2019/05/24 (金) 19:03
5月19日に幕を閉じた宇都宮G3ワンダーランドカップ争奪戦は村上義弘(京都73期)が優勝を飾った。村上のG3優勝は通算35回目だが、2019年初優勝だと聞いた時は正直、驚いてしまった。あの村上が5ヶ月以上も優勝から遠ざかっていたのかと思うと、信じることができなかった。
昨年の静岡KEIRIN GPで落車を喫し、2019年初戦の立川記念は欠場を余儀なくされた。その後も大宮G3、高知G3では結果を残せず。迎えた2月の別府G1全日本選抜競輪も未勝利で、決勝に進むこともできなかった。追い打ちをかけたのが直後の玉野G3だろう。初日特選で落車し、肋骨を数ヶ所折る重傷に見舞われた。そして、3月の大垣G2ウイナーズカップから復帰したが、良いところはなく、4日間の戦いを終えた。決して弱音を吐かない村上、体調は十分ではなかったはず。恐らく、ファンのことを考えての強行参戦だったのであろう。
5月の松戸G1日本選手権競輪は二次予選で1勝こそ挙げたが、準決勝で敗退。それから2週間、村上は自らを見つめ直し、宇都宮の地にやってきたに違いない。初日特選は4着ながらも二次予選は1着。準決勝はギリギリながらも3着で決勝へ駒を進める。だが、決勝進出メンバーの中に近畿の仲間は誰一人としていなかった。ただ、逆にそれが責任感の人一倍強い村上にとってプラスに作用したかも知れない。南関4車ラインと地元勢がゴチャついたところでの浅井康太(三重90期)の捲りにスイッチし、最後の直線で交わした。昨年10月の千葉G3(in 松戸)も単騎での優勝だったが、それ以来の美酒に酔いしれたのだ。
優勝者インタビューでは「ファンの声援が背中を押してくれた」と、村上が薄っすら涙を浮かべているように見えたのは筆者だけであろうか?そう、この優勝は単なる記念競輪での優勝ではなく、後半戦へ繋がるもの。村上の反転攻勢の優勝でもあったのだ。
“魂の走り”__最近はこのフレーズを聞かなくなった。“魂の走り”とは村上の自力勝負、先行勝負のことだと捉えているファンは多い。しかし、近年は近畿地区の若手が台頭し、なかなか村上の自力勝負が見られなくなった。だから、このフレーズが使われなくなったのかも知れない。でも、それはおかしな話である。村上の走りそのものが“魂の走り”であって、戦法に左右されるものではないだろう。仮に追い込み勝負になっても、村上の走りはハッキリと、魂を感じ取ることができる。勝ちレースだけでなく、負けたレースであっても、その“魂の走り”は存分に伝わってくるのである。要するに最後まで決して諦めない姿勢、それが村上のレースに表れているのだ。今回の決勝は追い込みだったが、直線でゴールに向かう彼の表情は鬼気迫るものがあった。あの顔、あの顔が村上義弘なのだと、改めて感じて、ゴールシーンの後は筆者の頬にも自然と涙が伝った。
例年の村上はグランプリの勢いのまま1月から春先までは好調を持続している。初夏から秋まではどちらかと言うと、やや調子を落としているイメージがある。そして、グランプリへ向けて徐々に調子を上げていくのが、彼のスタイルだと、筆者は思っている。であるが、それが今年は当てはまらないようだ。
6月には地元地区でもある岸和田G1高松宮記念杯が開催される。負のイメージを持ったままではなく、勝のイメージを持って臨める。勝っても、負けても、村上義弘は村上義弘だろう。彼の走りを見る度に、自分ももっと頑張ろう!と、強く思わされる。きっとそれは自分だけでなく、数多くのファンもそうであるに違いない。
岩井範一
Perfecta Naviの競輪ライター