山田裕仁のスゴいレース回顧

【岸和田キング争覇戦in和歌山 回顧】滅私の逃げが呼び込んだ“仲間”の優勝

2021/01/13 (水) 18:00 1

不利を承知で逃げた才迫選手(8番車)のレース運びが松浦選手(2番車)の勝利を呼び込む

2021年1月12日 和歌山12R 岸和田キング争覇戦in和歌山(GIII・最終日)S級決勝

左から車番、選手名、期別、府県、年齢

①和田健太郎(87期=千葉・39歳)
②松浦悠士(98期=広島・30歳)
③稲川翔(90期=大阪・35歳)
④和田真久留(99期=神奈川・29歳)
⑤浅井康太(90期=三重・36歳)
⑥恩田淳平(100期=群馬・30歳)
⑦小松崎大地(99期=福島・38歳)
⑧才迫開(101期=広島・28歳)
⑨守澤太志(96期=秋田・35歳)

【並び】
←⑤⑥(混成)⑦⑨(北日本)④①(南関東)⑧②(中国)③(単騎)

【結果】
1着 ②松浦悠士
2着 ③稲川翔
3着 ①和田健太郎
※3位に入線した浅井康太選手は失格となりました。

 全国各地で記念が立て続けに行われるこの時期。1月12日には、和歌山競輪場の開設71周年記念「岸和田キング争覇戦in和歌山」の決勝戦が行われました。昨年のグランプリ覇者である和田健太郎選手(87期=千葉・39歳)など、S級S班の3選手がここから始動。その全員が勝ち上がり、決勝戦に駒を進めています。

 4分戦となった決勝戦を制したのは、松浦悠士選手(98期=広島・30歳)。グランプリ明けで調整の難しいシリーズとなりましたが、同県の後輩である才迫開選手(101期=広島・28歳)の果敢な先行の助力もあって、2021年の好スタートを決めましたね。2着に、初手から松浦選手の後ろを取りにいった地元の稲川翔選手(90期=大阪・35歳)。そして、3着が和田健太郎選手(87期=千葉・39歳)という結果でした。

 まずは、優勝した松浦選手について。各メディアで何度も取りあげられていましたが、やはり調子はよくなかったですよ。二次予選や準決勝にしても、番組などに助けられて、なんとか勝ち上がったという内容です。尻上がりに調子を上げたーーといった印象もなく、最後まで調子が上がらなかったというのが実際のところでしょう。

 それだけに、才迫選手が決勝に乗ってくれたのが非常に大きかった。才迫選手が勝ち上がらず、松浦選手が自力で勝負するレースになっていたら、あのデキでは好勝負に持ち込めなかったことでしょう。しかも、連携した才迫選手は不利を承知で果敢に逃げて、松浦選手が勝つための展開を作り出している。デキが本物ではない松浦選手が優勝できたのは、才迫選手がチームプレイに徹してくれたおかげです。

 ではなぜ才迫選手は、自分が残れないような展開を作りにいったのか?

 簡潔にいえば、競輪とは人の“絆”で成り立っているものだからです。同地区、同県、普段からの練習仲間、師弟といった「チーム」があり、時には自分を捨てて、仲間のために走る。ここが、他のスポーツや公営競技とは大きく異なる点で、そして競輪の面白さでもあるんです。初心者さんにとって、もっとも理解が難しいところでもあるでしょうけど(笑)。

 もちろん、誰だって自分が勝ちたい。競輪選手ならば誰もが真っ先に「自分がどう戦えば勝てるか」を考えます。とはいえ、この決勝戦のメンバーで自力勝負となると、いくら自分が好調だといっても、勝つのは厳しい。残念ながら現状の力では、捲る競輪で一発勝負をしても優勝争いは難しいだろうーーと、才迫選手は冷静に分析していたと思います。

 だからここは、“仲間”である松浦選手のために逃げた。才迫選手が松浦選手のために先行するであろうことは、レース前のコメントからも十分に予測できました。赤板(残り2周)過ぎから和田真久留選手(99期=神奈川・29歳)が前を切ると、それに合わせて動いていって、打鐘から果敢に先行。そして、最終バックから松浦選手が番手捲り。3コーナーで外を回ると厳しい和歌山バンクで、しかも後方がもつれている。この時点で、大勢は決したといえます。

 あとは、松浦選手がそのまま押し切るか、その後ろについていた稲川選手が差すかという争い。稲川選手が、松浦選手の後ろを初手から迷わず選択したのも、才迫選手が逃げるという読みがあってのことでしょう。ここで、もつれる後方から外を回ってグングン迫ってきたのが、浅井康太選手(90期=三重・36歳)。最終2コーナーから直線まで、稲川選手とのせめぎ合いとなりました。

 これも結果的に、松浦選手にとっての「追い風」となりましたね。あそこで浅井選手が絡んでこなければ、稲川選手が勝っていたかもしれません。そして、もっとも厳しい展開となったのが、連携した和田真久留選手がインで詰まってしまった和田健太郎選手。調子がよかったとはいえ、そこから立て直して3着にまで差を詰めてきたあたりに、前年グランプリ覇者が持つ“強さ”が感じられました。

 調子のよさが勝敗を分けるシリーズもあれば、調子が悪くとも展開がうまく噛み合って、勝てるシリーズもある。これが、人間が主役である競輪という競技の面白さで、同時に難しさでもあります。この「展開を読む」という競輪の面白さや醍醐味を、もっと多くの方に知ってもらいたい。少しでもそのお手伝いができるような内容を、今後も皆さんにお伝えしていきたいですね。

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山田裕仁のスゴいレース回顧

山田裕仁

Yamada Yuji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。

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