019の時のプレッシャーってどんな具合なんでしょう?
慎太郎 新田のダッシュが凄くて、いくらもがいても自転車が前に進んでいかない夢は見た。でもそういう緊張やプレッシャーには打ち勝ってからレースには入れたね。「これだけトレーニングしたんだからやるだけだ!」っていう気持ちが固くなる自分を和らげた。やってきたことに自信を持つ。自信を持てるように、日々全力でやる。そんな感じですかね。
滝沢 やっぱり自分でしてきた準備だけがプレッシャーを消すんですね。
慎太郎 でも滝沢プロもそうでしょう?
滝沢 そうです。自分がやったことを信じる、と思い切れた時に緊張がスッと消えます。でもKEIRINグランプリの舞台で優勝した慎太郎さんと同列に語れるプレッシャー経験はないと思います。それはさすがにおこがましい。
慎太郎 Mリーグをずっと楽しく見てて思うけど、それはないですね。最高峰のアスリートが集っているし、完全なるスポーツ競技だと思うので。
ーー今5,000万円という賞金の話が出ましたが、慎太郎選手は昨年の日本選手権競輪で微差の3着でした。この微差3着は優勝賞金と約5,000万の差がありますが、レース後どんな感覚になるものですか?
慎&滝 (爆笑)
慎太郎 これは綺麗ごとじゃなくて、レース前やレース中、ゴール直後は賞金のことなんて頭にない。本当にゼロ。勝ち負けのみに全神経が向いている。でも家に帰った時だよ。ふと1着7,000万円とか目にしちゃうと…、ねえ?(笑)。クレイジーだよね(笑)。「1着がいいに決まってる!」って気持ちになりますよ。
ーー続いて勝負師の心がけをお聞かせください。バンクと卓上と舞台こそ違いますが、お二人が大切にしているルーティンとか、ゲン担ぎなどで気をつけていることはありますか?
慎太郎 ある?
滝沢 ないです。
慎太郎 オレもないんだよ。
滝沢 話が終わっちゃった。
慎太郎 うん。完全に終わった。
ーーそうしましたら日常生活の中での心がけでも大丈夫です。
慎太郎 黒沢咲プロの『渚のリーチ!』に出てくる「絶対に信号無視しない」みたいなことだよね? ある?
滝沢 ないです。
慎太郎 オレもないんだよ。
滝沢 ゲン担ぎって不安要素というかリスクになりません? 僕はそんな感じの理由で作りたくないんです。
慎太郎 完全にそれです。発走機についた時、「やべー!今日アレするの忘れた!」ってなりたくないだけ。
滝沢 でもルーティンとかゲン担ぎをすることで不安が消えるという人も麻雀プロにいるので人それぞれですね。
慎太郎 そうだね。競輪選手も一緒。それをすることで緊張を消して、うまく集中ゾーンに入るスイッチにしているような選手もいる。
ーーでもお二人は?
慎&滝 ないです。我々は決めたルーティンの“こなし忘れ”を怖がっています(笑)!
ーー話を変えます(笑)。勝負の世界で戦い、頂点となるタイトルも獲得しているお二人ですが、自身に成長を感じますか? 頂点に立つということは「結果」は最高点に到達していると思うのですが、そのあたりいかがでしょう?
滝沢 さきほども話したんですが、まず前提としてグランプリ覇者というタイトルと僕の獲得タイトルは同列に比べられないです。それはおこがましい。
慎太郎 (取材者とカメラマンに向かって)滝沢プロは自分の凄さがわかってないね(笑)。
滝沢 じゃあ、僕なりに成長を感じる話をしたいと思います(笑)。僕は失敗を繰り返しているんですけど、その過程で“図太く”なりました。これは年齢も影響していると思います。動じない気持ちが「打牌」にも出ていて、今まで繰り返してきた失敗が大きく減少してきています。それは間違いなく成長と言っていいと思います。タイトル獲得云々はあまり関係ないですね。慎太郎さんは?
慎太郎 今考えてたんだけど、思えばオレは自分に成長を感じていない。若い頃と何も変わってないというのが本音。自分の身体を客観的に見られるようになったという変化は感じるんだけど、成長というと違うしね。
ーーそこは相違していますね。
滝沢 そうですね。僕は経験から「前に進んでいる」と自分の中で感じることはありますからね。慎太郎さんはストイックだから成長は感じていると思っていました。
慎太郎 うん。変化は感じるけど、成長はあまり感じられないね。若い頃から今も継続している感覚が強い。勝負強くはなっているような気がする。
ーーお二人にとって“勝負強さ”とは?
滝沢 運とブレない心かな。勝負強さとは? って聞かれたことなかったかもですね。なんか不思議です。麻雀界だけじゃなくて色々な業界にいますよね。「勝負強い」という印象のある人。あれ何なんだろう。
慎太郎 勝つべきところで勝つ人が勝負強い人だと思う。「あいつが勝てるわけねえよ」って声を跳ね除けて勝つのも素晴らしいけど、そういう人はどこか「勝負強い」って言葉のトーンからは離れるイメージがある。
滝沢 なるほど。
慎太郎 オレはKEIRINグランプリを獲ったかもしれないけど、あれは勝負強さで獲得したものではない。手を振り回してたらラッキーパンチが入っちゃったみたいな感じなんだよね。でも今は勝負強さっていうものが少しわかってきていて、今年は“勝負強く”ができてる気がするんだよね。そういう部分のコンディションがとてもいい状態にある。
ーー理想や夢の大きさはデビュー当時から変わっているものでしょうか? 20年以上のキャリアの中では形にも変化が?
慎太郎 オレは確実に変わってますね。自分のためだけにやっていたものが応援してくれる人と共有できるようになって。理想や夢も大きくなったし、形も変化しているし、やっぱりファンのみなさんの存在がデカい。大怪我をして低迷して、それでも上位に戻ることができて。その過程でかけられた言葉や、興味をなくさず追ってくれたファンの存在は、自分の考えを変化させるパワーがあると思う。
滝沢 驚くほど一緒です。慎太郎さんの話そのままです。一番近いところでは家族だったり、ファンのみなさんだったり、仲間の存在から目指す場所が変わりました。特にスランプ時期に見捨てず応援してくれたファンの方には感謝しています。やめなくて済んだというのは自分の選択だけじゃないと思います。
慎太郎 滝沢プロはスランプ時、本気の本気でやめようと?
滝沢 はい。危なかったと思います。いろいろあるんですけど、佐々木プロとライバル構図があって、相手はとても強いんだけど、僕も自分の中では「強さに差がない」と思って打ってました。でもスランプ時の僕は本当に弱くて、佐々木プロはタイトルを獲得、僕はCリーグです。ライバルと思う相手に突きつけられるこの歴然たる差、苦しかったし悔しかったです。
慎太郎 ライバル関係か。比べられる辛さがある。でもそれを聞くと本当に辞めないでよかったと思う。今はそう思えるでしょう?
滝沢 はい、それはもう。
慎太郎 ちなみにスランプを脱したターニングポイントみたいなのってあるもの? 自然の流れなのかな?
滝沢 いくつか考えられるんですが、小島武夫さんの存在があります。2018年5月、小島さんが亡くなりました。その後、麻雀を打つ中で、改めて僕は小島さんから多大な影響を受けていたんだなと痛感しました。「僕がどう打つか?」じゃなくて「小島さんだったらどう打つかな?」って、無意識に縛られていたことに気づきました。それは良いことも悪いことも大小までさまざまで、僕の中ではごちゃ混ぜ状態でした。けど、それらをきちんと整理して、小島さんが残してくれた良い部分だけを血肉に変えられたのだと思います。
慎太郎 やはり感情のスポーツだね、麻雀は。全神経を研ぎ澄ましているわけだから、精神の中を整理しなくてはならないということか。
滝沢 競輪も神経をすり減らして駆け引きを行っているので共通すると思います。やっぱり考え方の変化がターニングポイントになると思うんですよね。
ーー今、神経や感情の話が出ました。お二人はともに40代、体力という面ではどうですか? 競輪選手は体力という面に制約がかなりあると思いますが、プロ雀士も健康状態など勝敗に影響しますか?
慎太郎 おもしろいね。これは聞いてみたい。オレたち競輪選手は体力基本みたいなところがあるから、モロに出るのは言わずもがな。麻雀はどうなんでしょう?
滝沢 めちゃくちゃ関係あります。体力とか筋肉とは違うんですが、端的にわかりやすく言うと「二日酔い」では勝てないです。
慎太郎 !!
滝沢 判断スピードとか危機察知能力とか記憶力とか。悪い所があると、対局中の頭の処理が追い付かないんです。切り順を間違えたり、全体の流れを把握したりの“勘”も鈍ります。麻雀は加齢による衰えが少ないとは思いますけど、人によっては加齢の衰えが出てしまうだろうなと思っています。記憶系の処理が特にそう。なので、ケガや病気なども当然気をつけなければいけません。
慎太郎 体力と神経と分けて考えがちだけど、全部つながってるんだね。それはそうと滝沢プロ、オレ長時間麻雀をやると背中が痛くなる。
滝沢 こまめに立つと良いですよ。姿勢も悪くなってしまうので、一回一回リセットすることをおすすめします。背中って(笑)。競輪選手にとって大事な部位じゃないですか。ヤバいと思うので、麻雀を打つ時は早めにはじめて早めに終わってください。
慎太郎 早めにはじめて早めに終わるができない(笑)。最近は麻雀を打つ機会を断ってるけど、そのあたりが切実な理由なんだよね。
ひとつひとつのテーマに応じながらも、慎太郎選手から滝沢プロへ、滝沢プロから慎太郎選手へ質問が飛び、相違する意見があれば考え方を確かめ、自分のフィールドで生かせないか探るようなストイックな一面も見られた。
二人の対談は「20年のキャリアで変わってきた戦術の変化」や「トレンドへの対応」、「5年後の目標」や「ファンへの想い」などに展開していく。
その様子は最終編となる次回、あす30日19時公開の【第3回・完結編】でお届けしたい。
取材・構成:篠塚久(netkeirin編集部)
撮影:Kenji Onose
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佐藤慎太郎
Shintaro Sato
福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。