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脇本雄太の競輪無双十三面待ち 〜そして伝説へ〜

【脇本雄太連載コラム】故障も含めて想像つかない人生を楽しみたい

2021/11/17 (水) 18:00 36

 世界で3例目という複雑な場所にある骨を痛め、競輪祭の出場が叶わなかった脇本雄太。先行日本一の看板を誇り、世界の頂点に挑んだ。東京五輪での金メダル獲得はならなかったが、まだやるべきことは残っている。今は雌伏の時。もう一度、高く羽ばたくために…。あの平原康多が「輪史最強」と評する男が、netkeirinコラムに登場。世界一の愛妻家が、口を開く。(取材・構成:netkeirin編集部)

今は雌伏の時。まずは故障を完治させて来年は新たな伝説を作る(撮影:島尻譲)

 18日の競輪祭開幕を前に重度の腰痛と戦っていた。「やれる治療はすべてやった」。ナショナルチームのドクターに診てもらい、また紹介してもらった病院に通い「仙腸関節の炎症のようで…」。骨盤と脊椎を結ぶ、体のど真ん中。手術も含め、これをすれば治るといった治療方法も見つからないまま、「時間かな…」と最善を尽くして体調を整えてきた。

「五輪の反動ですかね。その後、休みなく走ったのも…。五輪は完璧に仕上げたし。終わってすぐ肉体的にも精神的にも疲労がたまった中で走ったからかな」

 体は耐えてくれている。競輪祭出場を決め、準備していたその時、見つかった。「医師から『世界で3例目の症状です』って。えっ?」。仙腸関節の隣にある骨が「大まかに言うと疲労骨折」。競輪祭はもちろん欠場、いや年内休養が必須…。それどころか「復帰の目処も立たない」。しかし、目の前が、明るい。

「想像もつかない人生になっていると思いますよ。ハハハッ(笑)」

東京五輪から中1日で臨んだオールスター競輪(GI)は2着に終わった(黒帽が脇本選手)(撮影:島尻譲)

 あどけない中学生の自分が目の前にいる。中学時代は科学部。「子供たちが喜ぶ実験とかをやってましたね。スライムを作ったり」。活動できない冬場は「パソコンをいじってました」。その時のワッキー少年には、思いもよらない道を今、歩んでいる。「運動も全くしてなかったし、やったとしても体育の授業くらいですよ。走るのも速くなかったから」。何の変哲もない時が流れていた。

 科学部だった延長で、選んだ高校は科学技術高校。「大人になったら科学系の工場で働くんだろうな」というぼんやりとした新入生は、友達の勧めで自転車部に入部した。「高1の時にタイムが出たらしくて、『うわっ速え〜ヤツがきた』みたいになったんですよ。個人追い抜きで。自分ではよく分からなかったんですけど」。どれくらいのタイムがすごいのかすら、知らなかった。

「おきなさい わたしのかわいい ワッキーや…」

 自転車の神様が、声をかけた。走るのも、ボールを投げるのも苦手だったが、自転車だけは別だった。高校2、3年生の時に国体の1kmタイムトライアルを連覇。「2年生から意識し出して、3年生では確実になろうと思った」と競輪選手への道を突き進んだ。世界一になるという母との約束もできた。阿修羅のような男たちの世界に飛び込み、何度も打ちのめされ、倒れ、でも絶対に立ち上がった。出会った様々な人たちに磨かれてきた。

「村上さんがぶっちぎりで一番」……。「市田さんとは高2の時に一緒に練習した」。「今の若い人たちに会いたいですね。高校生とか、福井競輪場で練習していると思うんで」。……。「イナショーさんはおじいちゃんみたいになってました(笑い)」。「オリンピックが終わってから、そう思うようになったんです」。「ブノワ、ですか。ブノワは、ハイブリッドです」……。

 脇本雄太を作り上げた色んなものがある。「競輪人生で一番収穫のあった5年間でした」。1年の延期という地獄を含んだリオ五輪から東京五輪までの5年間。戦う自分を見つめ続けていた。今の自分には、自分の言葉で伝えないといけない何かがあふれている。

選手生命を削り金メダルを目指して走った東京五輪(写真:共同通信社)

 常に文字数は足りないだろう。それだけの、この男の人生が、生きてきた道がある。当コラムを道しるべにして、その歩んできた道、これから切り開いていく道を、ファンのみんなと一緒に歩んでいきたい。「オレはこれくらいじゃへこたれないんで」。再度、書く。目の前は明るい。

「原因が分かったことが一番。一走してダメでした…とか不安があったんで。スッキリした。妻も心配してくれていたけど『原因が分かってよかったじゃない』って笑ってました。この時間に福井にも帰れるし、やれることはたくさんある。やりたいこともかな、麻雀とか(笑)」

 コラムのタイトルは「ワッキーやったら、これしかないでしょ!」と中川誠一郎が考案したもの。競輪無双十三面待ち。ツモる牌の一つひとつが、新たな伝説の礎となる。

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脇本雄太

Yuta Wakimoto

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年福井県福井市生まれ、日本競輪学校94期卒。競輪では特別競輪9勝、20年最優秀選手賞を受賞。自転車競技ではリオ、東京と2度オリンピック出場、20年世界選手権銀メダル獲得。ナショナルチームで鍛えられた世界レベルの脚力とメンタルは競輪ファンからの信頼も厚く、他の競輪選手たちに大きな刺激を与えている。プライベートではゲーム・コーヒー・麻雀など多彩な趣味の持ち主。愛称は”ワッキー”。

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