2025/07/17 (木) 12:00 25
宇野駅を降りると、海が見えるわけでーー。マルナカを通り過ぎてぶらぶらと歩いていくと、左手にまた海が見えてきて、それが綺麗なわけで。ここの海の色の鮮やかさに、島々が浮かび上がっている。右手には、戦場。
玉野競輪場で7月18〜21日の4日間、「第21回サマーナイトフェスティバル(GII)」が開催される。美しい瀬戸内海を抱えながら、3日制から4日制へとさらに進化した大会が開かれる。「HOTEL10」が併設され、近代的なバンクに生まれ変わった玉野競輪場で、競輪界は2025年の後半戦に突入する。
優勝賞金は昨年大会の倍近くとなり3100万円(副賞含む)。参加選手数と日程の延長でその格は上がった。当初は2日制、9個レース制だったわけだが、夏は盛る。
時は来た、と夏が告げる。
S級S班の9選手や、強豪たちが大挙参戦。地元の太田海也(25歳・岡山=121期)も走る。だが、主役はこの男だ。父は取鳥敬一(53歳・岡山=69期)。武骨な父の血を引くのはユウゴ。取鳥雄吾(30歳・岡山=107期)の長い4日間が始まる。
父親が競輪選手でも学生時代は帰宅部。運動部で鍛えられたガチムチ感はない。30歳になっても笑顔がかわいいヤツなのだが、この大会を機にユウゴはガチムチになる。今までのレースがそうであり、また地元記念での戦いぶりが拍車をかけて、この大会は、と迫ってくる。
「ユウゴ!」
聞こえるか。この玉野で何度も何度も、大きな、大きな声が、かけられてきた。「今回は、お前の番だ」。今、このコラムが更新されるときは前検日。ファンの胸の内の声がある。そしてそれは、中四国の選手の仲間たちの胸にも…。
3月の玉野記念(瀬戸の王子杯争奪戦)では中四国の選手が5車だったことで、地元の3人と犬伏湧也(29歳・徳島=119期)ー松浦悠士(34歳・広島=98期)と別線になった。犬伏の番手…ということも考えられたが、その時は別線で戦い、ユウゴは犬伏を叩いて駆けた。
岡山の内藤敦(49歳・岡山=80期)支部長は「30年くらい競輪を見てきて、あのレースは、ユウゴの走りは…」と胸に迫るものがあったという。両の奥歯を噛みしめれば血がにじんでくる。涙すら出ない。そんな戦いがあった。
ユウゴが刻んできた戦いの跡がある。
太田が頭角を現してきた時、ユウゴに「海也の番手で地元記念優勝のチャンスがありそうだね」と話したことがあるが、答えは「いや、自分の力で取ります」だった。そこから何年か経ち、3月の決勝の戦いもあった。今、ユウゴの「自分の力」とはただラインの先頭で、自力で、を意味しない。
ラインの力で勝つことこそ、取鳥雄吾の自分の力だ。ユウゴの自分の力は大きく広がっている。大きな意味を持つようになっている。清水裕友(30歳・山口=105期)もいる。強い日差しは瀬戸内の海を真っ白に輝かせる。その夜、羽ばたく星が放つ色を教えてくれ。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。