アプリ限定 2025/12/09 (火) 18:00 14
「もう、自分は選手でいちゃいけないんだな」ーー。競輪界最年長の現役レーサーとして走り続けた佐古雅俊さんが、静かに放ったその一言。競輪を愛し、仲間の成長を喜び、そして最後までロマンを追い続けた63歳の勝負師。取材した担当編集者が「魂が震えた」と語る、その瞬間を通してーーひとりの競輪選手の生き様を見つめ直す。
ーー佐古雅俊さんを取材したいと思ったきっかけは?
今現在のトップ選手や話題のレースに焦点を当てる記事が多かったネットケイリンですが、長い競輪の歴史を作ってきた方々にスポットライトを当てる企画をしたいと思っていたんです。そのなかで、当時、現役最年長選手だった佐古雅俊さんの存在は、まさに“生きる伝説”でした。
60歳を超えてなお戦い続ける姿はまるで企業戦士のようで、日々頑張る社会人にも勇気を与えてくれる存在だと感じていました。小柄な身体で63歳まで現役を貫く姿勢は、「人は年齢を超えて挑戦し続けられる」というメッセージそのものでした。
点数が取れず苦しい時期の引退というセンシティブな状況のなかで、勝負師としてどう生きてきたのかを穏やかに語ってくださってーー魂が震えたんです。
ーーストイックで豪快な競輪人生を前後編で伝えています。
前編は、引退直後というタイミングで、まず“最後のレースを走り抜いた瞬間”を中心に描きました。なぜ辞める決断をしたのか、どんな心境でレースを終えたのかーーそのシリアスな部分に正面から迫っています。
一方で後編は、43年の競輪人生全体を振り返り、世界選手権出場や現金で高級車を買った豪快なエピソードなど、「佐古さんという人間の全貌」を伝える内容にしました。前後編を通して佐古さんの“勝負師の生き様”に触れていただけると思います。
ーー印象に残ったエピソードを教えてください。
やはり「引退を決めた瞬間」の言葉です。「自分はもう選手でいたらいけないんだなと思った」と、切ない表情で話してくださいました。
心臓に持病を抱えながらも「7着になるところを6着が獲れる自信があれば続けていた」といいます。しかし、その日のレースで自分が設定する「勝負師としてのレベル」に達していないと悟ってしまった。それで代謝制度の成績審査期間を終える前に、現役から身を引いたんですね。
単なる勝敗ではなく、“自分の戦い方ができなくなった”という潔さに胸を打たれました。
ーー「競輪人生で一番嬉しかった瞬間は?」の答えが意外なものだったとか。
「仲間の成長を喜べるようになったこと」と答えてくださいました。質問をしたときは、世界選手権出場や大きな勝利を挙げるのではないかと思っていたんです。
かつては自分一人で練習する“孤高の勝負師”だった。それが後年、男女混合の練習グループを立ち上げ、仲間の結果を一緒に喜ぶように。勝負だけでなく“人としての成長”を大切にしているところに感銘を受けました。
ーー取材当日はどんな雰囲気だったんですか?
佐古さんはスーツ姿で登場してくれました。後日伺ったところ「せっかく取り上げてもらうのだから、ビシッとした姿を見せないと」と笑ってくださり、その気持ちがとても嬉しかったです。63歳の引退後とは思えないほど、背筋が伸びた姿が格好良かったですね。初対面でしたがとてもフレンドリーに場を和ませてくださり、どんな質問にも丁寧に、気さくに答えてくれました。
それから、佐古さんの“手”の存在感が忘れられなくて…。「これが43年戦ってきた人の手なのか」と。穏やかな表情との対比も印象的でした。
ーー公開後の反響はとても大きかったです。
本当に大きかったです。X(旧Twitter)では引用リプライが相次ぎ、「泣けた」「かっこいい人だ」といった声が多く届きました。佐古さんの生き様が、ファンの方々に深く伝わったのを感じました。
競輪を知らない方からも「こんなすごい人がいたんですね」というコメントがあったんですよ。このインタビューを通じて競輪の魅力に触れていただけたなら、本当に嬉しいことです。
ーー佐古さんが口にした“ロマン”という言葉も印象的です。
「競輪というロマンに生きることができて幸せ」と語ってくださった言葉が忘れられません。
若いころは“頂点を目指す夢”がロマンだった。でも年齢を重ねるなかで、7着を6着にすることに自分の成長ーーすなわちロマンを見出すようになった。
“今の自分の中にロマンを見つける”という柔軟さが、佐古さんを長く現役でいさせた理由だと思います。どんな自分だってロマンを掲げることができるーーとても大切なことを教わりました。
ーー佐古さんの生き様に感銘を受けるファンが多いのはなぜでしょう。
競輪選手って、私たちと同じように“年を重ねながら戦う”姿を見せてくれる存在なんです。
野球などメジャースポーツの華々しさも素晴らしいですが、男女合わせて2,000人以上いる競輪選手はいわゆる“スポーツエリート”ばかりではなく、いろんな境遇の人たちが同じバンクで戦っています。そこには夢物語ではなく現実の中で挑み続ける姿がある。だからこそ共感できるのではないでしょうか。
佐古さんの言葉や生き方は、社会人として現実世界を生きる私たちにも通じるものがあると感じました。壁にぶつかったとき、心が折れそうになった時に読んでいただけたら、きっと背中を押してもらえると思います。佐古さんが座右の銘として教えてくれたふたつの言葉ーー、“人と比べるな”、“自分の成長を喜べ”は、今も私の「心のお守り」になっています。
「佐古さんのように“柔軟にロマンを見つけて生きる”人に出会えて、自分の中にある情熱が呼び起こされた」と担当編集は語る。
勝負の世界で己を見つめ続けた63歳の競輪選手ーーその姿は、読む者に静かな勇気を与えてくれる。
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netkeirin編集部
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