アプリ限定 2025/12/11 (木) 12:00 20
2023年1月、ガールズケイリン120期生の3名が、わずか1年半で競輪界を去った。そのうちのひとり、濱野咲さんのラストランが行われたのは、KEIRINグランプリと同じ日。競輪界が1年で最も熱く沸くその裏で、「引退」というもう一つのドラマが静かに幕を閉じていた。
ーーこの特集を企画したきっかけを教えてください。
120期の3名がストレートで代謝(引退)したというのは、競輪界にとってセンセーショナルな出来事でした。彼女たちのデビューからラストランまで、つまり「入り口から出口まで」を描くことで、 競輪で生きる人たちの人生の光と影を伝えたいと思ったんです。
濱野さんとはルーキーイヤーから連載で関わっていました。 だからこそ、デビューを描いてラストを描かないのは“筋が通らない”と感じました。 わずか1年半という短い期間の中で、何を考え、何を掴んで去っていったのか。 その軌跡を、きちんと残したかったんです。
ーーラストラン当日はKEIRINグランプリと同日だったそうですね。
はい。ですが、「行かない」という選択肢は最初からありませんでした。濱野さんの最後のレースを見届けなければ、という気持ちが強かった。
立川競輪場は独特な高揚感に包まれていました。濱野さん以外にもラストランを迎える選手や生き残りをかけた選手がいて、喜怒哀楽をあらわにする選手もいました。それぞれが“人生を懸けて走る”一日だったと思います。
特に印象的だったのは、ライバルであるはずの選手たちが、濱野さんが悔いを残さず走り切れるよう、全員で背中を押すように見守っていたことです。レース後には花束を渡し、拍手で送り出す姿がありました。あの日は、勝ち負けを超えた“人と人との絆”がありました。
ーー現地で感じたことを教えてください。
最初は「涙のラストラン」になるかもしれないと思っていました。けれど、実際の濱野さんはいつも通り明るく、最後まで笑顔で走りきった。netkeirinで一緒に連載してくださっていた、同期の本多優選手も最後まで明るく振る舞っていて、“彼女らしい”終わり方だったなと感じました。
終わった瞬間に、「想像していたものとは違う」と思いました。ドラマチックな悲しみではなく、清々しいラストラン。それが勝負の世界に飛び込んだ彼女の生き様であり、ガールズケイリンという世界を象徴しているように思いました。
ーー記事には、同期たちのメッセージも印象的に使われていました。
はい。今回の記事では、濱野さんだけでなく、同じ120期で苦楽を共にした仲間たちの声を重ねました。構成のイメージは“卒業アルバムの寄せ書き”。同じ時間を過ごした仲間だからこそ言える言葉を、丁寧に拾いました。
その5人のメッセージは、どれも力強く、温かいものでした。このメッセージを入れることで、記事全体が一気に“人の温度”を帯びました。勝負の世界の厳しさの中にある、仲間との絆や優しさ。競輪という舞台の“人間らしさ”を最も感じた瞬間でした。
ーー「代謝」というセンシティブなテーマを扱ううえで、意識したことはありますか?
「引退」は、競輪の世界に生きる限り、避けて通れない現実です。 ただ、その瞬間をどう描くかは、取材する側の責任でもあります。
3人とも、覚悟を持って競輪の世界に飛び込んできた人たちでした。だからこそ、去る者としての姿を“哀しみ”ではなく“敬意”で描きたいと思いました。
この企画が成立したのは、3人が真っ直ぐに向き合ってくれたからです。それは何よりもありがたいことでした。
ーーYahoo!ニュースでは歴代最高PVを記録し、スポーツカテゴリでもランキング1位を獲得。公開後の反響も非常に大きかったと伺っています。
想像を超える反響でした。コメント欄には「よく頑張った」「人生の続きを応援したい」という声が多く、競輪ファンだけでなく、競輪を知らない人たちにも届いたのが嬉しかったです。
まだ20歳の女子選手がわずか1年半で去っていくという、 厳しい世界を正面から伝えることで、逆に“人間の温度”を感じてもらえたのではと思います。
ーー「去る者を描く」というテーマには、どんな思いがありますか?
勝つ人を描くのと同じくらい、去る人を描くことにも意味があると思っています。勝負の世界では、スポットライトが当たるのはほんの一握り。けれども、その影に去っていく人たちの努力や想いがあります。
引退は“終わり”ではなく、“新しい始まり”。去る人の姿を描くことは、次に挑む人たちへのメッセージでもある。そして、その姿を広く届けることが、メディアとしての使命だと思います。
ーーこの特集を通して伝えたかったメッセージは?
競輪は予想や結果だけの世界ではありません。走る人、支える人、そのすべてに物語があります。勝ち負けの先にある“人間ドラマ”を伝えることで、競輪の魅力をより深く感じてもらえるのではないかと思っています。
去る人の姿に、前へ進む力がある。その瞬間を記録し、次の誰かへつなぐ。それが、netkeirinというメディアの役割だと信じています。
ーー濱野さんは現在、公営競技の配信番組などで活躍されています。
はい。当時はまだ次のステージが決まっていませんでしたが、今は多方面で活躍されていて、毎日のように彼女の名前を見かけます。
その姿を見ると、「引退は終わりではなく、未来をつむぐ始まり」だと改めて感じます。チャレンジを続ける姿勢こそ、濱野さんらしさ。あの笑顔のまま、彼女は今も前を向いていると思います。
去る者の背中には、未来が映っている。勝負の世界で散ったとしても、それは敗北ではなく「次の扉を開くこと」。そして、その瞬間を見届け、記録するのが、メディアの使命だ。
netkeirinはこれからも、勝者の栄光だけでなく、去る者、支える者ーーすべての人間が織りなす“競輪”を描き続けていく。
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【濱野咲・堀田萌那・堀井美咲】わずか1年半で競輪界を去った120期生三人が今思うこと
netkeirin編集部
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